第34話:プライド
なんてこった!」薬房の声が届かない場所まで離れると、ベリルは小声で呟いた。「あの地下室はとんでもなく汚かったぞ!」彼は鼻で笑った。「正直、何年も掃除してなかったみたいだ!あちこちに『クリーン』の呪文を唱えまくりたくなるのを、必死で抑えたよ!」
タカは唇をきつく結んで微笑むしかなかった。彼は疑問に思った。あの地下室に死んだネズミが放置されていたが、あれを何とかするべきだったのだろうか? それに、もしアーサーが屋根の穴を見つけたら、それも直すべきだったのだろうか? そうではないことを願った。
『実際、そうはならないだろう。ギルドの仕組みはそういうものじゃない。親切にしようと思えばできるかもしれないが、アーサーはやりたがらないだろうし……正直なところ、俺もやりたくない』
この仮定のシナリオの中で、アーサーの返事が聞こえてきそうだった。「俺たちの仕事じゃない。契約には書いてなかった。」あるいは、そんな感じの台詞だろう。突然、タカが頭の中で想像していた声に、アーサーの実際の声が重なった。
「君たち二人とも、これまで戦った経験はない。そうだろう?」それは、地下室で彼が発した言葉と全く同じ、率直で核心を突いた言い切りだった。不意を突かれたタカは、まばたきをした。
「えっと、その……いや、私、今まで誰とも戦ったことないんです。 戦いは見たことあるよ、つまり、人が戦ってるのを見たことはあるけど、それってあんまりカウントされないよね、たぶん……そう、で、えっと、君の質問への答えは…… いや、たぶんないかな。」 以前、デインは彼とスパーリングをしたことがあった――あれは戦いとしてカウントされるのか? もしそうなら、アーサーに言うべきだろうか? また考えすぎている。トレーニングと戦いは違うはずだ、そうじゃないか?
ベリルは息を呑み、アーサーの言葉に劇的に動揺した。「まあ、君がそんなことを思うなんて信じられないよ! 確かに、ここにいるタカには経験がないけど、それは最初から疑いようのないことだった! 僕、ベリル・エドマンド・シフレ・フォン・アシュワズが、ここ一番の戦士だってことは、みんな知ってるはずだ! なんで――」
アーサーは厳しい表情で、彼の言葉を遮った。
「いや、君は明らかにそうじゃない。君は固まってしまい、呪文を一つも唱えられなかった。タカも剣を落とし、固まってしまったが、少なくとも彼は自分の気持ちを正直に認めていた。正直になれ、ベリル。君はタカのやり方を参考にできるし、そうすべきだ。」
「彼の手本に――?!」ベリルは憤慨して叫んだ。「あいつが書いた本なんて、火の燃料として燃やしてやる以外に何の価値もない!」
アーサーとタカは同時にため息をついた。
「あの戦いで、私が見るべきものはすべて見えた。君たちは二人とも若く、経験不足だ。このままこんな仕事を続けていれば、誰か一人、あるいは全員が死ぬことになりかねない。タカ――君には謙虚さがある。それは良い資質だ。しかし、ベリル、君には傲慢さとプライドしかない。そんな態度で、どうやって上達するつもりだ?」
「プライド?!」ベリルは金切り声を上げた。「もし私がプライドが高いなら、それは当然のことだ! 私は事実上完璧だ。このパーティーを輝かせるために神々が送った贈り物なんだ! お前たちは私の足元にひざまずき、残ってくれと懇願すべきだ! 私がどれほど強力で素晴らしいかを称えるべきであって、私を貶めたり批判したりするなんて! プライド、傲慢、傲慢さ! 私にはそんなものは何一つない。だってそれらはすべて――」
ほんの一瞬だったが、タカはベリルの声がわずかにひっくり返ったのを確かに聞いた。それゆえ、このやり取りは見る者にとって一層面白く映った。この尊大な貴族が、これほど手際よく、完全に打ちのめされていく様子は。しかし同時に、タカはベリルに対して、ほんの少しの罪悪感と……同情も感じていた。自分の欠点を指摘されるのは愉快なことではない――タカはそれを知っていた。だが、時にはそれが必要なのだ。
成長するためには、自分の欠点に気づき、それを乗り越えなければならない。過ちから学ぶこと――それこそが成長だ。デインはそう教えてくれた。批判がなければ、成長には限界がある。
「とはいえ、ベリルはこれを、自分を成長させるような形で受け止めていないと思う。特に、自分がまるで『神からの贈り物』だとか、そんな風に本気で思っているならなおさらだ。」
アーサーはタカの言葉を無視して、話を続けた。「ベリル。タカ。君たち二人を俺が指導する。君たちが準備万端だと確信できるまで、もう仕事は受けない。まず――」
「何だと!? 誰が俺が――」
「俺だ。気が進もうがなかろうが、訓練を受けるんだ、ベリル。」
「そんなもの、いらない――」
「必要だよ。それに、練習用の剣も買ってあげるから。」
「いらないよ――」
「ベリル」
ベリルは不機嫌そうな顔をしたが、口を閉ざした。ほぼ、ね。時折、二歳児のように足を踏み鳴らすことはあったが、それ以外は……
アーサーは虚空をじっと見つめ、深く考え込んでいた。やがて、彼は口を開いた。その声は、自分自身だけに聞こえるように低く呟くようなものだった。
「それは良い最初の教訓だな……」そして、今度はもっと大きな声で。「それが最初の教訓だ。」
タカは首を傾げた。
「えっと、何が?」
「剣を買うことだ」アーサーは、それがこの世で最も当たり前のことであるかのように答えた。
「それがどうして教訓になるの?」
「そのうちわかるさ」
「えっと……わかったよ」
タカは、一体何を見ることになるのか、まったく見当がつかなかった。彼らはすでに――いや、正確にはタカがすでに剣を買っていた。それなのに、この「教訓」は一体何を彼に教えてくれるというのか? たぶん、これはタカのためというより、ベリルを教えるためのものなのだろう。それなら納得がいく。だが、もしかしたら――
彼の思考はしばらくの間、そんなふうに飛び交っていた。風が強まるにつれ、タカはマントをしっかりと引き締め、アーサーは再びベリルに語りかけた。
「……この教訓は『備え』についてだ。タカが剣を買ったのは、彼自身の選択だった。君は何も買わなかった――それも君の選択だった。」アーサーは、ベリルが反論するのを少し待った。何も言わないのを見て、アーサーは続けた。「今回は、選択の余地はない。 自分を守る手段は一つだけでは足りない。剣は俺が買ってやるが、選ぶのは君だ。」
『ベリールが説教されているのを見ていると、まるで小さな子供が叱られているのを見ているようだ。なんだか面白いな。』
ベリルは鼻で笑った。「自分で物を買うことくらい、十分にできる。保証するよ。」胸に優雅に手を当てながら、彼は付け加えた。「そんな野蛮なものは必要ない。すでに君にも強調した通り、私には――」
アーサーは首を横に振った。
「いや。君は学ぶんだ。そうしなければならない。」
ベリルは反論しようとしたが、口から出たのは苛立ちの混じった鼻息だけだった。彼は視線を落とし、両脇で拳を握りしめ、震え始めた。
「ベリル。今、わかったか?」
ベリルは勢いよく顔を上げ、燃えるような眼差しを向け、泣き言めいた叫び声を上げた。
「もう、まったく……わかってるわ、わかったって! もう私を子供扱いするのはやめて!」
「それなら、大人らしく振る舞ってよ」
「えっ――?!」
「前回は聞いてなかったから。だからこのレッスンを繰り返しているんだ。大事なことだから、ちゃんと聞いて。」
「でも、あなたも私の話を聞いてなかったじゃない! 私なら剣なんていらないわ、だって私には――」
「その態度じゃ、命が危ないぞ。」
「誓って言うけど、もう一回でも脅したら、私――」
アーサーはあからさまに背を向けて立ち去り、「行こう」と言って授業を締めくくった。
「お、おい!」ベリルは叫んだ。まるでアーサーとの言い争いに勝つ見込みがあるかのように。雪玉の方が地獄のどこかで勝つ可能性の方がまだ高いだろう。
こうして、一方的で勝ち目のない戦いを引きずりながら、ベリルはアーサーの後をついていった。一方、タカは少し距離を置いて、物思いにふけっていた。そのため、アーサーが「まずはギルドへ向かう」と言ったのを聞き逃してしまった。




