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限界オタクが悪役令嬢に生まれ変わって最推しに出逢えて尊い!ので、推しの闇落ちルートを全力回避します  作者: 睦月のにこ


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アレクセイの憂鬱な朝 (語り・アレクセイ)

 自分の顔なんて苦手だ。

 セラフィーナお母様に似た顔、女のような相貌で何が悪いのか。


 ルドルフ・フォン・ベルツお父様は、黒髪でキリリとした眉毛とお髭、鷲鼻がトレードマークの方だった。

 幼い頃は憧れの存在だったのに。


 だからこそ、周囲やメイド達にこう言われて育ったのだ。


「やはり、アレクセイ様は旦那様のルドルフ様には似ず……」


「嫌だわ、セラフィーナ姫さまってまさか……?」


「貴方はベルツのお屋敷に来てから仕え始めたから、事情を何も知らないのね。あれは……


 あら、アレクセイ様!どうされました?

 何を話していたのか、ですって?

 何でもありませんよ。お気になさらず。


 アレクセイお坊ちゃんには、一層勉学とお稽古に励んでいただかないと」



 なら、一体誰が父親だと言うのだ?


 誰に聞いても、愛想笑いで誤魔化して答えてくれなかった。


 ただ、次々と送られてくる家庭教師や学問、剣術や馬術の稽古を機械的にこなしていくだけの生活だった。



 だからこそ、カメリアという少女に心惹かれた。


 ある日の事だ。

 近くのバートン領で、ベルツのルドルフお父様と狩りに出かけた。


 ルドルフお父様が休憩がてら立ち寄ったバートン男爵の屋敷の庭先で、男の子のような格好をして一生懸命に剣の舞を稽古しているカメリアを見つけた。


「君、女の子なのに剣が好きなの?」


 その頃の僕と言えばセラフィーナお母様に似て、繊細かつ臆病で内気な子どもだった。剣も戦も嫌いだった。


「うん。やればやるほど強くなるから!

 わたしカミーリヤ!言い辛いならカメリアでもいいよ!貴方は?」


「アレクセイ……」


「ねぇアレクセイ!一緒に遊ぼう!」


 そんな自由なカメリアに手を引かれて、一緒に遊び回れて嬉しかった。

 遊びに夢中になり、二人で黒い森に迷い込んでしまった。


「怖いよ、カミーリヤ!


 黒い森には、レーシーという道を惑わす精霊がいるのでしょう?

 親戚のふりして、家に帰れなくするって!


 それに、川にはヴォジャノーイという、水の中に引きずり込む水の精霊が……!」


「大きな声を出さないで。大丈夫。

 罵倒すればすぐに逃げちゃうよ。

 それに十字架持ってきてるし、わたしの銀の短剣でやっつけてあげる」


 幼いカメリアの強気な発言に幼い僕は安堵し、そして恋心を覚えた。


 結局、大樹の下で眠る僕達を、カメリアの祖父であるマーク・バートン男爵が探しに来てくれて、大事には至らなかった。



 だからその後、必死でルドルフお父様に懇願した。


「あのカメリアという娘と結婚したいんだ!」


 家の格が違う、軍人上がりであと数代も保たない新興の家の娘と結婚してもなんの利益にもならないと、最初は素気無く断られた。


 それでも子どもの頃の僕は強情で、元王族のセラフィーナお母様に泣きついて、何とかカメリアとの婚約を取り付けた。ほぼ粘り勝ちだった。


 そこからカメリアの生活が一変した。

 剣術稽古の生活が淑女になるための教育に代わり、週に一度セラフィーナお母様に教えを受けに来るようになった。


 最初の頃は何も考えずに喜んでいたが、徐々にカメリアの自由を奪ってしまったのだと気が付いていった。

 特に、カメリアが以前のように男の子の格好など出来なくなってしまったのが衝撃だった。


 それでも側にいたかった。週に一度会えるのがとても待ち遠しかった。



 ある日、カメリアの父君から婚約相手を変えてほしいという連絡が来た。

 カメリアの従姉妹である、伯爵家の娘カナリアの方がよろしかろうと。


 なら、カメリアはどうしたのか?と問うと、離婚した母親と一緒に屋敷から出奔したという。


 運命の歯車が狂い始めたのはそれからだ。

 

 程なくして、ルドルフお父様にアルヴェイン帝への謀反の疑い有りという噂が広まり、粛清の対象となってしまった。


 幸い僕には責任が及ばす、そのままベルツ公爵を継ぐ事になった。

 今思えば、この処分の甘さを疑うべきだった。問い詰めるべきだったのだ。


 お母様はアルヴェイン帝に宮殿に連れていかれ、それきりだった。


 後にそこで亡くなってしまった、とだけ聞かされた。



 僕は父親は誰なのか?僕は一体何者なのか?


 そんな子供の頃の憤りは、ベルツ領の立て直しの為にと軍に入り、皇帝に拝謁した時霧散した。そして知りたくなかった全てを理解した。

 その後の人生を蝕む、さらなる苦悩と業苦に変わってしまったのだった。




 目を覚ますと、朝の光がカーテンから差し込んでいた。

 キャルロット公爵邸の装飾は、ドルンゲンに比べるとやや質素だが、こちらの冬は暖かいし日も長い。


「……朝か。昔の嫌な夢をみたものだ」


 ドルンゲン帝国の……いやベルツの屋敷に比べて、ローズベルのメイドたちは陽気で騒がしい。


 仕方ない。

 こちらには物音や話し声が聞こえただけで怯える、気の弱った女主人などいないのだから。


 陽気なのは良いが、人の表面しか見ていない。


 呑気なものだな。

 アルヴェイン帝のような恐怖政治がないと、こうも気が緩むものか……と呆れてしまう。



「おはようございます。将軍閣下」


 カメリアがモーニングティーを持ってきてくれた。

 失ったはずの婚約者。

 幼い頃から恋焦がれた彼女が、戻って来てくれた。


「支度を手伝ってくれ」


「かしこまりました」


「かしこまる必要なんてないさ。僕と君の仲だろう?」


「いえ、私は没落した身ですので」


 だというのに、これから皇帝の下に彼女を送り出さねばならない。


 父を殺し、屋敷と領地を焼き、母を奪い去った、憎きアルヴェイン帝に。


 このローズベル王国キャルロット邸では朝早くから、アルヴェイン帝に輿入れするための準備が始まっていた。


 あの狂帝の事だ。

 どうせキャルロット公爵令嬢がどんな優れた美貌や知性を持っていたとしても、すぐに飽きられるか粛清の対象になるというのに。

 全く呑気なものだ。


 あぁいっそ、カメリアの手を引いて逃げ出してしまおうか?

 何処か遠い国へ二人で駆け落ちして、そこで二人きりで暮らす。なんて甘美な夢なのだろう。


 それさえも口に出せない、相変わらず臆病な自分を呪うしかなかった。



「アレクセイ様、おはようございます。

 朝食の準備が整いましたわ」


 凛と響く、青薔薇の聖女の声が聞こえた。

 このキャルロット家の令嬢、セルシアナエリーゼ嬢だ。


「もし調子がよろしくないのなら、朝食を部屋まで持って行かせますわ」


「お気遣いありがとうございます。

 ご心配には及びません。今参ります」


 大貴族の産まれなのにそれを鼻にかける事もなく、フランクな女性だ。

 敵国ドルンゲンの将である僕にも壁を作らなかった。


 ローズベルのフィオナ新国王と共に、クーデターを仕掛けた娘。

 婚約者リオネル王子奪還の為に、アルヴェイン帝に白い結婚を仕掛け、隙を突いて暗殺するという計画に乗った豪胆なお方。


 僕の大切なカメリアを庇い、心配してくれたセルシアナエリーゼ嬢。


 今は、この彼女に賭けるしかない。

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