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第六十一話『過去の始まり』

――誰よりも自由でいられたのは、誰よりも才能に恵まれていたから。あの時の梓を振り返って、梓はそう結論付ける。魔術とは、本来自由なはずのものだ。それにきっと人は勝手に縛りをつけていって、自分の思いの叶え方を忘れていく。……梓の不調は、その極限にある物だ。


「……ねえ裕哉、雑木林の噂って知ってる?」


「雑木林の?……知らない、何それ」


 幼い梓が裕哉にそう問いかけたのは、ある夏の暑い日のことだった。訳が分からないと言いたげに首をかしげる裕哉に、梓は身を乗り出して続ける。


「あたしたちの町はさ、魔術師さんたちが守ってくれてるから安全でしょ?だけど、ある雑木林には出るって噂なの。……魔術師から逃れてけがを癒している魔獣が、ね」


「……それ、本当だったら大問題だよ?ちゃんと近くの警察に報告しないと……」


「そんなことしたら面白くないじゃない。本当に強い魔術師を目指すなら、やるべきことは一つじゃない?」


「……その雑木林に、魔獣をやっつけに行くの?プロの人たちが倒しきれなかった魔獣を、僕たち二人だけで?」


 今にして思えば、裕哉はこのころから聡明だった。誰もが気が付かないことに一番最初に気が付いて動いているような、そんな人物だったと思う。


 そんな彼が放った警鐘に、梓は気づくべきだったのだ。……まあ、その後悔は最早届かないものなのだが。


「あたしたちなら大丈夫。……何かあっても、あたしが裕哉を守ってあげるから」


「……そっか。それなら、信じるよ」


 胸をポンと叩いて見せた梓に、裕哉は渋々といった感じで頷く。梓に甘いのは今も昔も変わらないし、多分これからも変わらない。それは、松原裕哉という人間の性ともいえるものだった。


「……本当、おあつらえ向きな場所にあるんだね。まるで僕たちがここに来ることが宿命づけられてたみたいに」


「なら、きっとそれを倒したあたしたちが一気に名を挙げるってことでしょうね。大丈夫よ、あたしと裕哉ならなんだって怖くないわ」


「うん、僕も怖くないよ。……梓が居れば大丈夫だって、信じてる」


 その信用は保たれる。ある代償を払うことでその信頼は永遠になるのだと、梓は自覚していた。この後裕哉たちに何が待ち受けるかも、それがどんな結末を迎えるのかも、知っている。


『……やっぱり、見たくないわね』


 鮮明になった記憶を眺めながら、梓はふっと目を閉じる――記憶と回想の中で目を閉じることがどれだけの意味を持つのか、それに関してはあやふやなところだけど。……だが、目にしなければならない事実はいつでも目の前にあった。


「さあ、そうと決まれば早く行きましょ!あたしたちの踏み台になる魔獣が居なくなっちゃう!」


「ほんと、梓の自信は凄いね。……行こうか」


 梓の後ろをついて行くようにして、裕哉たちは雑木林へと向かっていく。梓が裕哉を導くその構図は、今と全く真逆のものだ。……ここが、その逆転が起こる少し手前の映像だった。


 この二時間後に悲劇は起き、裕哉と梓は決定的な転換を迎えることになる。そのことも知らない過去の裕哉たちの表情は、今となっては信じられないくらいに無邪気だった。


梓と裕哉の過去はもう少し掘り下げられていきます。それと向き合う梓は今何を思うのか、期待しながら読み進めていただけると嬉しいです!もし気に入っていただけたらブックマーク登録、高評価などぜひしていってください!ツイッターのフォローも是非お願いします!

――では、また次回お目にかかりましょう!


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