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第五十九話『己への疑念』

「お疲れ様。さて、そろそろ帰るか?」


――圧倒的な壁を前にしてもくじけないと、皆の意志が一致したその帰り道、いつものように帰り道を共にすることを提案した裕哉に、しかし梓はゆるゆると首を振った。


「……いや、今日はちょっとここに残ってたいかも。裕哉さえよければ、ここで話してかない?……少しだけ、長い話になっちゃいそうで」


「家に着くまでじゃ足りない、か。……分かった、そういうことなら付き合うよ」


 そういうなり、裕哉は手元の形態を操作してどこかに連絡を入れる。唐突な我儘にもそうやってすぐに対応してくれる裕哉の存在は梓にとって本当にありがたくて、そして不思議なものでもあった。


「……裕哉、あんなに強かったんだね。あれだけの時間一緒にいたのに、あたしってば全然気づいてなかった」


「お前に褒めてもらえてうれしいよ。……もともとは、お前を超えるためにあれやこれやと努力してきた身だからな」


 その努力がいつしか形を違えても、スタート地点がそこだったことだけは永遠に揺らがない。そう断言する裕哉が、梓にはまぶしく見える。……少し、今の梓の目には毒なくらいに。


「裕哉は、強いよね。魔術師としてだけじゃなくて、色々と。……小さい頃は、あたしの背中に隠れてたことだってあったくらいなのに」


「そんなこともあったな。そこら辺の犬に絡まれた時、梓がかばってくれたりして。……今でも、狗を見かけたらお前の背中に隠れるかもしれないぞ?」


「今となってはあたしの方が小さいもん、庇いきれないよ。……それに、アンタはあたしの後ろに隠れるようなことをしないでしょ?……たとえ、あたしがそれを望んでもさ」


「……まあ、そうだな」


 梓の言葉に、裕哉は少しだけ逡巡の色を浮かべてから頷く。その一瞬の間に、裕哉の変化がすべて詰まっているような気がした。


 裕哉は強くなった。驕りでも高ぶりでもなく、間違いなく梓のために。それは間違いないはずなのに、梓にはどうもそれが腑に落ちないのだ。それに対して納得するための証拠が、まるですとんと抜け落ちているかのように。


「……づっ」


「梓、大丈夫か?頭痛酷いなら、早く家に帰った方が……」


 またしても襲い掛かった頭痛に、梓はめまいを起こしたかのようによろめく。その体を瞬時に支えた裕哉の顔には、純粋な心配だけが浮かんでいた。


 梓には、裕哉を疑う事が出来ない。何かを隠しているのだとしても、それを問い詰めることはできない。普段のじゃれ合いの中でならともかく、こういう真剣なことは、疑えない。


 それくらいに裕哉は誠実で、梓の記憶は曖昧だ。一つたりとも忘れたくない裕哉との記憶を、どうしてだかどこかに落としてきているような気がしてならない。


「大、丈夫……。それより、聞かなくちゃいけないことが、あってさ」


 だからこそ、梓はここで疑問を浮かべなくてはならないのだ。裕哉に向けてではなく、梓自身に向けて。ともすれば梓以上に梓のことを知っている、世界で一番愛しい彼氏に向かって。


「……ねえ、裕哉。あたしは、何を忘れてここまで生きてきてるの?」


「……え?」


 梓の問いに、裕哉は驚愕の色を見せる。それが、梓の疑念を確信に変える最後のピースだった。


ということで、物語の核心に向かって話は進んでいきます!梓の疑問に裕哉はどう答えるのか、そして梓はこの先どうなっていくのか、是非楽しみにしていただければ幸いです!もし気に入っていただけたらブックマーク登録、高評価などぜひしていってください!ツイッターのフォローも是非お願いします!

――では、また次回お目にかかりましょう!

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