第4章・第3話 :山頂の魔導要塞、金眼商会の陰謀
フロスト・テイル――私たちは彼を『シロ』と呼ぶことにした――の案内のもと、猛吹雪の岩壁を登りきった私たちは、山頂の巨大なクレーターの中に隠された「異様な光景」を目撃していた。
そこにあったのは、純白の雪山にはおよそ不釣り合いな、無骨な黒鉄で埋め尽くされた『秘密魔導要塞』だった。
数え切れないほどの人間たちが、慌ただしく魔導重機を動かし、山肌を乱暴に削り取っている。
その中央には、霊山の地脈――すなわち『竜脈』の核から、強引に純粋な魔力を吸い上げている巨大な吸魔装置が鎮座していた。
「ひどい……。お山が、すっごく痛がって泣いてるよ、せんせい」
シルヴァが私の外套をぎゅっと掴みながら、悲しそうな声を漏らした。
彼女の言う通り、竜脈から吸い上げられたエネルギーは禍々しい漆黒の魔力へと変換され、要塞の動力源として消費されていた。
「ふむ。この山の竜脈の力を利用して、大陸規模の禁忌兵器でも製造していたというわけだね。ザルツブルグのミスリルも、世界樹の水神の魔核も、すべてはこの要塞のエネルギーを安定させるためのパーツだったらしい」
私は眼鏡のブリッジを押し上げ、要塞の構造を瞬時に解剖した。
(――『鑑定眼』)
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【名称:金眼商会・極秘魔導炉】
【状態:過負荷。竜脈のエネルギーを強引に圧縮しているため、構造的限界に近い】
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「ガウ、グルルル……ッ!」
シロが低い唸り声を上げ、要塞のバルコニーに立つ一人の男を指し示した。
そこにいたのは、これまでの支部長たちとは比較にならないほど豪華な、金色の刺繍がこれでもかと施された衣服を纏った老人。彼こそが、悪徳商業ギルド『ゴールドデン・アイ』の最高総帥、ギルバートだった。
「ヒャーハハハ! ついに、ついに完成するぞ! この『竜脈破壊砲』さえあれば、王都など一瞬で我が商会の軍門に下るわ! エルフの里もドワーフの街も、すべて我が金眼商会の所有物となるのだ!」
狂気に満ちた老人の笑い声が、吹雪の中に響き渡る。
「それは困るね。あそこの食文化は、博物学的にも私の胃袋的にも、非常に価値のあるものだからね」
私は一切の隠密を解き、堂々と要塞の正面玄関へと歩み進めた。
「だ、誰だてめえらは!?」
「侵入者だ! ガキと……王都の学者か!?」
一瞬にして周囲の武装した私兵たち数百名が、私たちを包囲し、一斉に魔導銃や剣を構えた。
「私の名前はアルス。ただの博物学者さ。ギルバート総帥、君たちの違法な開発行為、および希少生物への虐待行為は、我が国の博物学規定、ならびに国際法に基づき、即刻停止してもらう」
私の淡々とした警告に、バルコニーのギルバートは一瞬呆気に取られ、次の瞬間、大爆笑を破裂させた。
「ハハハハハ! 王都のインテリが何をしに来たかと思えば、たった二人でこの要塞を止めにきただと!? 舐めるのも大概にしろ! 者ども、その生意気な学者ごと、そこの獣人のガキを八つ裂きにしろ!」
「ヒハッ! 死ねや、学者先生ぇ!!」
数百人の私兵が一斉に引き金を引き、無数の魔導弾と、鋭利な刃が私たちに向けて殺到する。
まさに四方八方、退路のない絶対絶命の包囲網。
「うにゅ……! せんせい……っ!」
「大丈夫だよ、シルヴァ。シロも、私の後ろに下がっておいで」
私はため息をひとつ、静かに吐き出すと、懐からいつも使っている『万年筆』を抜き放った。
「新米助手への、これが最後の実戦講義だ。よく見ておくんだよ」
私の眼鏡の奥で、世界のすべての『理』が、鮮やかな光の線となって収束を始めた。




