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最強博物学者の優雅な秘境調査 〜絶滅種のモフモフ幼女を助けたら、懐かれすぎて新米助手になりました〜  作者: 月影


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第7章・第1話 :霧深き天空の鉄橋と、消えた物資の謎

世界の果ての巨石遺構での調査を終え、王都で溜まっていた報告書の処理を片付けた私たちは、再び新たなフィールドワークへと赴いていた。

今回私たちが訪れたのは、大陸の東西を阻む巨大な大亀裂に架けられた、文明の結晶とも言える場所――『天空の白霧峡谷・グランドブリッジ』だ。



――ゴォォォォォォ……ッ。



足元を見下ろせば、底が全く見えないほどに深い奈落の底。そこから吹き上がってくるのは、視界を真っ白に染め上げる、冷たく湿った濃密な白霧だ。

その峡谷を跨ぐようにして、ドワーフの最先端技術で造られた頑強な黒鉄の鉄道橋が、遥か彼方の対岸へと真っ直ぐに伸びていた。

本来であれば、東西を行き来する無数の魔導列車や商人たちで活気に溢れているはずの場所なのだが……今の鉄橋の周囲には、不気味なほどの静寂が広がっていた。



「うにゅぅ……。せんせい、ここ、すっごくお空が近くて高いよ? でも、足の下が真っ白で何も見えないから、なんだか雲の上を歩いてるみたい。ちょっとだけ、足がピクピクしちゃうの」



私の隣を歩くシルヴァが、鉄橋の欄干から恐る恐る下を覗き込みながら、灰色の獣耳をペタンと寝かせていた。

普段は元気いっぱいの彼女も、この規格外の高さと視界を阻む深い霧には、野生の勘が警戒を促しているらしい。

彼女の足元では、シロが三本の尻尾をゆったりと揺らしながら、霧の水分が心地よいのか、どこか楽しそうに周囲の空気を鼻先でフニフニと嗅いでいた。



「怖がることはないよ、シルヴァ。この鉄橋は、ドワーフの最高強度の特殊合金と、重力反転の防魔式が幾重にも組み込まれて造られている。仮にドラゴンが上から衝突したとしても、傷一つ付かない頑丈さだからね。……ただ、今回私たちがここに呼ばれた理由は、物理的な破壊・・ではないんだ」



私は歩みを止め、眼鏡のブリッジを指先でクイと押し上げながら、鉄橋のレールの上に残された「奇妙な痕跡」に視線を向けた。



(――『鑑定眼』)



====================

【名称:魔導列車の停車痕跡】

【品質:――】

【状態:異常残滓あり】

【特徴:一週間前、王都へ向かう予定だった大陸横断列車が、この鉄橋の中央で突如として『消失』。車体や乗客はそのままに、積み込まれていた『最上級のマナ石炭』と『高級食材』だけが、まるで煙のように綺麗に消え去っている】

====================



「ふむ。列車そのものは傷を負わず、中身の特定の物資だけが消える、か。警備の魔導師たちは『霧の亡霊による呪い』だと怯えて、物流を完全にストップさせてしまったようだけれど、博物学者として言わせてもらえば、呪いほど非科学的な言葉はないね。すべての現象には、必ずそれを引き起こす『構造』が存在するんだ」



「えっ……? じゃあ、せんせい、お化け(おばけ)さんじゃなくて、誰かが泥棒どろぼうさんをしたの?」



シルヴァが大きな丸い瞳を輝かせ、私の顔を見上げてくる。



「そういうことさ。それも、この濃密な白霧を都合よく利用できる、この峡谷の生態系のトップに君臨する『ある生物』の仕業だよ。……おや、噂をすれば、彼らの方からご挨拶に来てくれたようだね」



私がそう呟いた瞬間。



――キィィィィィィン……ッ!!!



深い白霧の奥から、鼓膜を突き刺すような鋭い高周波の鳴き声が響き渡った。

同時に、霧の形状が不自然に歪み、私たちの頭上から、巨大な影が猛烈な速度で急降下してきた。

それは、広げた翼の長さが五メートルを超える、全身が透き通るような純白の鱗で覆われた怪鳥――『ミスト・ワイバーン(霧幻翼竜)』の群れだった。

しかもその数は一匹や二匹ではない。十匹以上の群れが、鋭い爪を剥き出しにしながら、私たちを新たな獲物と認識したように襲いかかってきたのだ。



「ガウ、グルルル……ッ!!」



シロが瞬時に前へと飛び出し、三本の尻尾を逆立てて、氷の障壁を展開しようとする。



「危ないの、せんせい! 大きい鳥さんがいっぱい飛んできたよ!」



「慌てなくていいよ、シルヴァ。シロも、まだ魔法を使う段階じゃない。彼らがなぜ、列車から『食べ物』と『熱源』だけを奪ったのか……その答えが、今ので確信に変わったよ。……さて、まずは彼らにお引き取り願おうか。――『音響反転アコースティック・フェイズ』」



私が手にした万年筆の先を、空間に向けて小さく一振りした。

ワイバーンたちが放っていた強烈な高周波の鳴き声が、私の展開した不可視の数式に衝突した瞬間、その波形を完璧に『逆位相』へと反転され、全く同じ体積の「無音の衝撃波」となって彼ら自身へと跳ね返った。



――ドゴォォォンッ!!!



「ギャ、ギィィッ!?」

「ピギャァァァッ!?」



自身が放った音波の衝撃をそのまま脳天に食らったミスト・ワイバーンたちは、空中でのバランスを完全に崩し、悲鳴を上げながら霧の奥へと命からがら逃げ去っていった。一滴の血も流さず、一瞬で群れを散らす私の手際に、遠くで見守っていた鉄橋の警備兵たちが唖然として口を開けている。



「すごーい! せんせい、万年筆をシュッてしただけで、おっきな鳥さんたちがみんな飛んでいっちゃった!」



「彼らは知性が高いからね、分が悪いと悟ればすぐに引くさ。……さて、彼らの巣は、この鉄橋の真下にある巨大な洞窟だ。シルヴァ、シロ、調査の本番はこれからだよ。だけどその前に――」



私は空を見上げ、ふっと微笑んだ。



「長旅で私たちの燃料も切れかけている。まずは霧を眺めながら、極上のランチタイムと洒落込もうじゃないか」

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