第二部・元悪役令嬢、追いやられた離宮でバーベキューしますわ!
私は厨房から鍋や網焼き用の網など、バーベキューで使えそうな調理器具を持ち出し。
「セリーヌさんが寄越したお菓子やチーズ、まだ結構な量あるわよね?」
「はい!エリーゼ様、こちらにチーズあります!お菓子も!」
元気にチーズを取り出すロジー。大変よろしいですわ。
「ねぇ、カメリア。貰い物などにワインやミルクあるかしら?
お野菜やベーコンやハム、塩漬けの肉も」
カメリアは野菜を選別しながら答えるわ。
「農産物試験場の者が気を使って、持ってきてくれた野菜があります。
採れたてですよ。それにキャベツの酢漬けも」
私は微笑むわ。
「うん、それなら。
温泉の蒸気で温野菜と、チーズフォンデュにしちゃいましょうか。
あとセリーヌさんからチョコもらっていたから、チョコレートフォンデュも出来るわよ!
日持ちする焼き菓子に付けて食べましょうか」
前世の旅行でやった地熱を使った蒸し料理、チョコレートフォンデュ覚えていて良かったわ。
お風呂場の裏にある源泉、蒸気の噴き出し口に、その近くの熱した地面に紙に包んだジャガイモ、カボチャなどの野菜、きのこと卵を埋めるわ。
ついでに蒸気の噴き出し口に、野菜を乗せたせいろを設置して蒸すわよ。
……何でせいろがドルンゲンの離宮にあったのかな?よく分からないのよね。
芝や雑草や落ち葉などがない地面に、そこら辺に落ちていたレンガや手ごろな石を使って、即席コンロを作るわ。
コンロの中心に乾いた藁や落ち葉を入れて、そこに火を付けるわよ……流石に火を付けるのは、魔法でね?
次に薪を焚べるのだけれど、間違っても夾竹桃などの毒性の強い木を薪に使わないようしないとね。
火の手が上がったら、コンロに網を置くわ。
網の上に置いた2つのお鍋で白ワインとニンニク、牛乳を温めるわ。
それぞれにチーズやチョコレートを入れると、たちまち良い匂いが立ちのぼるわ。
……なんとなくだけど、燻製もやってみたいわね。
かぼちゃやズッキーニ、パプリカ、キノコなどを網の上で焼くわ。
寒い国ではお目にかかれない、ナスもあって驚いたわ。温室で育てているんですって。
ベーコンはあえて塊のまま、マッシュルームと焼く。
前作のゲームのプレイ中に見て美味しそうだったわ。これを1回、やってみたかったのよね。
流石にトマトやいちごはそのままでいいわよね?
火にかけた野菜をひっくり返す作業を、お箸でやっていると。
「セルシアナエリーゼお嬢様?!
何故ローズベルの貴族のお嬢様が、うちのおばあちゃんみたいな箸の使い方を知ってるのですか?!」
カメリアが血相を変えて問い詰めてくるわ。
私はにこやかに躱しますわよ。
「……これもローズベルでの淑女教育の賜物ですわ」
……流石に言えないわよね。
前世の癖で咄嗟にやってしまった、なんて。
温野菜や焼いたソーセージを適当に盛り付けて。
「……ふう。こんなものかしら?」
アレクセイは目を輝かせて仰るわ。
「一気に豪華になりましたね!」
「こちらもキャベツのシチー出来ましたよ」
「ディルや摘みたてハーブをたっぷり入れたサラダもです!」
ヨハネスとロジーも料理が出来上がったようね。
「あらまぁ、旦那に言い付けられて来てみれば……!
まるでパーティみたいですねぇ」
ライ麦パンやソーセージに塩漬けの肉、他の食材や調味料を一揃えをカゴに詰め込んだ、老年の女性が現れたわ。
管理人さんの奥さんね。
隣には管理人のおじいちゃんがいるわ。戻って来てくれたのね。
「宮殿側の手違いで、奥様にまでご迷惑をおかけしてしまい申し訳ありません」
私は、管理人のおじいちゃんと、その奥さんに頭を下げるわ。
「大貴族のお嬢様が、私のような身分の者に頭を下げるなんてとんでもない!
今回の件はドルンゲン側の不備ですから、試験場の所長から強く言ってもらいますので、どうか頭を上げて下さい!」
「まあまあ。お嬢さん、気になさらないで下さいな。
それに困った時は、お互い様ですからね」
「よろしければ、ご一緒にお食事はどうでしょう?
ところで、食用油、お酢と、胡椒をいただいても?」
「あら!お誘いいただいて嬉しいわ!」
私は管理人の奥さんから渡されたヒマワリ油、ワインビネガー、胡椒でフレンチドレッシングを作るわ。混ぜるだけだし簡単よね。
「それじゃいただきましょう!」
「主よ、天からの恵みに感謝します。
いただきます!」
カメリアは、地熱蒸しのじゃがバターを一口食べて、思わず唸る。
「うん!これは知らなかったわ。こんな簡単なのに……」
「採れたてのポテトってこんなに美味しいなんて!」
お貴族育ちのメアリーが喜んでいるわ。
アレクセイ様は、チーズフォンデュにポテトとソーセージを浸して、一口食べるわ。
「美味しい……!高級料理にも引けを取らないな」
ヨハネスはライ麦パンをチョコレートフォンデュに浸し、一口でパクリ。
「うっま!チョコフォンデュもいけますね」
ロジーはチョコレートフォンデュをいちごにつけて。
「美味しーい!キャルロットのお屋敷のスイーツみたい!」
それを聞いたヨハネスは感慨深そうに頷いて。
「ああ!そういえば、キャルロットのお屋敷では良い思いをさせてもらえましたね。
トライフルやパフェの残りを厨房の皆が恵んでくれたりね」
カメリアは懐かしそうに笑うわ。
「ああ、あの残り物のトライフル!凄く美味しかった!」
その様子を見て、アレクセイはむくれてしまったわ。
「……何だよ、それ。僕は知らない……」
アレクセイ様が拗ねている?嫉妬なの?
実に美味しいですわね。
カメリアはアレクセイ様を宥めるわ。
「アレクセイ様、後で作ってあげますから」
アレクセイ様はまだ拗ねているけれど。
「……カメリア、約束だからね。絶対」
このやり取り……オタクにとっては滋味が深いわ。助かる。
私は頷きながら、そそくさとトマトにチーズとバジルを乗せて、カプレーゼを作って食べていると。
「お嬢様、本日のスープです」
私は、ヨハネスから手渡されたスープを見つめるわ。
「……これがシチーなのね。
カーシャとシチー、ドルンゲンの民の日々の糧……!」
これが、噂の……!
前世の感覚からすると味覚に合わなそうな、酸っぱい香りがするわ。大丈夫かしら?
「ドルンゲンは冬が長いですから、日持ちするように、果物はジャムにして瓶詰めに、野菜も漬けるんですよ。
秋になるとそこらじゅうが漬物の匂いがしますね」
前世のおばあちゃんのぬか漬けかな?
私は意を決して一口食べてみるわ。
「……案外いけるわね」
「大丈夫ですか、エリーゼお嬢様?本当ですか?
シチー、とりわけキャベツの酢漬けは、外国の方だと苦手な味なんだそうですが……」
とは言え前世は前世。今世の私は味覚がだいぶ違っているのよね。
うっかり「酸っぱくて美味しくない」なんて失礼な発言、態度を取らなくて良かったわ。
しかし、文化や風習、味覚すらこんなに違うなんて。
やっぱり異国に移住する、嫁ぐって大変よね……政略結婚で異国に嫁いだ姫君達に頭が下がる思いだわ。
なんて思っていたら。
「……うぅ、酸っぱいー」
ロジーは一口食べだけれど、それきりだったわ。
ヨハネスは慌てて。
「……ああ、ロジーは苦手かぁ。
無理に食べなくてもいいぞ」
「ごめんなさい……」
ロジーは駄目だったみたいね。
「ところで、マシュマロはないかしら?
直火で焼いて、チョコレートとビスケットでスモアやろうかなって」
「マシュマロウ?もしかしてギモーヴの事ですか?」
どうしたのかしら?アレクセイ様が真顔で問いかけてきたわ。
「……お嬢様、ギモーヴは高級菓子では?
それを火に焚べるなんて……やはり大貴族はやる事が大胆ですね!」
メアリーが信じられないものを見た!という顔でこっちを見つめてくるわ。
うわぁ、やらかしたかも。今世では市販のマシュマロって出回ってないんだった……!
アレクセイ様が、ふとこんな事を言い出したわ。
「そういえば、セラフィーナお母様の料理なんて食べた事なかったな……」
「セラフィーナ様は、高貴な身分でしたから。
……ワインがお好きでしたよね」
「好きというか、あれは……」
管理人のおじいちゃんが慌ただしげに、ヨハネスに話しかけられているわ。
ヨハネスはその場から走って、何かを見つけたのか声を上げるわ。
「アレクセイ様!セルシアナエリーゼ様!
ワインセラーがありました!
おふくろが言ってた通りだ。
セラフィーナ様は寝付きが悪くて、寝るのにもお酒に頼っていて、離宮にワインセラー作ったって聞いていたんです!」
アレクセイは慌てて駆けつけると。
「……ワインセラー?ウォッカもある!皆で飲もう!」
「ねぇねぇ、ヨハネス。
ビール……じゃなくて、エールある?
きゅうり漬け込むのに使いたいわ!」
「……エリーゼお嬢様?
エールで漬け物作る公爵令嬢なんて聞いたことないですよ……?」
別にいいじゃない、明日のご飯のおかずが増えるもの。
アレクセイ様が一人不安そうに呟く。
「こんな離宮をサナトリウム代わりに使って……
セラフィーナお母様は、アルヴェイン帝に大事にされていたのかな……」
ヨハネスは少し思案してから答えるわ。
「……おふくろの侍女仲間からは、セラフィーナ様はアルヴェイン帝に優遇されていたと伺っています」
「……一見すれば、だがな」
夜遅くにアレクセイとヨハネスで、お風呂に入ったわ。
お酒に酔っているのか、アレクセイ様は。
「これがお母様も入ったという温泉……
野趣溢れる……なかなか風情があるな。気に入った。
セルシアナエリーゼ様が言うには、温泉に入りながらお酒を嗜む文化が東洋にあるそうだよ」
ヨハネスはため息をついて。
「何故俺はアレクセイ様と風呂に入らなければならないんだ……
って、アレクセイ様?本当にお酒持ち込まないでください!」
アレクセイはいやに上機嫌だわ。お酒に酔ってるからだけれど。
「良いじゃないか、部下と同じ釜の飯を食う、一緒にバーニャに入るようなものだろう?
ほら、僕の背中を流す機会を与えて進ぜよう。さすれば褒美として我が酒を……」
ヨハネスは呆れてため息をつくわ。
「それぐらい自分でやってください!
全くお貴族のお坊ちゃんは、そんな事も召使いにさせているんですか?」
アレクセイ様は拗ねて。
「むう……冗談だよ」
ヨハネスは反論するわ。
「貴方は冗談では済まされないでしょう?
……俺の方で身体流しますから、そこに座って下さい。
しかし、身体に傷一つないですね。
流石は白獅子将軍アレクセイ様。
相当な腕前なのか。
それとも、あの皇帝に大事に守られているのでしょうかね?
だとすると、あの噂は本当……あっいけね」
うっかり口を滑らせたヨハネスに、アレクセイ様は静かに答えるわ。
「……ああ、ヨハネスも知っているのか。
例のご落胤の噂を」
ヨハネスは、一旦口籠るけれど。
「……いえ、たまたま耳にしただけですよ。
アレクセイ様がアルヴェイン帝のご落胤ではないか?なんて悪質な噂は……」
アレクセイ様は一瞬黙り込む。
「……たかが噂だろう?
構わないさ……僕が憎いか?」
ヨハネスは慌ててフォローに入るわ。
「坊主が憎けりゃ袈裟まで憎い、なんて言いませんよ。
俺が憎んでいるのはあくまでアルヴェイン帝だけ。
ただし、貴方があの狂帝を盲目的に狂信するようなら……
カメリアやセルシアナエリーゼお嬢様を害する様ならば……ね?」
アレクセイは眉をひそめて。
「おや、怖いことだ。君まで敵に回したくないな。
だか、僕は残念ながらセラフィーナお母様譲りの容貌だ。血は繋がっているとは思えないけれど。
……君こそソフィア叔母様と、どういう関係だ?
まさか、親族か?
宮殿の侍女だった君の母君の名前は?」
「ウチの母は、アレクセイ将軍が気にとめる様な身分ではありませんでしたよ。
本当に平凡な平民です。
ソフィア様とは、ただの孤児院のシスターと、孤児院出身の修道士でしたよ……あの日まではね。
よし、身体洗い終わりましたよ。
湯船に浸かりましょう」
ヨハネスの意味深な微笑みに、アレクセイ様には覚えがあった。
「……若き日のアルヴェイン帝そっくりだ」
……と言ったやりとりを、すぐ近くでバーベキューの片付けをしていた私もうっかり聞いてしまったのですが。
これ、どうすればいいのよ?
それにしても、前世でプレイした時に、こんな設定聞いた覚えあったかしら?
とんでもない情報をうっかり聞いてしまったわ。
これって本人に迂闊に問いただせないヤツよね。
聞いてしまったら最後……なんて事もあるかもしれない。
私は、息を呑んでその場を立ち去るわ。
……もし、アレクセイ様がアルヴェイン帝のご落胤ならば?
それでも構わないわ。
私はこの情報を利用して、上手くドルンゲンの宮殿からリオを探し出さなくては。




