第二部・帝国の雲行きが怪しい中、アフタヌーンティーを楽しみました。
あれから1週間程たった朝。
少し、空の雲行きが怪しいわね?
私は早朝からローズベルとの通信をしていたわ。
そこにアレクセイ様が現れて。
「ローズベルとの通信は終わったのですか?
セルシアナエリーゼ嬢」
この前、不安に押しつぶされそうなアレクセイ様を咄嗟に抱きしめてしまってから、妙に距離が近くなったのよね。アレクセイ様と私って。
「ええ。しかし、良いのですか?アレクセイ様。
裏帳簿の情報を他国になんて、まるで……」
アレクセイ様は諦めた顔をして、首を横に振るわ。
「売国奴と罵られようと構わないですよ。
こうでもしないと我が国の実情が分からないなんて。歯痒いな。
……それで、ローズベル側は何と?」
私は、すぐさま裏帳簿の写しと先程の通信でのメモを取り出し。
「フィオナ新国王陛下とお父様が仰るには……
まず、軍事費が多すぎる。何割占めてるのよ?
賠償金目当ての戦だろうけれど、それにしては回収の目処が立っていない、と……」
フィオナ新国王陛下とお父様の厳しい声が脳裏に蘇るわ。他国の事なのに、私の胃が痛くなった程だもの。
するとアレクセイ様は私の肩を抱いて、資料を覗き込むわ。
……ひん?!近い!近い!そういうのはカメリアに……!
「こんなにも軍事に予算が組まれているのですか?
おかしい。現場には行き届いていませんよ?
前線はカツカツでやっているというのに……!
……上層部の誰か着服しているのでしょうか」
眉間にしわを寄せるアレクセイ様だわ。
「この国は軍事以外の、その他のめぼしい産業が育っていません。
教育や福祉などの費用も雀の涙ですわ。
それによる国税減収……つまり収支と負債のバランスが噛み合っていません。
それに細々とした所も数字が不自然です。
実際に動かせるお金、今幾らあるのよ?
これは近い内に……財政が立ち行かなくなるだろう、と」
「若い働き手も、頻繁に戦場に送り出されるのではな。
これでは産業も経済も成り立たないか。
遅かれ早かれ、こういう事態には陥るとは思っていましたが」
「……酷な事を申し上げます、アレクセイ将軍。
おそらくは三代と続かず、この帝国は……」
「分かっている。分かっているさ……」
アレクセイ様は苦虫を噛み潰したようなお顔をされたわ。
強大な軍事大国であるはずだったドルンゲン帝国の終わりも、そんなに遠い未来の話ではないのかも知れないわ。
その時、ドアから控えめなノックの音がしたわ。
「お嬢様、そろそろお召し替えを」
メアリーが呼びに来てくれたようね。
「おや、本日はどちらに行かれる予定で?
キャルロット公爵令嬢」
「シルバーナ様フローリア嬢姉妹と、アフタヌーンティーの約束がありますわ。
その後、カメリアの墓参りに付き合うのです。
もし、良ければアレクセイ様も……」
「申し訳有りませんが、この後軍議の予定が急遽入りました。
全く、戦が上手く行っている時には追い出しておいて、行き詰まるとすぐ呼び出すなんて。
本当に虫が良すぎるな」
アレクセイ様の鋭い目つきに変わったわ。
ローズベルで出会った頃の様に、そう皮肉を仰って離宮から出て行かれたわ。
きっとあの目と皮肉が、ドルンゲン帝国白獅子将軍アレクセイとしての仮面なのね。
気を取り直して私は着替え、離宮の厨房へ行くと。
「はい!それでは紳士淑女の皆様、これからスコーンを作ります!」
ローズベルから急遽、離宮のコック役としてやって来たフレイ様がエプロン姿でいたわ。
お元気そうで、何よりですわ。
「よろしくお願いしますわ!
昨日からずーっと楽しみでしたの!」
はしゃぐフローリア嬢。
シルバーナ様はぴしゃりと注意するわ。
二人とも、お揃いの可愛いエプロンに三角ナプキンをしているわね。
髪の毛もまとめてあるし、しっかりしているわね。
「フローリア、はしゃぎ過ぎないで。
フレイ様、ふつつかものですがよろしくお願いしますわ。
これを機にローズベルの焼き菓子のレベルをしっかり見極めさせてもらいます。
グラン、手伝いなさい」
「かしこまりました」
見目麗しいドルンゲンの公爵令嬢2人を前に、フレイ様は気が引けたのかしら。
「いえ、滅相もないです?!
……ローズベルからドルンゲンに着いて早々にさ。
ドルンゲンの白獅子将軍に続いて、ドルンゲンの公爵家のお嬢様姉妹にまでお菓子づくり教えんの?
貴族って言ってもほとんど平民育ちのオレが?
だいぶキツくない?」
「フレイ様なら大丈夫ですわ、頑張って!」
私はフレイ様を励まし、元気付けるわ。
フレイ様は肩を竦めて。
「まあ、ちゃんとやりますよって。
まず準備するのは、
・小麦粉
・ベーキングパウダー
・砂糖
・冷えたバター
・牛乳
・卵
トッピング用の
・チョコチップ
・紅茶の茶葉
だな。
そしてここに小麦粉やベーキングパウダー、砂糖をあらかじめ振るったものが用意してあります」
またの名をホットケーキミックスよ。
ちなみにホットケーキミックスでスコーンを作ると味もホットケーキになるから、そこは留意してね。
「材料をボールの中でザックリと混ぜます」
「随分と雑ですのね」
シルバーナ様はすました顔で仰るわ。
「スコーンなんてそんなもんですよ。
まとまってきたら、金型で形をとって……と」
「フレイ様!シルバーナお姉様!
ワタクシ、可愛い形にしたいですの!」
「フローリア、ワガママ言わないの」
「ははっ!フローリア嬢。
形は好きにしても構わないですよ?
牛乳と卵を溶いたものを表面に塗って。
200度に熱したオーブンに入れて20分焼いて……
終了!
ね?簡単でしょ?」
オーブンが無ければ、トースターで焼いてもいいのよね。
「本当に簡単でしたの!
ウチのシェフにも教えますわ!」
「アフタヌーンティーの準備、出来ましたよ!」
そうロジーとカメリアがにこやかに声をかけてくれたわ。
季節の花を飾ったダイニングルームには。
タマゴときゅうりのサンドイッチに、焼きたてサクサクのパイ。
色とりどりの一口サイズのミニケーキ。
紅茶からはアッサムの濃厚な香りが漂うわ。
「美味しいですの!パイがサクサクですわ!」
「ふぅん……ローズベルも、なかなかですわね」
アフタヌーンティーに二人とも上機嫌に舌鼓を打つわ。
「あぁ、懐かしいわ。
ローズベルのアフタヌーンティー……!」
やっぱり故郷の味って、ホッとするわね。
「だと思ったよ、お嬢。
さっき難しい顔してたもんな。
ほら、スコーンが焼けたぞ。
クロテッドクリームとジャムをたっぷり付けて食べようぜ?」
和やかな雰囲気のアフタヌーンティーとは裏腹に、空は刻一刻と曇って行く……まるでこの帝国の未来を暗示しているようだわ。




