第二部・仮面の皇太子レオニードの晩餐に連れ出されました。
北の軍事大国ドルンゲン帝国。
狂帝アルヴェインの孫である、仮面のレオニード皇太子の晩餐に、私セルシアナエリーゼは呼ばれました。
『ミステリアスローズの君と五人の貴公子』というゲームの、死亡するはずの悪役令嬢に転生したのに、何のフラグをどう間違えたのかしら?
何故か悪役令嬢溺愛ルートに入ってしまい、なんとか生き延びたものの。
どうした事でしょうか?
今度は次作の『凍てつく宮殿の身代わり皇妃は4人の騎士に愛される』のモブライバル令嬢となっているみたい。
しかも、何故かゲームのヒロイン・カメリアは、私の仲のいい侍女でして……
つまり、どういう事なの?
このゲームの攻略対象は、確か……
白獅子将軍、アレクセイ様。
元聖職者の護衛騎士、ヨハネス。
ライバル令嬢付きの騎士、グラン。
そして、仮面の皇太子レオニード。
なのに、何故なの?
モブ令嬢のはずの私が、レオニード皇太子に指名されて晩餐の席を用意されてしまいましたわ。
そもそも、こんな強制イベントの話って『身代わり皇妃』のゲーム内にあったかな……?
アレクセイ様ルートにはなかったわ。
レオニード皇太子推しや、他の攻略対象のファンの人の言動からすると違う気がする。
何はともあれイブニングドレスに身を包んで、一応上辺だけの作り笑いをする。
あの仮面でどうやって食べるんだろうって思ってたら、口元が開く開閉式だったわ。
「青薔薇の聖女よ。
ドルンゲン帝国の料理はお口に合いますか?」
「ええ、美味しゅうございますわ。
素敵なフレンチ料理ですわね」
社交辞令を口にしながら、前菜のアスパラガスとサーモンのテリーヌをいただくわ。
火災被害を配慮して、宮殿と調理棟って別の建物なのよね。
それにドルンゲンの寒冷な気候もあって、一度に沢山の料理を出されてしまうとすぐに冷めてしまう。
暖かいポタージュ・パルマンティエ。
メインの料理は牛フィレ肉のポアレ、フォアグラと黒トリュフ添え。
一品一品、銀製のドーム状の蓋を被せて、料理が暖かいままサーブされるのはありがたいわ。
レオニード皇太子の配慮かしら?
まあ、私の肝は冷えっぱなしだけれどね。
味はするけど、食べている気がしないわ。
あと、推しカプのアレクセイ✕カメリアが観測出来ないのが、地味に辛いわ……。
「……青薔薇の聖女、貴方は殊更美しい」
「ありがとうございます。
お褒めに預かり光栄ですわ」
聖女の肩書きを連呼するのは違和感あるわ。
名前で呼ばないのね、この仮面の皇太子様は。
頑なに私一個人として認めないおつもりかしら?
「お食事、美味しゅうございました。
それでは、私はこれで失礼しますわ」
すかさず、私の右手を取って離さないレオニード皇太子。
「何故帰るのです?
貴方のお役目はこれだけではないでしょう?
さあ、私と共に……」
ひえ!?お役目って何?どういう事よ?
駄目よ、私にはリオと言う心に決めた婚約者が!
「ちょっと、待って!嫌だってば!」
バシッと、頬を叩く音がした。
振り払うはずだった左手が、レオニード皇太子の頬を思いっきり引っ叩いてしまったわ。
ひぇっこれはやらかしたかも……!
その瞬間、乱暴にドアが開いた。
そこには怒髪天の如きアレクセイ将軍が現れたわ。
「どういう事ですか。レオニード皇太子!
アルヴェイン陛下の承諾もなく、セルシアナエリーゼ様を勝手に晩餐の席に呼び出して!」
「私はこの帝国内で、何をやっても許される。
例えばこんな事も。
ダークネスサモン」
そう唱えると、部屋の中は闇に包まれ、数体の闇を纏った騎士が現れる!
「恐るべき雷よ!ペルーン・ヴェリーキー!」
雷の魔法を解き放って撃退するアレクセイ将軍。
そういえばアレクセイ様は、ゲームでの属性は雷だったわね。
さらに激昂して。
「セルシアナエリーゼ様も帝国も、貴様ら皇帝の血筋の道具ではない。
青薔薇の聖女であろうと尊重すべき一人の人間だ。
その手を離せ!」
「……青薔薇の聖女は、国家のものだろう?」
「そんな建前を仰るのか!
セラフィーナお母様の二の舞にするおつもりか!」
「そもそも何故一介の将軍如きが、勝手に皇太子である私の部屋に立ち入っているのだ?」
「おや、レオニード皇太子様は僕の事をまるでご存知ないのですね。
僕とて、貴方と同……」
「ちょっと二人とも落ち着いて!」
言うやいなや私の魔力が反応して暴走し、青薔薇の蔓が二人を襲ったわ。
いえ、部屋全体を茨で満たしてしまった。不覚である。
「なっ……!これはこれは」
「詠唱無しでこれ程とは。これが青薔薇の聖女の魔力……!」
驚愕するアレクセイ様。
「青薔薇の魔法か。
これは、ただの植物ではないな。
エーテルの具現結晶に近い……興味深いな」
妙に感心するレオニード皇太子。
……何だかレオニード皇太子の仮面から嫌な魔術と魔力の流れを感じるのよね。
歪で絡まった糸のような魔力。
これならギリギリ解けるかもしれない。
ふと、手を伸ばして解呪を試みるわ。
「解呪、アンロッ……」
レオニード皇太子に、解呪の魔法をかけようとするも。
「私に、触れるな」
パンッ!と乾いた音を立てて、その手を跳ね除けられたわ。
「……青薔薇の聖女、我が敬愛するセルシアナエリーゼ」
「……ねえ、貴方そんな人じゃないでしょ?だって」
私が言い終わる前に、その影は動いた。
「そこまで!
お止め下さい、レオニード皇太子。
それ以上、セルシアナエリーゼ様にもアレクセイ将軍にも手を出すおつもりですか?
ならばこちらも、封魔の短剣で貴方の魔法を半永久に封じますよ?」
この声はカメリアだわ。
いつの間にか、レオニード皇太子の背後を取り、短剣を喉元に突きつけていた。
「貴様、あの闇の中を……?!」
「あら、貴方は周りが見えないぐらいで怯えるのですか?
暗闇は、わたしの味方よ」
その短剣は封魔の魔力を帯びているのか、紫の電流がパチパチと音を立てているわ。
レオニード皇太子深く嘆息する。
「それでもこれが、アルヴェイン帝から貴方を守れる最良の一手だ」
「セルシアナエリーゼ様の意思を無視して、何が最良の一手だと言うのです!」
アレクセイ様、落ち着いて下さいまし。
「ねぇ、貴方はひょっとして……」
そう問いかけるも、アレクセイ様に強引に手を掴まれてレオニード皇太子の私室から連れ出されてしまったわ。
続いてカメリアも流れるように退室する。
「……アレクセイ将軍と始末屋のせいで興が削がれた。
愛しい青薔薇の聖女。
また、お会いしましょう。良い夜を」




