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第六十話『記憶の蓋』

――実体のない弾丸に、胸を打ち抜かれたような気分だった。傷は何も追っていないはずなのに、体が急速に重くなっていく。覚悟していたことではあったけれど、一歩を踏み出すとはこういうことなのだ。


「……ああ、やっぱりなんかあったんだ。裕哉、一度リズムを崩されると本当に弱いよね。そういうところが可愛いんだけど」


 立ち尽くす裕哉を見つめて、梓が苦笑しながらそう口にする。少しからかうようなその言葉を聞いて、裕哉はようやく何かを取り繕うかのように頭を掻いた。


「……おほめに預かり光栄だな。……それで、なんでそんなことを思ったんだ?」


「……真剣な裕哉を見て、思ったんだ。あたしの存在が裕哉をここまで強くしたんなら、そのきっかけは何だろうって。……それを覚えてないなんて、明らかにおかしいんだよなって。……実際、あたしは裕哉の覚醒のきっかけを覚えてないし」


 気が付けば追い抜かれ、気が付けば守られる側に立っていた。なら、そのきっかけは何か。……裕哉にあるはずのそれが、梓にないというのはおかしいのだ。二人の思い出は、そのほとんどを共有されているようなものなのだから。


「きっと、何か重大なことがあったんだ。それで、弱いあたしはそれを忘れてる。……いや、それを忘れてるから、今のあたしはこんなにも弱くなっちゃったのかな?」


 トラウマなんて言葉で仮定するには、あまりにも強引が過ぎるけど。何かを思うたびに襲い掛かる頭痛は、梓の中から湧き出るものなような気がしてならないのだ。まるで、思い出すことそのものを自分が拒否しているかのように。他ならぬ梓自身が、閉じられた記憶のふたを開けることを拒絶しているような気がしてならないのだ。


「……お前は昔っから勘がいいな。俺が考えて考えてたどり着く答えに、お前は一足飛びにたどり着いてくる。素直にすげえよ、尊敬できる。……それは、今も変わってないみたいだ」


「そうね。……そんな話題で話題を少し逸らそうってしてるのも、あたしにはわかるよ」


 梓の指摘に、裕哉はびくりと背筋を跳ねさせる。そのあと深く息を吐くと、瞬きを一つして裕哉は梓の方を向き直った。……やけに、真剣な目つきで。


「悪いな。……いつの間にか、俺の方がビビってたのかもしれねえ。……梓の背中を押すのは、何時だって俺であるべきなのにさ」


「そうよ、アンタが押してくれなきゃ意味がない。あたし一人で開けられない記憶のふたがあるなら、裕哉がこじ開けてくれなきゃいやだ。……あたしがもしも変われるんだとしたら、その隣にいるのは裕哉がいい」


「……そう、だよな。いずれは向き合うことなら、今ここで向き合ったってかまわないはずだ。……だって、俺がいるんだから」


「そうだよ。……大好きなアンタが近くにいてくれるなら、あたしは多分大丈夫だ。……たとえ、あたしが今からとんでもなく恐ろしい事を思い出して、膝を突いちゃっても」


 抑え込まれてこそいるが――いや、抑え込まれているからこそ、その記憶の中で何が起こったかは大体想像がつく。それはきっと、梓にとって目を覆いたくなるような記憶だ。……それを目にして、平然と立ち直れるかは分からない。……梓一人なら、そうだった。


「……そうだな。お前がどれだけ立ち止まることを望んでも、俺がその背中を押して立ち上がらせてやる。……それが、それこそが俺の役目だ。だから――」


 そう言葉を切って、裕哉は運動着の裾をつまむ。かつて教師に見せたように、ゆっくりと、だがしっかりと裕哉は服をめくりあげていって――


「……っ‼」


「……これを見れば、流石に思い出すだろ。これが、梓になくて俺にある記憶の象徴みたいなもんだからさ」


 痛々しい傷跡を見せる裕哉の声が、やけに遠くに聞こえる。今までにないくらいの頭痛が襲い掛かる中で、梓の脳内にはある映像が流れ込んできていた。


 記憶―—そう、これはきっと記憶だ。梓がずっと蓋をしていた、向き合いたくもなかった記憶。


『自分の才能が大好きな人を傷つけた』という、後悔の記憶―—

次回から少し回想篇に入ります!裕哉が語った在りし日の事件、その全貌とはいかに!これからの展開ともども、楽しみにしていただけると嬉しいです!もし気に入っていただけたらブックマーク登録、高評価などぜひしていってください!ツイッターのフォローも是非お願いします!

――では、また次回お目にかかりましょう!


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