第二部・護衛騎士に口説かれ、闇魔法の大家に『一緒に来ないか』と誘われたけれど、最推しを盾に全力で断固拒否します。
「セルシアナエリーゼ様、ご無事ですか?!」
「ええ、私は大丈夫。
よくやってくれたわ。ヨハネス」
何故か、私をガン見しながら微笑んでくるヨハネスだわ。
ええと、どうしたのかしら?何か悪い物でも食べたの?
「いえ、貴方様の青薔薇の加護があればこそ……」
「ぴえっ?!」
そうキザな台詞を吐いて、またサラッと私の手の甲に口づけてこないでくれる?!
それはそれとして、私はヨハネスに祝福的なものを与えてないわよね?
……まさか、あの小倉あんトーストかな?そんな馬鹿な。
「……ところで、ヨハネス。青薔薇の加護って何かしら?
心当たりないのだけれど」
「貴方に出会えた事こそが、俺の最大の祝福で青薔薇の加護ですよ」
ひえぇ……!何よこれ、告白かな!?
あの気真面目なヨハネスから、そんな甘い言葉が出てきたり、甘いマスク出来るの?!気不味い。
さらに言及すると、幻術が発動する直前、ヨハネスの手に触れたせいか、ヨハネスの幻術の内容を所々見ちゃったのよね……うん、気不味いわ。
特にシスター・ソフィアさん関連のあれこれがね……クッソ重いし、非常に気不味いわ。
一方、カメリアはげんなりとした様子ね。
「……もう最悪。
実家の屋敷で、叔母様とカナリアに面倒向かって悪口を言われたい放題だったのを思い出したわ……」
アレクセイ様はトラウマを思い出してしまったのか。
「セラフィーナお母様が、お父様が……
ベルツのお屋敷が燃えてしまう……!
そうだ、カメリアは大丈夫だった!?」
アレクセイ様は動揺して、残念なポンコツになっているわね……。
ゲームでの少し皮肉屋でシニカルなイケメン将軍は何処に行ったの?
「それに、セルシアナエリーゼ様は平気なのですか……?」
「私は平気でしたわ。
グラン様は大丈夫でしたか?」
本当は一瞬だけ、あのリオを助け出した修羅場と、あの舞踏会での婚約破棄のシーンを見せられたけれどもね。
……今だにあれはトラウマだわ。オタクなのに公式のシナリオを壊してしまった点に置いて……!
一方、グランくんは不思議そうなお顔で首を傾げて。
「……ああ、あれか。
親父の葬儀で、親戚にやいのやいの言われたのを思い出したが。
まあ、些事だろう。大した事ではないさ。
あの幻術、大丈夫と聞かれる程ショックなものだったのか?」
……ええ?本当に?
メンタル強すぎじゃないかしら、この人。鋼の精神かな?
アレクセイ様は、そんなグラン様を訝しんで尋ねるわ。
「グラン。闇魔法や魔術に詳しいな。
貴様、何者だ?」
グラン様は素朴なのか、不思議そうに答える。
「大したものではない。
ただのシルバーナ様付きの騎士だが」
ヨハネスはため息をついて。
「隠すなよ、グラン・ルクス。
ドルンゲンの旧家、それも闇魔法の大家ルクス家の血筋だろう?」
隠すも何も、ルクスって直球で名乗ってますわよね。
確かドルンゲン貴族には序列されていないけれど、旧家という由緒正しいお家だったはず。
それも闇魔法の大家、リオの祖母マダム・アルディの師匠筋よね。
グラン様は気不味そうな顔をして、視線を落とすわ。
「……いや、親父は早くに亡くなって、母さんもその手の話には口が固くてな。
残念ながら、本当に詳しくは知らないんだ。
多分親父が苦労したのか、オレには一般人として暮らして欲しかったのだろうがろ…。
一応、お隣だからとルクス家の私塾には通っていた。
まあ、闇魔法なら一通りおさめた」
グラン様が闇魔法使い?
確か、オタ友からグラン様のトゥルーエンドでそんな設定が出てくると聞いたような覚えがあるわ。
ふと、グラン様は懐かしそうに微笑むわ。
「光と闇の魔法は互いに相殺し合うものではない。
古代の神話の光と闇の神々がチェスの試合をする様に、お互いを必要とするものだ。
そうオレは教わったよ。
そうだな、先生の家では柔軟に偏見なく、物事を大局的に見なさいと教えられたな」
グラン様は、不意に私の瞳を見つめるわ。
えっ?何故?私、何か不味い事かしたかしら?
「セルシアナエリーゼ。
貴方の青薔薇の魔法とは、四大属性と闇光の上位属性魔法も全て兼ね備えた、草花の魔法の上位魔法だ。
……セルシアナエリーゼ、貴方の青薔薇はそれだよ」
ええと、なんか凄い設定盛られたな?!
私、元々はただの悪役令嬢で死亡エンドするはずだったのよ?
なのに、死亡回避しただけで、こんな神輿に担がれる様な勢いのチート扱いされるの?
「……いくらなんでも、持ち上げ過ぎじゃない?」
「まあ……いきなりそう言われても実感もないし、本当かどうか疑うのは、当然の反応だろう。
古代の魔法使いは、詠唱すらせず、無意識に使っていたのさ。
セルシアナエリーゼ、先程の貴方と同様にな。
ルクスの家なら貴方を導ける。
青薔薇の聖女、セルシアナエリーゼ。
オレと一緒にルクスへ来ないか?」
優しく微笑んで、グラン様は私に手を差し伸べるわ。
……あっ?!これはいけないフラグよね。
「……わ、私にはリオという先約がありましてよ?」
ナチュラルな口説き文句に、最推しのリオを盾にして封殺するわ。
そういえば、グラン✕カメリアルートもこんな感じのルート分岐だったってオタ友に聞いたわね……!
チラッとヨハネスの方を見てしまう。
あんな事言われたら、ちょっと意識しちゃうじゃない……!
「グラン、控えろ。お嬢様を困らせるな」
「そうよ、グラン様。貴方にはシルバーナ様という大切な方が……!」
ヨハネスがサッと止めに入ってくれた。助かったわ。
グラン様は少し寂しそうに微笑んでいるわ。
元悪役令嬢の私がモテでも嬉しくないのよ。
今作のヒロインを、カメリアの方を溺愛してくれないかな?
「青薔薇の魔法ってやはり凄いのね」
あのね、カメリア?
そんなフォローいいから、恋愛イベントをこなしてくれる?
ロジーといい、カメリアといい、何でこの世界のヒロインは役割をこなしてくれないのよ。
私に尊みを下さい!
ふと、破壊されたパペッティアに視線を落とすわ。
……それにしても、お人形か。
私も前世を思い出す前は、地位や名誉に目が眩んでいたのかもね。
王族に取り入りたい親の野心を真に受けて、愚行を繰り返す、それこそ哀れな操り人形の様に見えていたのかな。
「……破壊したパペッティアを、埋葬しましょう。
教会に許可を取ってきます」
そう言って、教会の方へ歩き出すヨハネス。
「……おやすみ、パペッティア。俺もお前も、もう誰かの代わりのお人形じゃないんだ」
小さな声で呟いた後、ひばりの歌を口ずさむヨハネス。
もし人形にも転生出来る魂があるのならば、今度は自由に生きて欲しいわね。
そのヨハネスの横顔は、なんだかいつもと違って切なく見えたわ。




