IF『肯定される道の名は』
これはIFルート、選択されなかった未来のお話です。かと言って全く起こり得なかった者かと言われればそうじゃなく、何かのかみ合わせが違えば、何か一つ言葉が違えばそこにあった可能性ではあるかと思います。
――では、『彼ら』の物語をぜひお楽しみください。
――自分は無責任なのではないかと、何度も自問した。『だってしょうがないじゃないか』と、そのたびに自答する声が聞こえた。
拒絶されたのだから。裕哉がいる限り、梓の傷はささくれ続けるのだから。裕哉の存在が見えなければ、梓はむやみに傷つかずに、落ち込まずに生きていけるのだから――
「……お前、また私以外の女のことを考えているな?」
裕哉の思考は、目の前から聞こえた冷たい声にかき消される。ふと顔を挙げれば、そこにはジト目でこちらを見つめる早希の姿があった。
「お前を待たせてしまったのは悪かったが、だからと言って私以外のことを考えていられるのは気分が悪い。詳細な説明と補償を求めるぞ」
「……悪い、梓のことを少し考えてた。……なんせ、もうあれから三年だろ?」
「……ああ、そうだな。それと同時に、私たちが付き合って三年の記念日でもある。そっちの方が大事だと思うのだが、それについてはどうだ?」
「反論の余地もねえな。できる限りで補填はするからどうか許してほしいもんだ」
昼間の駅前で、裕哉は早希に向かって九十度しっかり腰を折ったお辞儀を披露する。町ゆく人々がその様子を物珍し気に見つめていたが、そんなことはまあどうでもよかった。
本当に大事なのは、目の前の少女に許してもらえるかどうかなのだが――
「できる限りのことは何でも、か」
「そりゃ今回のデート全額おごれとか言われても無理だからな。俺もお前も今はまだ安月給、そうだろ?」
『星火学園』を主席と次席で卒業してもなお、新人に対する扱いというのはたかが知れている。鳴り物入りのコンビとして名を挙げるには、まだまだ時間も実績も足りなさ過ぎた。
「分かっているさ。最近は私も父上の支援から離れて生活しているからな」
「そこまでしなくてもよかった気はするけどな……使えるものは何でも使うのがいいと思うぞ?」
「それでは立派な後継になったとは言えないからな。不便を知ってこそ、霧島の人間として相応しい存在に成れるということだ」
父上もそんな生活をしていたと聞くぞ、と早希は胸を張って見せる。不便なこともあるだろうに、それをおくびにも出さない早希のことが愛おしかった。
「それよりも、社会人になる事で色々な稽古から解放されたことが大きいな。だからこそ、こうして非番の日を合わせて一日一緒に過ごすことが出来る」
「お父様に認められるにはまだまだ遠いもんな……。それが出来たらお前んちに居ついたりもできるんだろうけどさ」
「それに関して焦る必要はないだろうさ。裕哉の魅力は私が一番知っているからな、それが伝われば父上もいつかは認めてくれる……いや、認めさせる」
「ま、焦りすぎない程度にってことだな。今日明日で何とかなる事じゃないけど――」
「だけど、いつかはたどり着くさ。……これは、私のエゴでつかんだ未来なのだからな」
「………………………ああ、そうだな」
三年前、全てが反転したあの日。恋する一人の少女のエゴが、物語の筋書きを飲みこんだ日。その日を経た今、裕哉は幸せをかみしめている。その選択が誰かを傷つけたのだとしても、誰かを諦めることだったのだとしても。
――この在り得ざる物語が幸福なのは、裕哉にとって確かな事実だった。
IFルートの物語、もう少しだけ続きます!彼女のエゴが生んだ結末はどこへ続いていくのか、楽しんでいただけると幸いです!
――では、また次回お目にかかりましょう!




