第36話:不意を突かれて
今回は、いつもと特に変わったことは何もなかった。典型的なクエストの受領手続きだった。以前と同じ流れで、標準的な手順が踏まれた。担当者に契約書とクリアタグを手渡し、いくつかの質問に答え、といった具合だ。
机の向こうにいる半妖……タカは彼を見覚えがあると思った――そして、その予想は的中した。ここ数回と同じ担当者だった。これで、何回目になるだろう? 彼と会うのは。相変わらず不機嫌そうだった――そして以前と同じように、アーサーとベリルが彼の話を遮って、彼を怒らせてしまった。まさにいつもの光景だった。
前回会った時から奇跡的に仕事を楽しむようになったようには見えなかったが、タカは彼が解雇されずに済んだことを嬉しく思った。
そして報酬の支払いの時間になった。そのランクと性質のクエストとしては標準的なもので、報酬は銀貨10枚、換算すると金貨2枚だった。ベリルはより高い報酬を「値切り」ようとしたが、残念ながら、その職員が無礼な口調で説明したように、クエストがすでに掲示された後では、ギルドとして報酬を引き上げることはできないとのことだった。
ベリルが「なぜだ?」と様々な言い方で繰り返し問い詰め、騒ぎ始めたため、職員はしぶしぶ説明した。
そもそも、クエストの報酬は、その掲載を承認した担当官によって決定される。支払額は、仕事のランクと内容に基づいて決められる。単純なDランクのネズミ狩りであれば、10シルバーが標準だ。通常、巨大なネズミが登場すれば、その仕事はCティアに分類されるため、3~4ゴールドの報酬が見込める。 残念ながら、状況が変わった際にエニャが依頼内容の更新を怠っていたため、報酬はそのままだった。その仕事は、途中で何が起ころうともDランクの任務として分類されていたため、報酬は現物支給となる――それだけの話だった。
とはいえ、彼はアーサーがエニャの行動について語った内容をメモには書き留めておいた。
「上層部に伝えておくよ」と彼はため息をついた。どうやら、依頼内容をいかなる形であれ偽って伝えることは、ギルド規約に違反するらしい。それも当然だ――彼らが身をもって体験したように、Eランクの者たちを巨大なネズミの巣窟に放り込めば、事態は瞬く間に深刻化してしまうのだから。
今回の出来事について、タカはどう感じればいいのか分からなかった。一方で、もしアーサーがいなければ、自分とベリルは簡単に死んでいたかもしれない。しかし、アーサーがいたおかげで、彼らはまだ生きていた。彼女には叱責などを受けるべきかもしれないが、逮捕されたり、二度とギルドを利用できなくなったりするような事態にはなってほしくなかった。 それに、彼女が泣いている姿がどうしても頭から離れなかった。だから、自分の気持ちを確実に伝えたいと思ったのだ。
驚いたことに、その職員は彼の要望も書き留め、「必ず考慮に入れる」と言ってくれた。その後、彼が全員に「もう、さっさと失せろ」と言った時の反応は、それほど驚きではなかった。
アーサーは正反対の行動をとった。コインをタカ(最初は断ろうとしたが、アーサーが強く勧めたためしぶしぶ受け入れた)とベリル(問題なく受け取った)の間で分け終えると、 彼は半妖の方をじっと見つめた。当然のことながら、それに対して特に嫌悪感に満ちた睨みを返された。
数秒という長い時間がこのように過ぎてから、従業員の目がピクッと動いた。
「……何?」
「仕事を辞めろ。」
男はまばたきをした。「えっ?」
あまりにも唐突で予想外の言葉に、タカは思わず声を上げて息を呑み、その言葉を口にした人物を呆然と見つめてしまった。タカの視線を無視して、アーサーは続けた。
「君は冒険者になるべきだ。」
あれほど率直で、完全に場違いな発言が、あのような堅物な男から出るなんてほとんど意味が通じなかったが、アーサーの態度は冷淡ではなかった。それどころか、その目は優しく、口調も穏やかだった。彼はその男を嘲笑しているのではなく、心から助言している――タカは彼の様子を見てそう悟った。
タカは、ここしばらくアーサーと行動を共にしていたため、十分な背景情報を把握していた。アーサーが本気でない限り、そんなことは口にしない男だと知っていたのだ。
「え、えっと……何ですって?」半妖は再び言葉を詰まらせた。「あんたは一体何者なんだ……その、つまり……」彼は言葉を切り、顔に葛藤の表情を浮かべた。「……ええ、正直に言えば、たぶんあなたの言う通りでしょう。でも、そう簡単に辞めるわけにはいかないんです、私は――」
「なぜ?」
「なんで?」彼は鼻で笑った。「なんで俺が君に教えなきゃいけないんだ? 君は客であって、友達じゃないんだぞ。」
アーサーは一瞬言葉を切った。「もしかすると――」
「もしかして、何だ?」半妖は片方の眉を上げて、鋭く言い放った。
「――君の方が幸せになれるかもしれない。人生は短すぎる。嫌いなことをして無駄にするのはもったいない。僕にはわかる。」
店員はため息をついた。しかし、口を開こうとしたその瞬間……
「君の事情を分かっているふりはしない。君はまだ若い。不必要に苦しむ必要はない。」
そう言うと、アーサーはカウンターから背を向け、「よし。食事に行こう」と言った。
彼はギルドから大股で出て行き、ベリルとタカがそれに続いた。その二人組のうちのタカは、その男に最後の一瞥を投げかけ、彼が深く考え込んでいるのを見て、心の中でこう呟いた。『本当に辞めるのかな』
重厚な木製の扉がバタンと閉まった。




