第42話:サウス・セントラル
南中部。アーサーから教わった三つの流派のうち、タカが最も興味をそそられたのはそれだった。しかし、それが何なのかとアーサーに尋ねたところ、返ってきたのは「防御型の流派だ」という言葉だけだった。
学びたいという想いが頭の中で燃え上がる中、ある朝、アーサーがついに休みがもらえると言い出したとき、タカは喜びのあまり飛び上がりそうになった。もちろん、その休みは、一週間にも及ぶ過酷な訓練を経てようやく訪れたものだった。
それまでの毎日が、まるで同じことの繰り返しだった――少なくとも、タカにはそう感じられた。講義を受けていない時は、スパーリングをしていた。食べて、寝て、スパーリング。それを何度も、何度も、何度も繰り返した。タカは自分が強くなっているとは感じられず、ただ疲れ果てているだけだった。 どんなに頑張っても、どんなに素早く短剣を振り回しても、決して標的に命中しなかった。アーサーの剣に当たることはあったが、それはカウントされない。
「そういえば、ここ数回は練習後の疲れが以前より少なくなってきた気がする。体も少しずつ慣れてきたのかな?」
ベリルも目立った進歩は見られず、日が経つにつれてますます苛立ちを募らせているようだった。 タカは、ベリルがアーサーを憎み始めているのではないかと心配になり始めていた。
「まあ、そうじゃないかもしれないし、僕が考えすぎなだけかもしれない。彼の方が僕よりずっと疲れている可能性もある。貴族だから、体への負担がより大きいのかもしれない。うーん。」
そう思うと、あることを思い出した。図書館のことだ。まだその件について尋ねておかなければならなかった。
「ねえ、ベリル」と彼は口いっぱいに頬張った、味付けが濃すぎてカリカリしたジャガイモのスライスを飲み込みながら切り出した。レルンではジャガイモが大人気だ。ジャガイモと卵、ジャガイモと肉、ジャガイモと……
「ん?」ベリルは紅茶のカップから目を離さなかった。なぜ彼がそれをじっと見つめているのか、タカにはさっぱり見当がつかなかった。
「あの、レルンに図書館があるかどうか、結局わかった?」
今日はいつものテーブルではなかった。位置的には普段と同じ場所に座っていたものの、やはり違和感を覚えた。普段なら、タカの視界にはベリルの背後の壁が入り、それが気を散らすこともなかったのだが。
しかし今回は、ハゲた男の後頭部が見えていた。これは信じられないほど気が散るものだったが、どこか滑稽でもあった。というのも、その男が話すたびに、後頭部の動きがタカにはまるで口のように見えたからだ。
「……そうだね。料金さえ払ってくれれば、喜んで見せてあげるよ。」
タカは首を傾げた。
「えっと、代償?」
『ただ、それを見ないで。ただ、それについて考えないで。』
「そう」とベリルは気楽に言い、紅茶に砂糖らしきものを加えた。「そこにいる間は、話さないこと」
「話してはいけない?」彼は笑いを必死にこらえながら、その言葉を繰り返した。「どうして?」
ハゲの男はひどく怒り出しているようで、その顔……いや、口……まあいいや、とにかくそれが激しく動いていた。タカは、ますます強くなる笑いをこらえなければならなかった。
『さあ……無視しろ、無視しろ、無視しろ、笑うな。笑うな』
口元が笑みを浮かべそうになったので、笑みが消えるまで唇の内側を噛みしめた。
『やれやれ、今度は口から血が出ちゃった。少なくともベリルは紅茶に気を取られているから、俺が彼を笑っているとは思わないだろう』
「ここは内省と静かな勉学の場だ。一度足を踏み入れれば、誰もが沈黙を守るという誓いに縛られる。さもなくば、永遠に声を失うことになる。」
ベリルの顔にはごくわずかな笑みが浮かんでいたが、その視線は依然として飲み物に釘付けだった。
「な、何だって?」
「それって本当なのか?」
タカはこれまで図書館に行ったことがなかった。デインから、本を借りられる場所として聞いたことがある程度だった。そこにルールがあるのか、それ以上のことがどうなっているのか、全く見当もつかなかった。 だから、ベリルが吐き出しているこの馬鹿げた話の数々は、タカにとってはあり得る真実のように感じられた。幸いなことに、ベリルがさらに奇妙で事実と異なる考えをタカに植え付ける前に、アーサーが割って入ったため、その状態は長くは続かなかった。
「いや、図書館はそんなふうには機能しないよ」とアーサーは言った。「静かにするよう求められるだけで、話してはいけないなんてことはない。それに、誓いなんてないよ」
ベリルは彼を睨みつけた。「ああ、ありがとう、アーサー。ただ、一度くらいは彼に黙ってほしかっただけなのに」
「お前が言うなんて皮肉だな。お前は決して黙らないくせに……」とタカは言い返した。
「何だって?!」
「もういい」
「……」
テーブルの周りに静寂が漂ったが、それは長くは続かなかった。
「ベリル、なんでお茶をじっと見つめてるの? 何か入ってるの?」
ベリルはため息をついた。
「水の色が変化するのを見ているんだ、タカ。ある瞬間が来たら……あ!」ベリルは、貴族らしい熟練した手つきと優雅さで、カップからティーバッグを取り出した。その動きは、滑らかで熟練しているように見せるために明らかに多大な努力が払われており、見事な見栄えだった。 しかし、人差し指と親指でティーバッグの紐を挟んだまま、それを肩の高さほどまで持ち上げると……
アーサーは彼を止めようと動いて、その前腕を掴んだ。ほぼ同時に、ベリルは暴れ出し、逃れようと劇的に手足をばたつかせ始めた。ティーバッグは、じっとした水音がしてテーブルの上に落ちた。
「何をしている……? 放、放してくれ!」
アーサーは目を細めた。
「物を投げちゃダメだ」と、彼は厳しい口調で叱った。
「わかった! いいよ! さあ、放してくれ――」アーサーは彼の腕を離した。その瞬間、ベリルは黙り込んだ。
「まあ、アーサーが彼を止めたのは、たぶん良かったんだと思うよ。もしあのハゲの男がベリルのティーバッグをぶつけられていたら、どうなるか想像したくもないね。まったく、なんでハゲって人はあんなに怖いんだろう?」
そんな状況に潜むはずのユーモアは、彼の頭からすっかり消え去り、代わりに、怒り狂ったハゲの男が彼ら全員を殴り殺してしまうという奇妙な想像が頭をよぎっていた。
「あいつのことなんて知らないのに。怒ってるなんて、どうして分かるんだ? それに、見知らぬハゲの男に、なんでこんなに怖がってるんだ――」
まるで彼に理由を与えるかのように、突然、激しいバタンという音がその場の空気を打ち砕いた。ハゲの男が座っていたテーブルに拳を叩きつけたため、木が砕ける音も同時に響いた。そして彼は席から立ち上がり、ドアを壁に叩きつけるほど勢いよく開け放って、建物から怒り狂って飛び出していった。傷ついたテーブルのそばには、ひどく動揺した様子の少女が一人取り残されていた。
「うーん、まあ、あいつは間違いなく怒ってるな。ちぇっ。まあいいや。じゃあね、怒ってて怖い、後頭部が顔みたいに見えるハゲの男さん。ふぅ。」
好奇心から、タカは彼女に目を向けた。彼女は今、酒場の店員に必死に謝りながら、店員がテーブルに何らかの修復の呪文をかけているところだった。彼女は冒険者にとてもよく似ていた……もしそうだとすれば、彼女のパーティーメンバーはどこにいるのだろう? ここには彼女以外に誰もいないようだし、あのハゲた男が仲間だとも思えなかった。彼はどう見ても冒険者には見えなかったからだ。
いずれにせよ、その考えにタカは胸が痛んだ。一人で冒険をするなんて、危険なのは言うまでもなく、なんだか寂しそうだ。
彼は自分の仲間たちの方を振り返った。真っ先に気づいたのは、ベリルの顔が青ざめていることだった。さて、彼をあれほど青ざめさせた原因として、タカが思いつくのはただ一つ……
「あっ。もしかして、あの怒り狂ったハゲ男にそれを投げつけようとしていたことに気づいて、その考えに自分も怖くなったのか? アーサー、相変わらずありがとう。マジで。まったくもう」
アーサーは、当然のことながら、今起きた一連の出来事に全く動じていない様子だった。彼にしか見えない何かをじっと見つめながら、カップが空になるまで静かにコーヒーを飲み干した。
やがて、テーブルは片付けられた。
「朝食、ありがとう、アーサー。またね」とタカは言った。アーサーから最後の一度うなずきをもらうと、一言も発せずに立ち去ったベリルを追って、ドアの外へ駆け出した。
「ベリル、待って!」と彼は叫び、スカーフをきつく巻き直しながら小走りに追いかけた。ベリルは足を緩めようとしなかった。
『もしかして、聞こえなかったのかな?』
ようやく彼に追いつくと、タカは彼の肩に手を置いた。
「おい――」
ベリルは立ち止まった。「触るな!」と彼はきっぱりと言い放ち、タカの手を払いのけた。タカは反射的に手を引っ込めた。
「痛っ、わ、わかった、ごめん……」
『最近、こいつ一体どうしたんだ?アーサーには何も言わないし、俺ともほとんど話さないし、些細なことでも怒るし……まあ、確かに前もよく理由もなく怒ってたけど、なんだか……今はもっとひどくなった気がする?』
タカはベリルに距離を置くよう、数歩後ろを歩いた。彼がまた爆発するのを、何よりも避けたいと思ったからだ。
「ベリル、最近どうしたんだ?アーサーとは話さないし、俺ともほとんど話さない……俺たちはパーティーだし、チームだろ?あ、友達じゃないのか?そうじゃないのか?」
ベリルは鼻で笑った。「俺たちが友達だなんて思ってるなら、お前は思ってたよりずっと馬鹿だな」
タカは思わず足を止めた。それは痛かった。しかもベリルの言葉はまだ終わっていなかった。彼はさらに続け、自分を苛立たせている様々なことを次々とぶちまけた。
「奴隷みたいにあの訓練を強いるアーサーと、俺が話す理由なんてない。お前たちは俺のパーティーメンバーかもしれないが、だからといって好きにならなきゃいけないわけじゃない。」
「私……あの訓練、そんなにひどいものじゃないと思うよ、ベリル。もしアーサーと話したくない理由が……まだ、あの時のことで怒ってるの?――」
「いや、違うよ」
「……わかった、聞いて……あれは大したことじゃなかったよ、アーサーもそう言ってたし。そんなに冷たくする理由なんてないよ、なんか……よくわからないけど。僕は……本当に――」
「それなら、たまには黙っててくれない? それが一番いいと思う。君はいつも……うっ。もう黙っててよ。」
打ちのめされたように、タカはさらに身を引いた。ベリルの言葉は毒を塗った針のようで、彼の心臓を突き刺し、ひび割れるまで傷つけ、タカは嘆き始めた。
そうだな。まあ…確かに、友達である必要なんてない。でも、彼らはパーティーなんだ。だから、せめて仲良くすべきだ。そうだろう? たぶん、これほど傷ついたのは、タカが必死にパーティーメンバーと友達になりたかったからなんだ。そして、彼には本当にそう感じられた……まるで、誰も彼と友達になりたくないかのように。アーサーだけは別かもしれない。とはいえ、アーサーは自分よりずっと、ずっと年上だから、なんだか変な感じもしたけど。
「アーサーは、友達というよりは、メンターや先生として見ているんだと思う。実際、まさにそういう存在なんだろう。何しろ、彼は僕たちを指導してくれているんだから」
アーサーには、デインを彷彿とさせるような、不思議なほど父親のようなオーラがあった。たぶん、彼らのそばにいるときに感じる感覚に過ぎないのかもしれないが、二人とも「良い」人に思えた。信頼できそうな気がする。二人とも、そういう意味で温かみがあった。奇妙なことだ。
…
歩きながら、ベリルの残酷な言葉が彼の心を苛んだ。考えれば考えるほど、彼らの「関係」に対して否定的な感情が募っていった。彼と出会って以来……
そのことにこだわらないようにと、タカは代わりに首を横に振り、自分たちが行ってきた訓練について考えを巡らせた。
二人は残りの道のりを、重苦しい沈黙の中で歩いた。




