第6章・第2話 :異界の門と、荒野の即席バーベキュー
バチバチと赤黒い放電を撒き散らしながら、徐々に拡大していく『異界の門』。
そこからは、大陸の既存の生態系には絶対に存在しない、悍ましい異界の魔力が津波のように溢れ出してきている。
普通の一流魔導師であれば、その場に立っているだけで精神を汚染され、発狂しかねないほどの絶望的な光景。
だが、私たちの空気は違っていた。
「――グゥゥゥゥ……」
突如として、非常に静かだが、主張の激しい音が鳴り響いた。
音の発生源は、私の隣。シルヴァが自分のぽんぽこりんなお腹を両手で押さえながら、顔を真っ赤にしている。
「うにゅぅ……。せんせい、シルヴァ、お山の地鳴り(じなり)に負けないくらい、お腹が鳴っちゃったの……」
「ガウ、ウゥン」
シロも賛同するように、トボトボとした足取りで私の足元に擦り寄ってくる。長旅の末の夕暮れ時だ。二人の燃料切れは当然の理と言えた。
「はは、そうだね。世界の危機も大事だけれど、我が研究所の助手たちの栄養補給の方が最優先事項だ。門が完全に開くまでには、まだあと数十分はある。先に夕食にしよう」
「わあぁぁ……っ! ご飯! せんせい、今日のご飯はなぁに!?」
一瞬でシリアスな表情を吹き飛ばし、シルヴァの尻尾が千切れんばかりに回転を始める。
「今回は、王都を発つ前に陛下からいただいた、あの特製生ハムの残りと――この荒野の地下水で育った稀少な『岩割キノコ』、そしてドワーフの街で仕入れた『万年岩塩』を使った特製バーベキューさ」
私は手際よく魔導コンロを組み立て、巨石の陰に風除けを作ると、肉とキノコを厚切りにして鉄板へと並べた。
――ジュゥゥゥゥゥウウウ……ッ!!!
静かな荒野に、猛烈に食欲をそそる油の爆ぜる音が響き渡る。
極上の生ハムから溢れ出た良質な脂が、肉厚な岩割キノコにじっくりと染み込んでいき、万年岩塩の尖った塩気が全体を完璧に引き締める。
(――『鑑定眼』)
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【名称:荒野の特製厚切りバーベキュー串】
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「よし、焼き上がりだ。二人とも、火傷しないようにね」
「いっただっきまーす!」
シルヴァは豪快に串を掴むと、ふーふーともせずに、大きなお肉とキノコを一緒にガブリと噛みちぎった。
「ん、んみゃぁぁぁいっ……!! せんせい、これ、お肉の旨味がジュワッてお口の中で洪水になってるよ! キノコさんもシャキシャキしてて、お口がすっごく幸せなの!」
シルヴァの耳が嬉しそうにパタパタと踊る。
ドワーフの岩塩が肉の甘みを限界まで引き出しており、噛めば噛むほど濃厚な味わいが脳髄を刺激するのだ。
シロも自分の皿に盛られた肉をハグハグと猛烈な勢いで平らげ、幸せそうに目を細めて三本の尻尾を同時にゆらゆらと振っていた。
「ふぅ、これで元気百倍だね。……さて、向こうの準備も整ったようだ」
私が食後の紅茶を飲み干すと同時に、異界の門から、ついに『それ』が姿を現した。




