第69話:迫り来る死
タカは手を伸ばした――彼を呼び止め、立ち止まらせたかったが、声は出ず、息も詰まってしまい、そして……その瞬間、エシルが叫び、皆が後を追って、タカも引きずり込まれていった。タカは、ここで間違いなく死ぬだろうと思った。皆が死ぬことになる、とタカは分かっていた。
彼らを発見したオーガは背中を丸めて咆哮した――口からは唾が飛び散り、目は赤みを帯びた黒く光り、口からは内臓が滴り落ちていた。
そして、上空から地獄が降り注いだ。一行が部屋に入った瞬間、ゴブリンたちが天井や壁の隙間から群れをなして押し寄せてきた。数千とまではいかなくとも数百のゴブリンが、まるで蟻のように這いずり回っていた――その一瞬、まるで生きとし生けるものがすべて、彼らの居場所をピンポイントで突き止めたかのようだった。
タカの胸は激しく上下していた。両手で短剣を握りしめる力が強すぎて、耐え難いほどの痛みを伴っていた。体は冷や汗でびっしょりだった。彼の目に映るのは、彼らを取り囲んで迫りくる破滅だけだった。至る所にゴブリンがうごめき、暗闇の中で赤く光る目が近づいては、深淵へと消え、また別の場所の光の中に現れる。 クルルとベリルは呪文を放ち、周囲をほんのわずかに明るくしたが、それによって洞窟がさらに狭く感じられるだけだった。壁が迫ってくる。タカの頭はくらくらとした――床に手をついて体を支えようとしたが、吐き気を催した。
「タカを守れ!」アーサーは戦いながら叫んだ。「クルル!彼を助けてくれ!」
タカはその言葉を耳にしたが、意味を掴めなかった。その瞬間に戦術が練られていく中で、何かが起きていることは理解できたが、それが何なのかは把握できなかった。
クルルは血まみれになりながら、円陣を突き破って進んできた。彼はタカのそばに駆け寄り、両手をしっかりと彼の肩に置いた。タカは目を大きく見開き、荒い息を吐きながら彼を見つめた。彼の温かい笑顔は助けにはならなかった。何の役にも立たなかった。タカの心は助けを、デインを、叫んでいた。
「デイン……デイン、デイン! デイン! 助けて! デイン!」
そもそも、なぜ自分は冒険者になりたかったのだろう? 冒険とは、本当にこんなものなのだろうか? もしそうなら、自分は間違いなく向いていない。冒険者になりたかったけれど、どうしてもなれない。自分はデインやレルナス、そして両親のような人たちとは、根本的に違う。怖すぎる。弱すぎる。自分はただ――
「タカ! 息をしろ!」クルルが命じた。「タカ!」ようやくその声が彼に届いた――タカは、まるで大海原の真ん中から引き上げられ、陸に戻されたような気分になった。渦巻く思考から引き離され、現実へとしっかりと引き戻されたのだ。
「で、できない!」彼は嗚咽を漏らしながら絞り出した。「私、私……すごく怖い! すごく――」
「これも、いずれ過ぎ去る! 僕たちはこれを乗り越えられる、タカ! 君ならできる!」
あの馴染み深い温もりが彼を包み込み、世界が落ち着きを取り戻したように感じられた。壁はもはや息苦しくなく、彼は呼吸ができ……耳にも音が聞こえるようになった。
「立て! 立ち上がらなきゃだめだ!」クルルは叫び、タカを立ち上がらせ、体を支えた。しかし、タカが再び倒れそうになったのは、ただ一度上を見上げただけであった――恐ろしく不自然な闇が霧のように部屋を満たし、頭上から放たれる強烈なエネルギーが、タカの背筋を震わせ、腕に鳥肌を立たせた。 暗闇が濃くなる直前に彼が最後に目にしたのは、鬼の顔が恐ろしく邪悪な笑みに歪む姿だった。
この闇が周囲を飲み込むにつれ、部屋は不気味なほど静まり返った。鬼は物音を立てなかった――あるいは、この魔法によって彼らが外界の音を聞き取れなくなっていたのかもしれない。 ゴブリンたちの攻撃は止んだ――少なくとも、天井に紫色の黒曜石のようなエネルギーの球体が形成され始めるまでは、そう見えた。その存在だけで周囲の虚無が押しやられたかのように、壁沿いのギザギザした岩にぶら下がっている三体、いや、四体のゴブリンが姿を現した。彼らはトーテムを握りしめ、何か忌まわしい呪文を唱えていた。
彼らの呪文が空気を満たし、思考を妨げた。
「呪文使いだ!」エシルが叫んだ。「エイラール、右側の奴らを狙え!」
「そして俺と君は左側の奴らを仕留める!」クルルは彼の意図を即座に理解した――長年の共闘によって培われたチームワークで、二人の鳥族は翼を広げ、敵に向かって飛び出した。
アーサーは自分がこの戦いにどう関わるべきかを明確に理解していた――剣を構えたまま待機し、ゴブリンが深淵から飛び出してくるたびに、容赦ない効率で切り裂いていった。地上では、タカとベリル、そしてアーサーが互いに身を寄せ合い、その周りをエイライアが舞いながら、完璧な狙いで標的に矢を放っていた――彼の「 」の矢は、たとえ霧の中を盲目的に放ったとしても、決して外れることがなかった。
もちろん、最初の標的であるギザギザした岩棚の上のゴブリンたちは、エシルが命令を下してから数秒のうちに倒されていた。 タカは頭上を漂う霧の隙間から、エシルがゴブリンの呪文使い二体を同時に槍で貫く姿を覗き見た。メイスを使うクルルは、パートナーが致命傷を与えられなかった一体の頭蓋骨を粉砕した。タカにもベリルにも割り込む隙はなかった――アーサーとエイライアが、一瞬の躊躇もなく二人を守っていたからだ。
「ベリル!」アーサーが叫ぶと、跳び上がっているゴブリンを剣で真っ二つに切り裂き、肩越しに少年の方を振り返った。「お前の魔法で、可燃性の粉を作れるか!?」
ベリルは青ざめて震えていたが、その声は明瞭で落ち着いていた。「燃……燃えるもの?! そ、それは……ぜひ試してみます!」 自信満々で、本性を露わにするような笑みが彼の顔を照らした。「ハハ! 見よ、アシュワズ家の偉大なる魔術師、ベリル・エドマンド・シフレの……実力だ!」
彼は両手を叩き合わせ、目を閉じ、しばらく集中した後、両手を外側に広げ、下へ下げた(まるでカーテンを下ろすかのように)。
「さあ! ダストを生み出せ!」
部屋がきらめき、膨れ上がり始めたまさにその瞬間、エシルとクルルは軽やかに着地した。部屋は、渦巻く巨大な青い塵の雲で溢れかえっていたのだ。
呪文使いたちが倒れたことで、黒い雲は後退し、完全に消え去った。ゴブリンたちが足場を失って高所から落下する中、悲鳴が空気を満たした。パキッ、ガリッという不気味な音が静寂を切り裂き、タカは身震いして耳を塞いだ。 オーガは足踏みし、よろめいた。苛立ちで真っ赤になった黒い瞳を輝かせ、咳き込み、手足をばたつかせながら、足元でゴブリンを踏み潰し、他のゴブリンを壁に叩きつけた。理解不能な言葉で悲鳴を上げるゴブリンを掴むと、もう要らないおもちゃのように部屋の向こうへ放り投げた。赤い血痕と砕けた骨――オーガは食事のことはとっくに忘れ、仲間をバラバラに引き裂き、洞窟は混沌と化していた。
その時、アーサーが叫んだ。「撤退だ!タカ!ベリル!トンネルに戻れ!」
「いや!」ベリルは抗議した。「待って! 俺がこれを『ダストストーム』に変えてやる。そうすれば、もう少し時間ができる!」
アーサーは、言わずもがなを物語る燃えるような眼差しを向けつつ、無言でうなずいた。ベリルが両手を叩き合わせて準備を始めると、アーサーはエシルとクルルに合図を送った。「二人を守れ。俺は遺体を回収する。」そして、厳しい口調で付け加えた。「あいつは爆発に耐えられないだろう。」
クルルの目が一瞬の衝撃で大きく見開かれた――「爆発?」と言わんばかりだった。しかし、その表情はすぐに消えた。「了解。俺とエシルは、彼らを視界から外さない」
「俺も絶対に目を離さないぞ!」とエイライアが口を挟んだ。冗談を言っている場合ではなかったので、誰も彼に構わなかった。ただ、タカだけは彼にほんのわずかな微笑みを送った――エイライアは満面の笑みとくすくす笑いでそれに応えた。
アーサーは躊躇うことなく戦いの渦へと飛び込んだ。ベリルの両手は、まるで重い球を操るかのように回転していた。塵がますます濃くなり、ゆっくりと渦を巻き始めた。数秒が、まるで数時間のように長く感じられた。 タカは、アーサーがオーガの乱暴な拳の振り下ろしをかわすのを見守っていた――そして、怪物が両拳をアーサーの体めがけて振り下ろした瞬間、悲鳴を上げた。しかし、両手は空を切り、怪物はよろめいて後退した。アーサーは素手だけでその攻撃をかわし、その勢いを利用して遺体を掴み取り、部屋を横切って全速力で駆け戻ってきた。結局、1分も経たないうちに彼は戻ってきており、傷一つ負っていなかった。
タカが彼の名前を口にする暇もないうちに、ベリルは「終わった!」と宣言した。
彼は拳を握りしめ――「ダストストーム!」――と叫ぶと、彼らの周囲に猛烈な風が渦巻き出した。その名の通り、砂塵が猛烈な勢いで舞い上がり、まるで真空の中であるかのように部屋中を飛び交った。時間が経つにつれて風はますます強まり、激しさを増していき、やがて風は激しい打撃のように彼らを襲った――確かに、洞窟の中でこのような現象が起こるはずなどなかった。
「うっ!」タカは咳き込み、慌てて口と目を覆った。
「撤退だ!」
六人は必死に部屋から駆け出し、来た道である洞窟の通路のような場所へと戻った。




