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第八十話『エゴ』

 それは、あまりにふざけた答えだった。今までの悩みをすべて足蹴にされたような、全て嘲笑されたような。……心の内から、何かが燃え上がる感覚がある。それをなんて表現すればいいのか、その答えだけはすぐに分かった。


「ふざけたこと、言ってくれるなよッ‼」


 瞬間、その怒りに応えるかのように水が大きなうねりを作り上げる。それはきっと、裕哉の内側に押し隠されていた感情の奔流だ。エゴと自問の裏に押し隠された、松原裕哉の本心だ。


「証明しなきゃ、アイツはずっと自分のことを嫌いで居続ける! 証明しなきゃ、俺はあいつの傍にいられない! 過去から解き放ってやることもできない! ……そのための証明を、『投げ捨てろ』だぁ⁉」


「ああ、その通りだ! 誰かに証明してもらわねばいけない強さなど犬にでも食わせておけッ‼」


 激情に塗れた水を、早希もまた激情が赴くがまま作り上げた氷の剣で押し返す。感情と感情のぶつかり合い。これをきっと、世の中では喧嘩というのだろう。……この戦いに、決闘などという儀礼的な言葉は似合わない。


「誰の許可も得ずに勝手に生徒会を飛び出して、誰の許可も得ずに最下層で妙なことを考えて! ……私の気持ちも考えずにすべてを置き去りにしたお前が、今更誰かに何かを証明してもらうだと⁉ …………矛盾だらけな自分に、いい加減目を向けるといい!」


「……考えられねえよ、お前の気持ちなんて‼」


 だって余裕がなかったのだ。すべての気持ちを汲んでそれを尊重できるほど、裕哉の器は大きくなくて。よしんば大きくなっていたのだとしても、それは梓のために作り上げられたもので。……梓を救ってくれないものに対して、その大きさは向けられないのだ。


「お前は強い! 誰に証明してもらわなくてもな! 誰かに証明してもらわなきゃ強いなんて言えない、名乗れない俺とは違うんだよッ‼」


「過去のお前は、確かに強かったぞ!」


「現最強のお前に言われても嫌味でしかねえよ‼」


 氷と水はまたしても衝突し、二人の感情もそれに伴うようにして衝突する。……だが、趨勢は徐々に傾きつつあった。


「昔のお前は自由だった! 強いか弱いかなんて後で考えればよくて、今その時の戦況を勝ち抜ければそれが強いということで! ……誰かに証明されるでもなく、お前の姿は強者のそれであったというのに! ……私は、その後ろ姿から強さの本質を学んだというのに‼」


「……今の俺が、自由じゃないとでも言うのかよ!」


「その通りだ! 今のお前にはエゴが無い!自分で課した命題に縛り付けられ、自分が自由でないことに気づきもしない! その縛りそのものをエゴの産物だと思い込んで、本当に大切なエゴに、自らの根幹に目を向けようともしない! ……あえて言うならば、過去の私のようだな!」


 力勝負で、裕哉が早希に敵うはずもない。とっくに気づいていたはずのその事実を認識するのが遅れ、氷の剣はゆっくりと裕哉へと迫ってきている。


「く、そ、が……ッ」


「がんじがらめになったお前に、私がエゴを教え直してやる! 私が、お前から学んだように――‼」


 どうあがいても、氷の剣が直撃する運命は変えられない。自由を失ったが故に敗北するという現実に、裕哉は歯噛みして――


「……そのまま、そこでじっとしていろ」


 何かに突き飛ばされるような感覚に戸惑い、裕哉の思考はとっさにフリーズする。訳の分からない状況が飲みこめないまま、裕哉の体は宙に投げ出されて――


「……ッッ⁉」


 唇に当たる柔らかい感触に、自らの感覚を疑った。

八月中にイフルートがどこかで投稿されるくらいには、この行動から物語は大きく分岐していきます。果たして早希のエゴは届くのか、楽しみにしていただければと思います!

――では、また次回お目にかかりましょう!

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