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第六十二話『懸念が危険に変わる時』

――悲劇というのは、いつだって音もなく唐突にやってくるものだ。だが、それは無から生えてくるからという訳ではない。……すぐそばにある懸念が悲劇に変わる前に、気づけないだけだ。


「……あれが、魔獣?」


「そうみたいね。見て、翼のところを怪我してる」


 茂みに身をやつす魔獣を視界に入れて、裕哉と梓は言葉を交わす。どこかの絵本で見たような鵺の姿にも似たその魔獣は、明らかに禍々しい雰囲気を纏っていた。


「……明らかにヤバいよ、あれ。警察に連絡して、しっかりとどめを刺してもらわないと――」


「いいえ、もし連絡してもあたしたちみたいな子供じゃ取り合ってもらえないわ。魔獣は基本的にこの世界にとどまることは無いって通説があるらしいし、警察もそれを信じてるらしいの」


「……じゃあ、僕たちで何とかしないとこいつはずっとここにいるってこと?」


 それがどんな結末に繋がるかは、いくら子供であろうと想像がつく。あの魔獣が街に出れば、今度こそ何らかの被害を被ることは避けようがなかった。


「やるしかない、か」


「そういうこと。……あたしたちで、街の平和を守っちゃいましょ」


 そう言いながら、梓はゆっくりと両手を合わせる。その手を離すと同時に、ゆっくりと紫電が手の間に広がっていった。


 その姿に子供らしさは微塵もなく、その魔力量は圧倒的だ。その一撃を叩きこまれれば、いくら魔獣であれどただ事では済まない。その才能の大きさは、裕哉が一番その身をもって体感していた。


 圧倒的な魔力を扱う自分を見るというのは、今の梓からすると本当に妙な気分だ。それが自分であると信じられないような、信じたくないような。……だが、あの魔術を展開しているのは紛れもなく須藤梓その人なのだ。


「……紫電よ、遍く邪を切り裂け――」


「……はまってるよね、その式句」


「カッコいいでしょ。あたしの魔術のお手本になってる有名な魔術師さんの受け売りなの」


 手の間で魔力をこれでもかというほどに増幅させることで、攻撃の意志がだんだんと弾丸の形に練られていく。それは強襲へのカウントダウンであり、そしてその後に続く悲劇へのカウントダウンでもあった。


 今にして思えば、魔獣への知識が足りないが故の愚行だったと思う。休息している己のすぐそばで魔力を膨れ上がらせる存在など、危険因子以外の何物でもないというのに。


「さあ、一撃で決めちゃいましょ」


 雷は殺意のこもった弾丸へと変じ、魔獣の頭部を打ち抜かんと照準が定められる。―—その時の、ことだった。


「……梓、危ない‼」


「へ、え?」


 梓の魔弾が放たれるよりも先に、魔獣の牙が梓を引き裂かんと迫る。それに反応できなかった梓が命を散らさずに済んだのは、放たれる敵意にいち早く気が付いた裕哉がその体を突き飛ばしていたからだ。


「……やっぱり、僕たちが手を出していい相手なんかじゃなかったんだ。今すぐに、逃げ切らないと――」


「……逃げ切るって、どうやってよ⁉」


 手負いの獣ほど恐ろしい、などという表現がある。その言葉を知ったのは、確か――この事件から三年は経ってからのことだっただろうか。とにかく、当時の梓たちは、知らないのだ。


――多少傷を負った魔獣の方が、危険で凶暴であることを。

次回、過去の戦いは本格的なものになっていきます。果たして彼らの過去はどのような形に収束するのか、楽しみにしていただければと思います!もし気に入っていただけたらブックマーク登録、高評価などぜひしていってください!ツイッターのフォローも是非お願いします!

――では、また次回お目にかかりましょう!

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