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最強博物学者の優雅な秘境調査 〜絶滅種のモフモフ幼女を助けたら、懐かれすぎて新米助手になりました〜  作者: 月影


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第8章・第1話 :黄金の大平原と、白く染まる大地の異変

天空の白霧峡谷での調査を終え、ワイバーンの赤ちゃんたちの健やかな巣立ちを見届けた私たちは、次なる調査依頼を受けて、大陸の中央部に位置する広大な『黄金の豊穣平原・エルドラド・グレイン』へと足を運んでいた。



――サァァァァァ……ッ。



どこまでも続く地平線の先まで、見渡す限りの黄金色の麦並みが風に揺れている。

本来であれば、ここは王都をはじめとする数々の都市へ食料を供給する、大陸最大の穀倉地帯。ふくよかな土の香りと、天日をいっぱいに浴びた大麦の芳しさが満ち溢れているはずの美しい平原だ。


だが、私たちの目の前に広がる光景には、明らかな「異常」が混ざり込んでいた。



「うにゅぅ……。せんせい、あそこを見て。お空はこんなにピカピカに晴れてるのに、地面のところどころが、まるでゆきさんが降ったみたいに真っまっしろになってるよ? でも、ちっとも冷たくないの」



私の隣を歩くシルヴァが、不思議そうに灰色の獣耳を前後にピコピコと動かしながら、地面の一画を指差していた。

彼女の言う通り、黄金の麦畑の中に、まるで虫食いのように点々と、地面が不自然な「白い粉」で覆われ、そこにある麦が完全に枯れ果ててしまっている場所があった。

彼女の足元では、シロが三本の尻尾を低く下げ、その白い地面の匂いをおそるおそる嗅いでは、「ガウッ」と不快そうに小さく鼻を鳴らしている。



「あれは雪ではないよ、シルヴァ。土壌の水分が急激に失われ、地脈に含まれる成分が異常結晶化して表面に噴き出したもの――すなわち『塩』さ」



私は足を止め、眼鏡のブリッジを指先でクイと押し上げながら、その白い土壌をひとつまみ救い上げ、眼鏡の奥の鑑定回路を駆動させた。



(――『鑑定眼』)



====================

【名称:異常塩化の土壌】

【品質:最悪】

【状態:マナの枯渇】

【特徴:平原の地下を流れる『大地の豊穣マナ』が何者かによって強引に遮断され、土壌の自浄作用が完全停止。このまま塩化が広がれば、あと一ヶ月で平原全体の穀物が全滅し、大陸規模の大飢饉が発生する】

====================



「ふむ。ただの天候不順による塩害かと思っていたけれど、どうやらそんな自然現象ではないね。地脈の奥深くで、マナの流れが『不自然に逆流』させられている。このエリアの開拓農民たちが『大地の女神の怒り』だと恐れて全員逃げ出してしまったようだけれど、博物学者として言わせてもらえば、自然を神の怒りで片付けるのは怠慢さ。すべての異常には、それを引き起こす具体的な『原因』と『術式』が存在するんだ」



「えっ……? じゃあ、せんせい、やっぱりこれも、あの黒くてわるい服を着た人たちの仕業しわざなの?」



シルヴァが小さな手を握りしめ、憤慨したように私の顔を見上げてくる。先の章で戦った秘密結社の残党たちの影を、彼女も敏感に察知したらしい。



「おそらくね。彼らはこの平原の地下にある『古代の豊穣祭壇』を乗っ取り、星の生命力を直接奪い取ろうとしているのだろう。……おや、どうやら私たちの調査を歓迎しない先住者たちが、畑の奥からお迎えに来てくれたようだね」



私が呟いた直後。



――ザザザザザザザザッ!!!



黄金の麦畑が激しく割れ、私たちの周囲を包囲するようにして、無数の「異形のもの」が姿を現した。

それは、体長が二メートルを超える、全身がガサガサとした塩の結晶で覆われた巨大なバッタの化け物――『ソルト・ロカスト(塩殻蝗虫)』の群れだった。

その数は数十、いや、数百匹。彼らが歩くだけで、周囲のみずみずしい麦が一瞬にして白く干からび、塩へと変わっていく。大飢饉をもたらす災厄の群れが、一斉に私たちに向けてその鋭い顎をギチギチと鳴らし始めた。



「ガウ、グルルル……ッ!!」



シロが瞬時に私の前に躍り出ると、三本の尻尾を逆立てて冷気の障壁を展開しようとする。



「危ないの、せんせい! 白いむしさんがいっぱいきちゃった!」



「慌てなくていいよ、シルヴァ。シロも、まだ冷気を使う必要はない。彼らは土壌の異常塩化によって狂暴化した、言わば被害者だからね。……さて、彼らには少しだけ、その場で眠ってもらおうか。――『細胞脱水(水分勾配の再設定)』」



私は手にした万年筆の先を、殺到する蝗虫の群れに向けて優雅に一振りした。

放たれたのは、破壊の魔法ではない。彼らの身体の表面を覆う塩の結晶と、大気中の水分の『浸透圧比率』を、ほんの少しだけ反転させる博物学のロジック。


次の瞬間、私たちに飛びかかろうとしていた数百匹の巨大バッタたちは、空中で突如として動きを止め――。



――ポタポタポタポタッ……。



自身の塩の殻に体内の余分な水分を急速に吸い取られ、心地よい「適度な脱水状態」となったことで、一斉にバタバタと地面へ転がり、そのまま気持ちよさそうにスースーと深い眠りについてしまった。一滴の血も流さず、平原の生態系を傷つけることもない私の完璧な無力化に、遠くの監視塔から怯えながら見ていた農民の代表たちが、腰を抜かして驚愕している。



「すごーい! せんせい、虫さんたちがみんな、お昼寝ひるねを始めちゃった!」



「構造を理解すれば、命を奪わずに制圧することなど容易いさ。……さて、地脈の逆流の源泉は、この畑の地下数十メートルにある祭壇だ。シルヴァ、シロ、大冒険の本番はこれからだよ。だけどその前に――」



私は遮るもののない青空を見上げ、ふっと微笑んだ。



「長距離の移動で、私たちの胃袋も完全に干からびかけているからね。まずはこの美しい大平原の真ん中で、極上の青空ランチタイムと洒落込もうじゃないか」

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