第31話:波の音
タカは、崖に打ち寄せる波の音を今でも覚えていた。コオロギの鳴き声、夜明けを待つ鳥たちのさえずり、早朝に鳴くフクロウの歌声、遠くで遠吠えする森のオオカミたちの声も、今も耳に響いている……
……ああ、この記憶はきっと……
彼はちょうど7歳になったばかりだった。めったにないことだが、デインは彼に家の前で夕日を眺めることを許してくれた。ただ一つ、彼が見える場所に留まるという条件付きで。
しかし――まだ幼かったタカは、エネルギーが溢れんばかりだった。それは間違いなく、デインが絶えず語ってくれた物語に煽られた冒険心によるものだった。
そうして、彼は前へと歩み出した。ずんぐりした小さな足で夕日の方へと進み、ちっぽけな手で空を掴もうとしていた。それは美しく、畏敬の念を抱かせる光景だった。生まれたその日から、空は彼にとって常に寄り添う存在だった。まだ幼かったため、この感情に名前をつけることはできなかったが、それは彼の中に旅への憧れを掻き立てた。
彼はデインの言うことを聞かないつもりはなかった。本当に。ただ、夕日をもっとよく見たかっただけだ。実のところ、彼の頭の中を駆け巡っていたのはただ一つの考えだけだった。「なんてきれいなんだろう」と。
タカはそれほど遠くまで来てはいなかった。家はまだ見えた。きっと、ここまでなら大丈夫だろう。デインも許してくれるはずだよね? デインならまだ自分が見えているはずだと確信していた。何しろ、デインは目が良いのだから。デインは本当に素晴らしい人だ。なんて……そして夕焼けは、ただ……
思考はあちこちと飛び回り、ぐるぐると渦を巻いた――その瞬間にすっかり夢中になっていたため、森から忍び寄ってきた巨大なネズミの群れに気づかなかった。
一連のチチチという甲高い鳴き声が、ネズミたちの存在を露わにした。タカはくるりと振り返ったが、バランスを崩してしまった。視界が ぐるぐると回り、世界が彼と共に崩れ落ち、地面に叩きつけられた。彼が覚えているのは、助けを、そしてデインを呼んで叫んでいたことだけだった。
ネズミたちが襲いかかった。ガラスが粉々になる音……
赤い閃光。そして、瞬く間にデインが現れ、しなやかに振るう尾、斧の刃がもつれた毛皮に深く食い込んだ。血、恐怖、動き、すべてが一つに混ざり合った……タカは、立ち上がることさえできず、激しく震えていたことを覚えている。 デインが自分を慰めてくれたこと、彼がいつも身につけていたスカーフを初めて自分に巻きつけてくれたことを覚えていた……飲んだ温かい牛乳、デインの口が動いているのを見たが、正確な言葉は思い出せなかった……ガラスでできた深い切り傷がデインの顔に刻まれていたこと、そして、自分の言うことを聞かなかったせいで親を傷つけてしまったという、あの鮮明な罪悪感を覚えていた。
泣いて謝ったこと、プレゼントとして何かを描いてあげたこと、そして……
タカは、デインが自分の頭を撫でてくれたことを思い出した。
「お前はいい子だ、タカ。」
タカ。
タカ……
「タカ!」




