第二部・元悪役令嬢の限界オタクはそれでもゲームの恋愛イベントを見てみたいようです。
晩餐もお開きとなり、管理人さん夫妻はお家に帰ってしまったわ。
私も寝室に戻り、ロジーとメアリーも下がらせて、ベッドで横になっていたけれど。
「……そろそろね」
私は夜半にこそこそとベッドから抜け出すわ。
どうしてかと言うと……。
お風呂上がりのアレクセイ様。
髪を乾かさず無造作なバスローブ姿のまま、当然の様にアレクセイ様用の客室に入るわ。
そこで待ち受けていたのはカメリアよ。
私からアレクセイ様の身の回りの世話をお願いしたのよね。
何故って、ゲームのイベントがあるからよ。
離宮に追いやられたヒロイン・カメリアは元婚約者のアレクセイ将軍と共に酒を飲み交わし一夜を過ごす、という……!
私、限界オタク故にキッチリお膳立てしましてよ。
具体的に言うと、ヨハネスを離宮の門の前で寝ずの番に立たせたわ。メアリーとロジーはちゃんと下がらせて寝かせたもの。
後は、お若い二人で……ってやつよね。
「カメリア、お母様の寝付け用の酒があったんだ。
一緒に飲まないか?」
「アレクセイ様?もう……1杯だけですよ」
カメリアは呆れてため息をつくも。
「そんな堅苦しい言い方やめてくれよ。
昔の君の話し方に戻してくれないか?」
「……もう、仕方ないなぁ。
ねぇアレクセイ。
お風呂上がってから、ちゃんと拭いて髪の毛乾かしたの?」
「別にいいだろ?
髪なんてそんなに長くないんだから、放っておいてもすぐ乾くよ」
「だーめ!風邪引いちゃうでしょ?
もう、仕方ないわね。
私が拭いてあげるから。ね?」
「ふふ、懐かしいなぁ。
それが終わったら、僕とお酒飲んでよ?」
「もう、少しだけよ?」
カメリアはタオルを手に取り、アレクセイ様の濡れている髪の毛を丁寧に拭いてあげるわ。
それが終わると、アレクセイ様は嬉しそうにカメリアの為にワインをグラスに注ぐわ。
「君とこうして二人でお酒を嗜むのが夢だったんだ」
そしてワイングラスを手渡すとカメリアは一口で飲み干して。
「これ美味し!
このお酒高くて入手困難のやつじゃない。
流石セラフィーナ様のコレクション……!
ね。ありがと、アレクセイ」
お酒を飲んで気が緩んだのか、カメリアは昔の口調に戻ったのかしらね。
ほろ酔いのカメリアはベッドに寝転んで。
「ふふ。ね?アレクセイ。
昔のお泊まり会みたいに一緒に寝よっか……」
アレクセイはその姿を見つめながらお酒をあおり。
「カメリア、僕の所に帰ってきてくれたんだね……
嬉しいよ……」
アレクセイ様も、お酒を飲み過ぎてうつらうつらしているわ。
「懐かしいカメリアの香り……温かいな……」
そのままカメリアと一緒のベッドで横になるも。
2人して秒で寝てしまったのでした。
くそう、健全かよ!大人の雰囲気は何処に行ったの?
……何故、私がその事を語っているのかって?
それはもちろん。寝付けずにお手洗いに行ったら、その現場を目撃してしまったのです。
別に狙ってなんていないんだからね?!
……嘘です。狙いました。
まるで前世のおばあちゃんがよく見ていたドラマの家政婦さんの様だわ。
ただ違うのは私は家政婦ではなく、元悪役令嬢で……前世はカプ厨オタク。
推しカプの尊いシーンを現在進行形で見せつけられてしまい、脳が今もジュージューと焼けているのです。最高かよ。
そして翌朝……と言っても白夜だから夜中もずっと明るいのだけれど。
客室からアレクセイ様が中々起きてこないので、私が起こしに来てしまったわ。
……あの後、カメリアはちゃんと自室に戻れたのかしら?
「おはようございます、アレクセイ様。
起きていらっしゃいます?
昨日エールに漬けておいたきゅうりが美味しく仕上がってますよ。
朝食は……そば粉のガレットを作ってみましたの。温泉の蒸気でカスタードプディングも。
それと、管理人さんの奥さんがグリエフのカーシャやパイをわざわざ届けてくれたの。
一緒にいただきましょう?」
反応がないわ。これはひょっとすると……!
「アレクセイ様?どうされましたか?
まだ寝ていらっしゃるの?もし体調が悪いのなら……」
ドアには鍵がかかってなかったわ。
そっと開けると、そこには……。
スヤスヤと眠るカメリアと、隣で寄り添って丸くなって眠るバスローブのアレクセイ様の姿が。
何事……?!と悲鳴をあげるよりも早く。
私は手を合わせて天に祈るわ。
……転生担当の神よ!ありがとうございます!神イベント大成功です!
朝から推しカプの供給なんて、ご褒美ですわ!
と、叫びたい衝動を抑えるわ。
「特等席で拝めるなんて……!くぅってぇてぇ……!」
そう呟いて、私はすぐにドアを閉めたわ。
この尊さを永遠に残しておきたいからよ。オタクとして駄目ですね。
「さて、お赤飯炊かなきゃね……!」
そのまま台所に向かおうとする私を、夜勤明けのヨハネスは慌てて止めて。
「何してるんです、お嬢様?
お赤飯って何事ですか!」
秒でドアを開けに来るヨハネスであった。
ちぃっ!風情の分からんヤツめ!
「待って、本当に待ってよヨハネス!
今いいシーンなんだからさぁ?!」
「訳分からない事仰らないでください、お嬢様!
……って、何してくれてるのですか!?アレクセイ将軍?
カメリアは?カメリアは無事なのか?!」
アレクセイ様は飛び起きて。
「えぇっ寝ていた!?
失礼な!カメリアとは……何もしてないよ!」
その台詞に、私は思わず天を仰いでしまうわ。
「嘘でしょ……純情かよ?!ヘタレか!」
ヨハネスの追撃。
「お嬢様?何をおっしゃるのです?!
いやほぼ同意しますけど」
カメリアは慌ててベッドから飛び起きてたわ。
「……嘘でしょ?目を覚ましたらバスローブのアレクセイ様が目の前にいるんだもの、焦った……」
「とにかく、カメリアには一切触れていないから!」
ヨハネスは険しい顔をして一喝する。
「アレクセイ様?
バスローブ姿で言われても通用しませんよ?!
ああ、アルヴェイン帝にこんな事がバレたら……ここにいる全員の首が飛ぶ……!」
一刻を争う事態なのに、カメリアはマイペースに。
「……アレクセイ、お酒くちゃい。お風呂入ってきて」
「そんな、カメリア!酷いよ!
……うぅ、お風呂場借りますね……」
アレクセイ様はすっかり肩を落として、お風呂場に向かったわ。
カメリアは秒でエプロンドレスに着替えて支度するわ。
「セルシアナエリーゼ様、大変ご迷惑をおかけしました!
ご気分などは悪くされてませんか……?
……あのお嬢様。何故満面の笑みなのです?」
「……いえ。このシチュが最高に美味しいですもの!
ヨハネス、至急宮廷画家を呼んで!
あの尊い光景を永久保存せねば!」
ヨハネスは胡乱げな声を上げるわ。
「あの……お嬢様?
恋仲のリオネル王子と引き離されて、異国の皇帝に嫁ぐはずが冷遇され。
なのに自分の侍女が皇帝に気に入られるわ、更には侍女に大貴族の殿方を盗られるわ……
普通のご令嬢だったら、『侍女に私の役割を盗られた!』と言って、ひっくり返るか気に病んでしまう状況でしょう?
何故そんな平然としていられるんです……?」
「はいぃぃぃ?!今それどころじゃないでしょうが?
今!私の目の前で!
推しカプが!ウフフキャッキャしているの!
この素晴らしい光景を!脳や網膜にスクショしなきゃだからね?!」
前世の、オタク特有の早口で大演説をかます私の姿が、そこにあった。
他の方からだと、滑稽に見えるかしらね。
ヨハネスの開いた口が塞がらなくても構わないわ。
正直、メンブレしてる暇もねぇですのよ。
と、そこに血相を変えたロジーが飛び込んできたわ。
「大変ですぅ、セルシアナエリーゼ様!
後宮管理を一任しているシルバーナ様がおいでになりました!」
すると、表からシルバーナ様の声が。
「セルシアナエリーゼ様。
先日、手違いでこちらの整備していない離宮に案内されたとの事で、お詫びを……。
それと、朝食をお持ちしましたわ。どうか中に入れてくださいまし。
……えぇ?アレクセイ将軍もこちらに?
これは一体、どういう事ですの?
……もしかしてそういうご関係が?」
いけない、シルバーナ様とお付きの護衛騎士グランまで現れたわ。
寝起きのカメリアと、あのバスローブ姿のアレクセイ様がいるなんて知れたら大変な事になるわ!
「ロジー、アレクセイ様を上手く逃がして。
行くわよヨハネス。
シルバーナ様を舌三寸、口八丁手八丁で誤魔化しきるわ!」
「承知!
って、貴方は本当良い性格してますね……!」
転生の神様、今世も七転八倒色々あるけれど、推しカプはやはり最高です。




