IF②『取り落したくないから』
「こうやって買い物に行くのもなんだかんだ久しぶりだな。任務ばっかで食堂に入り浸ってたし」
「大体食事はコンビニで事足りるしな。わざわざ贅沢をするのはこういう時だけで十分だ」
裕哉と早希のデートコースとして指定されたのは、この街で一番大きなショッピングモールだ。休日には当然多くの人が出入りし、賑やかな光景を目にすることが出来る。だが、平日の真昼ともなればその賑わいは落ち着いていた。
「非番を平日に取れるのはまあまあいいとこだよな。そのおかげで混雑するようなところにも行けるし」
「その分普段の勤務は中々に厳しいがな。お前とコンビを組めていることが救いだ」
「……まあ、それはそうかもな。主席と次席の重圧はかなり激しいけど」
信頼されていない割には、二人の肩に乗っている期待だけがやたらと思い。完全実力主義のあの学園をトップで卒業したともなれば仕方のない話ではあるのだろうが、それならそれでその信頼を示してほしいというのが本音だった。
「まあ、今まで本当に危険な地域には向かってなかったもんな。そこを知らないやつらに何を言っても……みたいなところはあるのか」
「だろうな。しょせん私たちは井の中の蛙らしい。少なくとも彼らの中ではな」
霧島家の跡取りと、そんな彼女をいちどならず上回った星火学園主席。その称号は輝かしいものだが、それが魔獣との戦闘を勝利へと導いてくれるわけもない。頼れるのは自分の実力であり、その背中を預けるお互いの実力だ。……その価値を示さなければ、魔導局の人間に信頼されることもないのだろう。
「ほんと、すげえ世界に飛び込んじまったもんだな……。それも俺の決断だから、後悔はしてないけどさ」
「ああ、そうだな。……後悔はしないし、私がさせないさ」
そう言って、早希は裕哉の手を取る。ぐいぐいと強く手を引くその先には、早希にとっての目的地があった。
「ここが新作の魔道具ショップか……。休みの日にもここに来るの、言ってしまえば職業病みたいなもんだよな」
「仕方がないだろう、仕事があったらこんなところには来られないのだから。支給される装備も十分強力だが、やはり細かい部分は自分でこだわるに限る」
「そうだな。兵装である程度身の安全が保障されてるとしても、ケガするのはできる限り避けたいし」
学園に在籍していたころでも、『ある事件』で裕哉はかなりの重傷を負ったことがあった。その時の早希の激情と言えば、今でもありありと思い出せるくらいには克明だったのだが――
「……ああ、あの時は本当に肝が冷えた。できるなら二度と傷つかないでくれ」
「それに関しては前向きに善処するよ。……お前が危ないときは、その限りじゃないけど」
もう大切な人が傷ついているのを目の前で見ているだけで終わるのは御免だ。そうならないための力も身に着けたし、誰かを助けるための技術も得た。……もう、二の舞は演じない。
「ほら、早くこっちに来てくれ。一緒に武装の確認がしたいんだ」
「ああ、ちょっと待ってろ――」
急かす声に応えて、裕哉は早希の背中を追う。その足取りは軽く、しかし明確な決意を宿していた。
『ある事件』に関しては、この先も語る機会があるかと思われます。少しだけズレた先にあった彼らの日常、是非楽しんでいただければと思います!
――では、また次回お目にかかりましょう!




