第二部・お人形の様なお嬢さんに嘘を見抜かれました。
カメリアの墓参りで遭遇した少女は、かなり印象的だったわ。
人とは思えない白銀の髪に、白磁の様に青ざめた肌。
喪服のような黒いドレスに、小さな黒いトーク帽とデコルテまで隠すベール。
瞬き一つ見せない、ガラス玉の様な美しい瞳の少女。
人非ざるものが人の真似事をしている……そんな歪な印象を受けるわ。
「ごきげんよう。
青薔薇の聖女のお嬢さん。それに剣舞う椿姫も。
光の聖女はお休みかしら?」
無邪気な少女の声に、ふわりと舞う百合の香りが漂うわ。
その姿とは相反して、私達は一切名乗ってないのに正体をピタリと当ててくるわね。
この子、魔力探知能力に優れているのかしら。
例えば……敵国の魔法使いを掃討する為、とか?
ガラス玉の様な瞳は、アレクセイ様とシルバーナ・フローリア姉妹を一瞥するわ。
「ふぅん。
ドルンゲンの始祖雷帝の魔力を引く者たちね。
昔と違って仲睦まじいのね、いつも一緒なの?」
アレクセイ様はすかさず、シルバーナ様とフローリア嬢を背中で庇うわ。
「……シルバーナ様、フローリア嬢。
お先に行ってください」
「ええ、お気をつけて。
……あれは多分、噂の魔術人形クークルでしょう」
ものすごく嫌な予感がしますわ。
「ユーリエフスカヤ公爵家の銀の姫、花の姫はもうお帰りなの?残念だわ。
そこの闇魔法使い、大家の宗主はお元気かしら?
あそこは魔術を快く思ってなかったようだけれど」
「……魔術?」
私が問うも、アレクセイ様が説明してくれるわ。
「……亜流の魔法みたいなものです。
エーテルを含む触媒を多く使い、人為的に魔法を再現する学術ですね。
ローズベルでは……あまり馴染みがないかもしれませんが。
魔法使いからは、魔法の使えなかった落ちこぼれがなるものと軽んじられています」
み、耳が痛いわ……。
私も一時期、魔法の使えない落ちこぼれとして王宮や学園で扱われていたから。
「ごきげんよう、お人形の様に素敵なお嬢さん。
名乗るのが遅くなってしまいましたわ。
私、セルシアナエリーゼと申します」
「アタシはパペッティア=グリモワール。
マスターに名付けてもらったの」
彼女がそう名乗った瞬間、近くの林でさえずっていた鳥の声が聞こえなくなったわ。
パペッティアって……人形使いを指した名前じゃない。
それにグリモワールって、偽書って意味よね?
なんて皮肉な名前付けているのよ?
「ねぇ青薔薇?一緒に遊ぼう?」
ガラス玉の様に無機質な瞳が、ギラリと輝いたわ。
「……何を仰っているのか、分かりかねますわ」
「貴方、不可思議な魔力をしているのね?
青薔薇や、ローズベルの水の精霊だけじゃない。
この世界のものではない加護も受けているのかしら。だから魔力が噛み合っていない」
この世界のものではないって……前世?
でも日本に魔力なんてファンタジーなものはあるのかしら。
別の歴史ゲーの推しの墓参りとか、関係ありそうな神社仏閣巡りしたけど……流石に違うかぁ。懐かしい。
「さあ?心当たりなどございませんわ」
ふと見ると、アレクセイ様が青ざめているわ。
「……おかしい。あり得ない。
何故、あの人形からセラフィーナお母様の魔力の気配が……?!」
「アタシに魔力をくれた人?懐かしい。
貴方も同じ匂い、するね。
ねぇ?雷帝の子孫」
凍りつくアレクセイ様。
「待て、何を言っている……?」
アレクセイ様は息を呑むわ。
「……そんな馬鹿な?!
お母様が魔術の実験材料にされたと言うことなのか?!」
「お嬢様!アレクセイ様!ご無事ですか?」
こちらの様子に気がついたのか、ヨハネスが駆けつけてくれたわ。
パペッティアは、そんなヨハネスに迫って。
「……あら?異種が混じってる。
みなし子から聖職者?」
「まあ、そんな所だ」
「いえ、王族から祝福……ロザリオを受け渡された?」
ヨハネスの首元から、翡翠とブロンズの華奢なロザリオを引き出したわ。
ヨハネスが元聖職者なら、ロザリオをしていても違和感ないけれど。
「ほら、ここに旧王家の紋章。
でも貴方はその魔力を受け継いでいないはず。
オカシイわ、オカシイわよね?」
「……何故、分かる?誰にも言っていなかったのに」
「ヨハネス、それってシスターソフィアの遺品……!
離れて!エンチャント・ローレライ……!」
カメリアは懐からナイフを取り出して、パペッティアとの間合いを詰め斬りかかろうとするも。
軽やかな身のこなしでパペッティアは宙を舞い、距離を取るわ。
まるで操り人形の様だわ。
パペッティアは、それまでの無邪気な少女の声ではなく、突如不気味なまでの機械的な音声で呟くわ。
「イレギュラーな心拍数上昇。
――嘘を検出しました。
旧王家の魔力を込めたアミュレットを確認。
悲願と呪いを引き継ぐ者として、認識しました。
――マスターへの殺意確認。緊急排除します」
パペッティアはすかさず闇の魔力を放出する!
「皆、僕の後ろに!シチート!」
アレクセイ様が咄嗟に防御魔法を展開する!
闇の魔力は、幸いにもアレクセイ様の防御魔法に弾かれ、近くの木立にぶつかるも……木の幹を粉砕するほどの威力だったわ。
「あら、ちゃんと避けられたのね。
ローズベルの処刑塔の兵士より優秀だわ」
その様を見て……私はふと思い出してしまった。
先日の通信で、フィオナ国王陛下が仰っていた白い少女による処刑塔の破壊工作。
このお人形の様な子のせいじゃないの?
ローズベルのフレデリク先王が恐れていたのは、これじゃないの……?!
私は再度問いかけるわ。
「貴方は一体、何処のどなたなの?
貴方のマスターってどちら様?」
彼女は、小首を傾げて瞬きもせず嗤うわ。
おおよそ人では、あり得ない角度まで首を曲げて……!
「アタシは貴方の国の言葉で言うならば、キリングドール。
この国の言葉だと、クークラ・ウビィーツァ。
アルヴェイン皇帝陛下こそがアタシのマスターです」




