第七十六話『蚊帳の外で少女は笑う』
――やっぱり、霧島先輩は素敵な人だ。クールなのにその裏側には確かな熱があって、それは向けられるべき人の下へとしっかり向けられている。本人は冷徹なつもりなんだろうが、それを隠しきれてないところがまた可愛かった。
「……斬られてしまえ、か。中々に辛辣な言葉だな」
そんな霧島先輩は、今までにないくらいの熱情を松原先輩に向けて放っている――と言っても、その本質を松原先輩は掴めていないみたいだけど。
おおかた自分に対してとうとう失望したのか、くらいにしか思っていないだろう。あの人、飄々としてるように見えてただ自己評価が恐ろしく低いだけだし。自分に自信がないから、あの人はその実霧島先輩とまっすぐ向き合ったことが少ないのだ。
一度もないとは言わないけど、それも霧島先輩の先に違う誰かを見透かしてのものだっただろうし、本当の意味で霧島先輩を知ろうだなんて思ったことが無いんじゃなかろうか。松原先輩は、自分が守りたいと思うこと以外の全てに対して興味が薄いのだ。
前からうすうす感づいていたことではあったけど、その全容は松原先輩の口から話してくれた。あの人には大切な人がいて、それを守ることに人生をすべて使い潰す覚悟が出来ているのだ。なんて破滅的で、なんて悲劇的な情熱だろうか。
もっと悲惨なのは、そのことに先輩自身も気づいていなさそうな事なのだけれど。先輩は無意識に自分の人生を他人のために使い潰し、何の後悔もなく笑おうとしている。……そんな事、出来ていいんだろうか?
「……今のお前の姿は見るに堪えない。剣を抜け、松原裕哉。私の気はそう長くないぞ」
だが、それよりももっと悲しいのは霧島先輩だ。そんな松原先輩の情熱に、霧島先輩は焦がれてしまったのだから。
一度も向けられたことが無いあの感情に憧れて、霧島先輩は不慣れながらも頑張ってきたのだろう。自分の感情に対して名前を付けることもできないままで、初めての感情に振り回されて。……それはきっと、とてもつらい事なのに。
私は楽しい事の味方だ。人生はそうじゃなきゃいけないと思うし、そのためならちょっとえぐい仕込みだって平気でできる自覚がある。……だけど、それと同じくらい私は恋する人の味方だ。霧島先輩が松原先輩の事情のひとかけらも知らないだなんて、在ってはならないと思う。
今きっと、霧島先輩は自分の中に渦巻く嫉妬の感情に飲みこまれかけているのだろう。何をしても動じなかった松原先輩が、霧島先輩の知らない誰かに感情を揺さぶられて、こんなんになって。……自分よりも優先するべき誰かがいたのだと、知ってしまったのだ。それに対して怒りを示すことを、いったい誰が責められるだろう?
今の松原先輩に、霧島先輩がほれ込んだ情熱を見出すことはできない。だけど、恋というのは熱病だ。霧島先輩は、そんな松原先輩のことですら見限れない。見限れるのであれば、さっきの氷の弾丸は命中していたはずですからね。
だから、霧島早希は決闘を選ぶんだ。その戦いの中でしか、自分の思いを語る方法を知らないんだから。……もっとも、それに勘付いているのはこの場で私だけでしょうけど。
ここから先、先輩たちの物語がどう転ぶかは分からない。だけど、ここがターニングポイントになる事だけは絶対に、絶対に間違いない事だ。……それを一番近くで見守れるなんて、どれだけ幸せな事だろう。
「……分かったよ。手加減は、しない方がいいよな」
「当然だ。……お前の現状の全てを、私が無意味だと切り捨ててやる」
その言葉を皮切りに、二人の戦いは幕を開ける。……その様子を、私は蚊帳の外からまじまじと見つめていた。
ということで、二度目の真央視点回になります。この物語の裏で暗躍する彼女の真意は物語の根幹にもかかわってくることになりますので、どうか彼女の生きざまにも注目していただけると嬉しいです!もし気に入っていただけたらブックマーク登録、高評価などぜひしていってください!ツイッターのフォローも是非お願いします!
――では、また次回お目にかかりましょう!




