第26話 私の決意
私は今、王城の中に入ってすぐの広いホールにいる。まぁ、玄関口だ。ここ数日ずっとそうだが、日が昇ってすぐの早朝という時間帯も相まってかここには全く人がいない。とはいえ、ここも昼になると多くの人が行き交う訳なのだが。
「_____。」
しかし、今日は変化があった。いつもは誰もいないこの空間に、人の気配があったのだ。そしてそれは、私の知ってる人の気配だった。
それは、普段ここには滅多に現れない人物。私は少し驚きながらも、それを顔には出さず、特にその人に話しかけることも無く気づかれぬように通り過ぎようとしていた。
だが_________、
「···フレア。貴方一体、いつまで悩み続けるつもり、なの」
「!」
かなり上手く気配を消していたつもりだったし、そもそも話しかけてきた人物___ヨネはロビーの上階にいて、私は下階にいたので、ホールに私がいる時に下を向かない限り(この時ヨネは下を向いていなかった)気づかれないと思っていたのだが。
「___よく気づいたね」
私がそう言葉を上階に向かって投げかけると、ヨネはため息をついた。なんでここでため息をつくのだろうか?
私が不思議に思っていると、ヨネは話し出した。
「気づいていないの?今、フレアの精神は、誰が見てもボロボロ。そんな状態で、気配を隠そうとしても、無駄だよ」
「________。」
___私の精神が、ボロボロ?私には、感情が、ないのに?私はヨネの言っていることが全くもって理解できなくて、自分の体を見つめた。
「_______________ぇ」
レオンと会ってから、自分の体を____いや、厳密に言えば、手を、足を、見たりしたことは無かった。だからこそ、ヨネなどの周りからは見えていても、自分自身では気づかなかったのだ。
己の手や足が、細かく震えていることに。
「なんで·····。」
なんでよりによって私が、こうなっているんだ?今は自分の体調なんかに気を取られている場合ではないと言うのに。
そんなことを思ってこの震えが止まらないか試行錯誤しているのを見ていたヨネはため息をつき、私に言葉を投げかけた。
「こればかりは、休んだ方が、いい。どうしても考え続けたい、なら、部屋でやった方が良い、よ。そろそろ、体が限界迎えているんでしょ」
「私の体が限界迎えることなんて何も___。」
そこで、ハッと気づく。まさか、夜な夜な毎夜歩き続けていたのが原因なのだろうか。
だが、歩いていたのは夜だけで、昼間は部屋にいた。だから体を休ませていない訳では無いし、何より私は魔族なので、そう簡単に体調が崩れるほど弱くはない。
だかからこそ、理解ができない。何故··········、
「___単なる体の疲労、じゃないよ。もっと、ダメになってるのは、あなたの精神、の方。そっちが、限界を迎えちゃってるんだよ。その影響が、体に出ちゃってる、だけ」
「__だとしたら、ますます有り得ない。だって私には·····、」
感情が無いんだから。それがないから、それを得たいから、私は今こうやって旅をしている訳でもあるのだ。なのに、精神がボロボロだなんて。
「なのに、なんで·····。」
うんうんと唸っていては仕方がないと分かっていても、やはり考え続けてしまう。今まで、それで結果がでた試しなんてなかったのに。
「__________、」
「ねぇ、フレア」
そこで、私はよねの言葉でふっと自分の空想世界から現実世界へと戻る。私は一旦考えることをやめて、ヨネの言葉に耳を傾けた。そしてそれを見届けたヨネは、口を開いた。
「救い方の問題、なんだよ」
「________________?」
そういえば、この言葉は私がここまで考え続ける原因となったあの事件でハイラとヨネが集まり、ヨネが去り際に言っていた気がする。
救い方の問題、か。そう口の中で呟き、その救い方、について考えてみる。
今レオンを救える·····力になるには、レオンの手助けをする。それしかない、のだ。でも、それはヨネたちの敵側に回るということである。
でも、ハイラ達には恩がある。だから、少しレオン側に入ることには抵抗なあった。本当は、すぐにでもレオン側に入るべきなのは分かっているけれど。
「救い方、って」
「きっとフレアが考えてるあの堕天使の救い方、は、あの人の手助けをすること、でしょ」
「___________っ」
図星だった。そうだ、私はレオンの力になるにはあの子側になることだ。でも、それしか救う方法なんて____。
「だけど、あの人の道を正すことも、救うということになるんじゃない、かな」
「え··········道を、正す____?」
____確かに、今レオンがやろうとしていることは許してはいけないことなのかもしれない。でも___、
「___あの子、元は良い子、だったんでしょ。なら、外れかけている道を元に戻す事、が友達としての役目だと、思う」
そう言って、ヨネはふぅと息をつく。そして、彼女は私を真っ直ぐと見つめた。
_____私に、今ここで決めろと。もう時間は無いのだから、探し出して、ヨネの言ったヒントを元に、これからの行動をと。
「__________。」
友達としての、役目。でもそれが、レオンのためになるのだろうか。色々と変に考えばかり私の頭に押し寄せてくるおかげで、全くもって答えが出ない。
どうするべきなのか。それは、分かりきっていることではある。でも_____。
____そうだ、きっと、私がここまで躊躇しているのは、レオンのやろうとしている事が良くないと分かっているからだ。でも、私のやってしまった罪の意識で、乗り出せないでいる。
·····1度分かってしまえれば、あとは簡単だと思っていたのだが。やはり、そうはいかない。
「_____やっぱりダメ、か。でも、言えることは言った、よ」
「________。」
うんも何も言えなかった。少しの間沈黙が流れたあと、そのままヨネはああいった後無言のまま立ち去っていった。
結局、決められなかった。どうすればいいのか、分かっていてもいつも何らかの障害があって通り切ることが出来なかった。
もう、この空間には今度こそ私だけだ。そう思って、立ち去ろうとしたその時だ。
「あ、間に合いましたね、フレアさん!!」
後ろからまた声がして、あまり振り返りたくないなと思いながらも、それでは駄目だと思って視線を後ろに向けた。
「____ハイラ」
玄関ホールの入口にいたのはハイラで、私を見つけて嬉しそうにしていた。私は相変わらず無表情で、ハイラの要件を聞いた。
「ヨネの次は·····何の用?」
「はい、あの、私は貴方に少し話があって」
「話··········。」
また、話、か。私は内心そう呟く。ただ、ハイラの顔はとても真剣な表情だ。だから、きちんと聞かなくてはならない。そう思わす程の面持ちだった。
だから私も、しっかりハイラの方に向き直って話を聞く体制をとった。
「はい。·····私の部屋にいきましょうか」
「え」
「その方が話しやすいですし」
「·····分かった」
私たちはそう言葉を交わし、移動する。目的地は勿論、ハイラの部屋だった。
2人は扉の前にたどり着くと、ハイラが金色のドアノブを回して部屋の中に入っていった。
私は部屋に入って、感嘆の息を漏らした。なぜなら、
「何これ、広·····。」
とにかく、部屋が凄く広い。多分、私の借りている空間の5倍以上はあるのではないか。
まぁ私が借りているのは客室用の1部屋だが、それでも大きめのベッドと机、それとは別にカーペットなどをしいたりしてもすっぽり軽く収まってしまうくらいの広さはあるのだ。
だがしかし、これを目にしたあとから見てみると狭いとしか言いようが無くなるくらいには広い。
3人は寝れるのではというくらいのシングルベッド(多分)に、豪華な机。大きいクローゼットなどもあり、部屋の奥あたりにはさらなる部屋へと続く空間がちらちらと見えていた。
流石は、国の王女様の部屋。文句などつくのが難しいくらいの完璧な空間がそこにはあった。
「これが、ハイラの部屋·····。」
「確か、フレアさんは来たことありませんでしたよね。ようこそ·····と言っても、対したおもてなしはできませんが」
そう言って眉尻をさげて笑う彼女に、私は「いや」と否定する。さっきはこの部屋に驚いていたが、別にここにはおもてなしされるために来たのではないのだから。
「___まずは、ここにかけてください」
私の雰囲気に何かを察した様子のハイラは、お詫びより話の進行を優先する。
私はハイラの用意してくれた椅子に、ハイラと对になる形で座った。
私がハイラに視線を向けると、彼女はそれに答えるように口を開いた。
「では、さっきの話をしましょう」
「____うん」
それを合図に、ハイラは姿勢を正す。なので、私もそれに応えた。
きっと、ハイラがしようとしている話とは_____。
「私がこれからしようとしている話とは、あなたのお察しの通り、レオンさんについてです」
「______________。」
「でも、その前に。·····ヨネさんと、一体どんな話をしていたんですか?」
ヨネとの、話。ついさっきの出来事が鮮明に蘇る。ヨネとの話も、レオンと私についてだった。まぁでも、ハイラの話もレオンと私についてだろうとは思ってはいたが。
「·····また、ハイラもレオンの外れかけている道を正せとでも言うつもり?」
「__ヨネさんと、そこまで話をしていたんですね。なら、話は早いです」
「え?」
私がそうつい聞き返してしまうと、ハイラはそれを聞くたび少しだけ微笑んで、
「なら、私が言えることは一つだけ。___これは、あなたの罪滅ぼしにもなるはずですよ」
「___________________。」
「堕天使は、堕ちた怒りに任せ破壊の限りを尽くす最凶の種族の一つとして言われています。そして、今の現状が、そのれっきとした証拠になる」
そう、ハイラは淡々と語って言った。破壊の限りを尽くす、最凶の種族·····かつて、存在すら伝説とされていた、種族。
そう考えると、本当に何がどうなったらレオンが人間から堕天使までになってしまったのか想像がつかない。
そんなことを考えている間にも、ハイラの話は続いていく。
「あのままだと__あの人は、何か大切なものを壊してしまうかもしれない」
「大切な、もの·····。」
「それは、人かもしれないし、物かもしれない。ですがどちらにしても、壊れてはいけない大切なものには変わりないはずです」
「____。」
「あの人を救いたいのならば。___貴方と同じ過ちを繰り返すことを阻止する、それもれっきとした救いにも、償いにもなるのではないでしょうか」
私は、驚いた。だって、ハイラはあの時と真逆のことを言っていたから。私がレオンのことを話した時、ハイラは貴方は悪くないと言ってくれていた。でも、今はあなたの過ちを、と言ってきた。
·····私の内心を、汲み取って話をしているのか。ハイラは、真っ直ぐに、私の目を見つめている。それは、私にそれを訴えかけるような、そんな視線。
ヨネとハイラの言葉を重ねる。確かに、簡単な話ではあった。少し考えれば、すぐに思いつくようなものだったのかもしれない。即ち、私は一つの考えに囚われすぎていたのだ。だから、その檻から抜け出すことは出来ず、こうやって今の今まで思いもつかない、"私が求めていた本当の答え”を探し出せずにいたのだ。
でも、もう違う。私は、2人の助力によって、私の求めた答えを見つけることが出来た。だから______。
「ありがとう」
まずは、私のことを2回も救ってくれた、年下の王女様にお礼を。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「いよいよ、ですね」
腰上まで伸びる金髪を夜空のもとに揺らめかして、彼女はそう呟く。
私はふと上を見ると、朧月夜で、とても綺麗な光景であった。
___そして、戦うに絶好の機会とも言える。
「行くのね」
「うん」
私が城から出ようとした時、1人私に声をかける人がいた。それは、同じく金髪の少女。しかし、髪の長さは短髪であり肩までである。2人は姉妹だ。そして、2人とあともう1人、私を見送ってくれる女の子がいる。
「お気をつけて。___私達も、後から」
「うん、了解」
その名はサラ。金髪の髪の短い方はリベリカで、長い方はハイラだ。3人は真剣な表情で、しかしどこか気の休める、そんな表情をしている。
だから私も、前に進もうと、歩を進める。それを、3人は無言で見送った。
目指すは、小さな魔法使いから教えてもらったあの子の居場所。
「ここ、か」
大きい建物だ。普通ならすぐ見つかってしまいそうな、灰色の廃墟。しかし、どうやらこの建築物の周りには強固な結界が貼られているようで、中に入らないとこの大きさは拝めない。
もうこの時点で、敵は大勢いるということが言われずとも分かる。しかし、だからといって足を止めるつもりは毛頭ない。
「___レオン」
私には、その一言で充分。あとは、待つだけ。
「____はーあーい」
十数秒後、その声の主___レオンは、返事をしたあと建物の重々しい扉がギシギシと音を鳴らしながら開いて言った。
私は、そのまま躊躇なくこの中に入っていく。
そして、その先に見たのは____。
「やっと会えたね、フレア?決心はついた?」
そう私に問う、レオンがいた。そう。時間はかかってしまったけど、決心はつくことが出来た。
だから、私はそれを果たすと。
「決心は、ついたよ。だから、ここまできた」
「そっか、じゃ、おいで」
そう言って、レオンは手を広げる。___しかし、それに私は応えない。
「·····フレア?」
「私は、あなたの道を正すために来た」
「___え?」
そう言って、私は自分の手に魔力を込め始める。
「_____そっか」
レオンも察したようで、翼を広げ迎撃体制をとった。
「行くよ」
あとは、その一言で充分。魔力を込めきってできたその魔法弾で、レオンを___敵を、撃ち落とさんとした。
「____ッ」
しかし、軽々と避けられ、当てる相手を見失った魔法弾はその先の階段にぶつかり激突した。
「そっちが容赦な言ってんなら、こっちも容赦はないよ」
急に声音を変えたレオンは、ありえない程の魔力を使って武器___長剣を取りだした。それは、常に魔力を帯びており、あれで切られては駄目だと本能で自覚する。
だがしかし、ここで立ち止まる訳には行かない。だから、次なる魔法陣を、生み出さんとする。
「絶対に、同じ過ちを繰り返させはしない」
私の、決意を込めて。
____ここに、戦闘開始。




