第25話:ブロンズ
みなさん、こんにちは。手短に済ませます。この章で第2章が締めくくられます。そのため、かなり長い章になってしまいました。楽しんでいただければ幸いです。みなさん、ありがとうございました。あとがきでお会いしましょう。それでは、また。
タカの予想に反して、今回は列の進みがずっと早かった。机の向こうには、青みがかった紫色の肌をした若い半悪魔がいた。彼は、目のすぐ上まで届く深紅のスパイク状の黒髪と、上向きに突き出たヤギのような短い角を誇示していた。
「こんにちは」と彼はぶっきらぼうな口調で切り出した。「ようこそ――」
タカは、その手続きがスムーズに進んだと言いたいところだったが、実際にはそうではなかった。手続きは長くて退屈だった――しかも、その男がベリルとアーサーの両方から何度も話を遮られていたため、少し滑稽な光景でもあった。それが起こるたびに、男の怒りはますます募っていった。タカには、その男が自分の仕事を嫌っているという確かな印象を受けた。彼は軽蔑的で無礼であり、まるで自分がとてつもなく迷惑を被っているかのように振る舞っていた。
その間ずっと、タカは静かに座って、アーサーが質問に答えるのを聞き、その後、彼が書類に記入する様子を見守っていた。
最後に、半妖がパーティ名を尋ねると、アーサーは快く答えた。手続きを完了させるため、彼はその紙にパーティ名が入った完了証明の印鑑を押した。それが済むと、男は半ば心ここにあらずといった様子でギルドからの感謝を伝え、彼らは自由の身となった。
……実のところ、まだ報酬の件が残っていた。男はうんざりした様子で硬貨を取り出し、机の上に一列に並べた。光の下でキラキラと輝く五枚の銀貨。ベリルが動くより先に、アーサーはそれらを手のひらにすくい上げ、二枚をベリルに、二枚をタカに手渡した。
「待って、それじゃアーサーの分は残ってないじゃないか!」
「俺の分は要らない。二人で分け合え。」
待て。1枚残っている。
「え、その……じゃあ、せめて余った銀貨だけは受け取ってくれないか、アーサー?」
「いらないよ」
タカはそれをどうしても信じられなかった。「アーサー、本当にいいの?」
「ああ。」
ベリルは嘲笑し、鼻を高く上げ、両腕を前に突き出して宣言した。「それなら、最後のコインは俺のものだ!」
「いや」
「ダメだって?!」
「それについては、君とタカで話し合って決める必要がある。」
「一体どうやって――」
「えーっ!」
半妖の眉が激しくピクピクと動いた。限界まで薄れていた忍耐がついに切れた。「文句を言うなら、列から出て行ってくれ。この仕事、もう十分嫌になってるんだ。さっさとここから出て行け! そんな話、聞きたくない! さっさと出て行け!」
『あんなことを言って、仕事をクビにならないといいけど』
アーサーは素早くうなずくと、部屋の中で人の通らない場所へと歩いた。そこには壁に沿って、もう一つ長くてクッションの効いたベンチが置かれていた――ベリルはすぐに、大げさなため息をつきながらその席に座った。
アーサーが口を開く間もなく、ベリルが先に口を開いた。「さて、タカ!」彼はニヤリと笑った。「素晴らしいアイデアがあるんだ! そのコインを僕に譲ってくれ!」
タカは思わず笑ってしまった。「いや、それは無理だ。じゃんけんで決めようか?」
「じゃんけん…?! 俺に子供じみた遊びをしろってのか!? それは俺の尊い身分にはあまりにも見合わない、私は…!」
タカは苛立ちから目を細めた。「まあ、その……くじ引きで決めるのもいいかもな。」
「くじを引く?」
「じゃんけんだ」とアーサーは思案げな表情で言った。「それで決めよう」
こうして、決まった。
「いいよ! 時折、庶民の子供たちと交流するのも、貴族の責務ってものだろう?」
「どうでもいいよ」とタカはぶつぶつ言った。「黙れ、ベリル。さっさと遊ぼうよ」
ベリルがまた皮肉な言葉を放つ前に、タカは手を差し出した。
「三で。」
ベリルの口は、まだ言いたいこと――あるいは「言わなければならない」ことがあるかのように、開いたり閉じたりしていた。しかし、侮辱や不満を吐き出す代わりに、彼の口から飛び出したのは要求だった。
「四! 四秒だ!」
「えっ……そんなルールじゃないだろ、ベリル。いつも『3』で始めるんだ」
「『4』で。さもないと、俺はプレーしない」彼は反抗的に首を振りながら宣言した。
タカはため息をついた。
「うっ、わかった、いいよ。4で。準備はいい?」
こんな些細なことで「勝った」とばかりに顔を輝かせ、ベリルはニヤリと笑いながら答えた。「そんなこと聞く必要ある?」
こうして、タカとベリルは、非常に子供っぽく、口論の絶えないじゃんけんを繰り広げた。ベリルの度重なる不正行為の試みは、アーサーの仲裁と、タカの鋭い観察眼と常識によって阻止された――そして、タカにとっては不運な な展開により、ベリルはなぜか3戦中2勝を収め、余分なコインは彼のものとなった。
「ハハッ!この銀貨は俺のものだ!」と彼は自慢げに言いながら、アーサーの手のひらから賞品をひったくった。
「ふーん、その銀貨一枚で楽しめよ」とタカは目を白黒させながらぶつぶつ言った。
『少なくともアーサーが俺の部屋代を払ってくれている』と彼は思った。『あの仕事、そんなに稼げなかったし。それじゃ、あの部屋で何泊できるっていうんだ? それに、なんてこった、ベリルって本当にうざい。黙れよ、お前。じゃんけんで俺に勝ったからって大騒ぎするなよ、コインをしまっておいて……』
「よし、次は? アーサー」この時点で、タカは早く次の段階に進みたいと強く思っており、ベリルの我慢ならない振る舞いを無視する口実が欲しかった。
遠くの何かをじっと見つめながら、リーダーは静かに答えた。「もう一つの仕事を引き受けるんだ」
太陽が地平線の下に沈み、空がオレンジやピンクの様々な色合いに染まる頃には、彼らはFランクの仕事を3件ほど終えていた。どれも比較的単純な家事だった。
「家の片付けを手伝って!」というのがその一つだった。その仕事では、3人はある老婦人の家の中を歩き回り、彼女のために掃除をした。もう一つは、誰かの植物に水をやることだったが、ベリルはそれを難なくこなした……
……魔法を使って。すぐそばにじょうろがあり、水やりをする花もほんの一握りしかなかったにもかかわらず。
そこで、自分の実力を証明したかったのか、あるいはむしろ見せびらかしたかったのか、ベリルは土に手を突っ込み、かわいそうな老婦人の植物を文字通り水浸しにしてしまった。そして、それを直そうとした結果、うっかり植物から水分をすべて吸い出してしまったのだ。ふむ。魔法で植物に水をやることなんて、どうやら悪い考えだったようだ。
今日引き受けたFランクの依頼がすべて女性から出されていたのは、タカには少し奇妙に思えた。別に大した問題ではない。仕事はどれも穏やかだったし、ただ彼が予想していたものとは少し違っていただけだ。
どうやら、その花のおばさんは何らかの花の専門家だったらしい。ベリルがネクロマンサーのように植物の生命力を吸い取っているのを見ると、彼女は奇妙な粉を植物に振りかけ、それらはたちまち生き返ったのだ。魔法の植物用パウダー、とかそんなものだろう。正直なところ、 タカにはさっぱりわからなかった。 とにかく、その出来事以来、彼女はベリールを視界から離そうとしなかった。ベリールはじょうろを使って、彼女の植物3つすべてに、ゆっくりと、慎重に、そして怒りを込めて水をやっていく。彼がうまくできるようになるまでには時間がかかり、彼女は何度も指示を出し、修正しなければならなかった。それはなかなか面白かった。まるでベリールがこれまで一度も植物に水をやったことがないかのようだった……
タカ自身は経験がなかったが、デインが植物に水をやっているのを見たことはあった。そういえば、デインの家には鉢植えがいくつか置いてあったような……? マーベラッドでもそうだったし……
すべてが終わった後、タカは自分の気持ちをどう表現すればいいのかよくわからなかった。厳密には仕事をしているわけだし、やらなければならない雑用に対するベリルのイライラした反応を見るのは面白かったから、退屈だとは言い切れない。しかし、これが自分が想像していた「冒険」の姿だと言ったら、それは嘘になるだろう。 物語で描かれていたものとは全く違っていた。さらに悪いことに、どこか物足りなさを感じ、心の奥底で不安が募り始めていた。これからずっと、こんな調子でいくのだろうか? きっと良くなるはずだ。そう、絶対に良くなるはずだ! ランクが上がれば!
日々は過ぎていった。
ただひたすら一歩ずつ前進するように、タカと新しく出会った仲間たちは、Fランクの任務に懸命に取り組んだ。時折、Eランクの任務を一つか二つこなすこともあった。両者の違いはそれほど大きなものではなかったが、後者の方が前者よりも刺激的だと感じることもあった。いずれにせよ、それがその後の三週間の彼らの日課となった。起きて、食べて、働いて、眠る。
時間はあっという間に過ぎ、気がつけば彼らは正式にEランクのパーティーとして認定されていた。つまり、全員がブロンズランクの冒険者になったということだ。タカ自身が冒険者になってからそれほど時間は経っていなかったが、昇格の夜、ベッドに横たわりながら、彼は自分に対して信じられないほどの誇りを感じずにはいられなかった。 これでようやくDランクの仕事を受けられるようになった。その新たな可能性に対して、興奮しか感じないはずだったのに、実際には不安を覚えていた。
「もし何か悪いことが起きたら? まあ、アーサーもいるし。大丈夫だろう。そうだろう? そう思う。よし。そんなに心配するのはやめよう。」
気を紛らわせようとすると、思考は数時間前、ランクアップが決まった時のことへと戻っていった。興味深いことに、パーティがFランクからEランクへ移行する際( )、面接手続きは必要なかった。どうやら、それらはDランク以降から始まるらしい。
「まあ。明日はDランクの仕事をやるかもしれない。アーサー次第だけど、やれるといいな。実際に一つやってみれば、そんなに緊張しなくなるかもしれない。」別の考えが頭に浮かび、心配事を押しのけた。「だって、Dランクの仕事をやれば、本当に大金が入るかもしれないんだ。それはいいね。 いい気分転換になるだろうな。そういえば……」彼は、遅かれ早かれお金が底をついてしまうのではないかと恐れていた。特に、FランクやEランクの仕事ばかり続けているならなおさらだ。もちろん、アーサーがいくら持っているかを知る術など彼にはなかったが、誰にでも限界はあるはずだ。それに、アーサーは定期的に報酬の自分の分を放棄していたし、その仕事たちはそれほど儲かるものでもなかったのだ。
ここ数週間で、彼らは合わせて20枚ほどの銀貨、あるいは4枚の金貨を稼いだだろう。現時点で、彼自身の所持金は銀貨で2枚分、銅貨が6枚ほどだった。ああ、それにデーンからもらった金貨もまだ4枚持っていた。
では、ベリルはどうだろうか?彼はあの豪華な「商人用スイート」に滞在していた。 タカの記憶が正しければ、その部屋の一週間分の宿泊費は金貨2枚だった。つまり、今頃にはもう、6枚くらいは使ってしまったということか? そして、もうすぐまた支払わなければならないはずだ。ベリルは一体どうやってその費用を工面するつもりなのだろう? もしかしたら、彼の心配は無駄かもしれない――何しろベリルは貴族なのだから。それでもなお、タカはベリルの無責任な決断に不安を覚えずにはいられなかった。彼は、金持ちという連中のことを、本当に理解できないのだ。
金銭の話はさておき、彼は、地面に倒れ込んでいたところを偶然見つけ、より適切な言葉が見つからないが「救われた」あの日――謎の鳥人コンビ、
エシルとクルル。二人の名前は知ったが、彼らがパーティーを組んでいると仮定しても、そのグループの名前までは分からなかった。 最近、ある噂が広まっていた――もっとも、それは噂というより単なるたわごとかもしれないが――酒場の一つを荒らしたエルフと、二人の鳥族が一緒にいるところが目撃されたというのだ。タカがそれを耳にしたのはつい最近のことだったが、その出来事がかなり前のことだとすれば、事態は相当深刻だったに違いない……その時期を遡ると、実は彼が彼らに出会った日と一致していた。もしかすると、やはり彼らは一つのパーティーだったのかもしれない。
タカは手の甲をじっと見つめ、それから手をひっくり返して手のひらを見た。
「エシルとクルルか……」
『もう一度会って、改めてお礼を言いたいな』 金銭の話に戻ると、タカがアーサーに懸念を伝えた際、アーサーはただ微笑んで「心配するな」と言っただけだった。
「心配しなくていいんだって? お金のことになると緊張しちゃうから、どうしても心配しちゃうんだけど……」
「それでも、やっぱり気になるよね?」と彼は独り言のように口にした。「宿泊費には食事代が含まれていないから、アーサーが食事代も宿泊費も払ってくれてるんだ。それが……うーん、なんでこんなに気になってしまうんだろう? アーサーが『大丈夫』って言ってるんだから、きっと大丈夫だ。そんなに心配するなよ、タカ。だって、大丈夫だよね? そうだよね!」
その夜遅く、廊下の突き当たりにある個室のトイレへ向かうため廊下を歩いていると、彼は周囲を見回して、部屋は全部で15室ほどあるだろうと推測した。彼の部屋は真ん中の部屋のすぐ左側だった。そのため、部屋を出ると、入り口越しに居酒屋エリアがほんの少し見える位置にあった。
15室のうち、どの部屋が空きでどの部屋が埋まっているのかは、ドアを開けて中を覗かない限り分からなかった。おそらくすべて鍵がかかっているだろうし、たとえかかっていなくても、明らかな理由でそれは得策ではなかった。とにかく、タカは少なくとも鍵がかかっていることを願った。彼は、たいていの夜は自分の部屋の鍵をかけていた。たまに忘れることもあったが。
「まあ、レルンはかなり安全な場所だし、鍵をかけずに寝ても、最悪の場合、アーサーかベリルに起こされるくらいだろう。そもそも、彼らは普段からドアをノックして起こしてくるんだから」
彼はトイレに行き、それからベッドに戻った。戻る際、後ろのドアに鍵をかけるのも忘れなかった。この場所の壁は分厚かった――そうでなければ、トイレの水を流したり、手を洗うために蛇口を出したりするだけで誰かを起こしてしまうのではないかと心配していただろうから、彼はほっとした。タカは目を閉じた。
朝になれば、(うまくいけば)みんな初めてのDランククエストを受けることになる!アーサーに確認する必要はあるけど……今回は、またあの忌々しい雑用にならないかもしれないと思うと、彼はワクワクしていた。そんな思いを胸に、彼は眠りへと落ちていった……
皆さん、またこんにちは。今日の章を楽しんでいただけたでしょうか。タカはついに冒険者になりました……これから彼をどんな未来が待っているのでしょうか?
皆さん、ご支援ありがとうございます。3日後に第3章の冒頭をお読みいただけるよう、またお越しください。
ありがとうございます。
待ち時間が今、始まります……ゼロから……また?!




