第六十三話『無茶の代償』
「梓、来る!」
「分かってるわ、よ!」
翼を負傷していることで常識を外れたような機動力は失われているが、それでも獣の身体能力が人間にとって驚異的な事には変わりがない。魔力による強化をもってしても、裕哉たちには魔獣の動きを捉えることがし一杯だった。
「でも、このまま背を向けて逃げ切れるわけもないし――!」
「そんな後ろ向きなこと考えてる場合じゃないわよ、早く仕留めに行かないと!」
焦る梓が魔力を充填して攻撃態勢に入るも、それを嗅ぎつけた魔獣がすぐさま梓に目線を向ける。ロックオンされた状況で攻撃を続けられるほど余裕があるわけでもなく、魔獣が何か特徴的なアクションを起こすたびに裕哉たちは苦しい移動を強いられ続けてきた。
「どこかで反撃に出なきゃいけないのは分かるよ。だけど、焦っちゃ何の意味も……」
「そういうの言ってる状況をじり貧っていうの、よ!」
今までよりも早く詠唱した魔術を放つも、威力が不十分になったその攻撃は尻尾の一振りによってあっけなく弾き返される。そしてその直後、魔獣にとってちょっかいといってもいいその攻撃を放ったことが間違いであることの証明はすぐになされた!
「ガ……ロオオオオオオッ!」
「ほら、来る!」
「分かってるわよ、それだって避ければなんてことは……っ⁉」
魔術を行使して直後の行動には、多少なりともの脱力感を伴うものだ。体が成長してからならば特に気にもならない程度のものだが、子供だった梓にとっては大きな影響となってその体勢を大きくぐらつかせる。それが作り出した一瞬の間隙は、魔獣の攻撃から逃れるための時間を大きく食いつぶしていた。
「お、わ……⁉」
「梓ッ‼」
回避距離が足りず、魔獣の尾による一撃は梓に直撃せんと迫って来る。梓の命を救ったのは、またしても裕哉が延ばした両手だった。
突き飛ばされる形になり、柔らかい土の上を転がりながら梓は難を逃れる。しかし、その代償は明確に、致命的に存在していた。
「が、う……っ‼」
「裕哉ッ⁉」
魔獣の尻尾が裕哉に絡みつき、声にならない悲鳴が雑木林に響き渡る。すぐに殺さない魔獣にどんな意図があるかは分からないが、裕哉の命が危機に瀕していることは確かだった。
「私の……私の、せいだ……」
助けなければいけないという思いが、梓をかろうじて立ち上がらせる。大切な命が目の前で傷つけられて失われかけていることが、まるで自分を殺されているかのように恐ろしかった。
「紫電よ……っ、これじゃだめ!」
とっさに雷を展開しかけて、梓はその手を止める。それは裕哉をもろとも巻き込む最悪の一手であり、一番とってはいけない解決方法だ。……だが、それ以外の解決策は今この場に存在しない。最悪の一手しか、梓には選択肢が無い。
「……梓、僕もろともでいい。コイツを、打ち抜いてくれ」
その葛藤を最も感じ取っていたのは、締め上げられながらも梓から目線を外さなかった裕哉だった。
「裕哉、何を言って――‼」
「僕の命はこの際どうでもいい。……だから、早く‼」
戸惑う梓の背中を押すように、裕哉が空気を絞り出してそう吠える。……最悪の二択が、梓の前に横たわっていた。
次回、梓が下す決断とは!この先の展開に大きくかかわってくる部分でもありますので、皆様もう少しだけ彼らの過去にお付き合いいただけると嬉しいです!もし気に入っていただけたらブックマーク登録、高評価などぜひしていってください!ツイッターのフォローも是非お願いします!
――では、また次回お目にかかりましょう!




