第25話 悩みは潰えず
私は今、王城から出て私がハイラと初めて王都を探索した時と比べて静かになった王都に足を踏み入れていた。
冒険者たちに話した内容が他にも広まってしまったのか、外を歩いている人影はつい数時間前よりとても少なくなっていた。
とはいえ、今の時間帯がもう夜中だということも、関係しているのかもしれないが。
「___________。」
私は特に何も考えず、色鮮やかな建物が立ち並ぶ都に挟まれた広いレンガの街道を通る。カツ、カツ、と足音を鳴らしながら、ひたすら歩く、歩く。しかし、立ち止まる。
「____________。」
私は、ずっと考えていた。私の頭の中は、ずっと一つの悩みで支配されていた。
私が城の外に出てから一時間はもう経っただろうか。月が、空を昇りきりはるか遠くへ下がり始めている。その間、ぶらぶらしながらあたりを散策していたわけだが、結果として答えは全くと言いていい程でなかった。
「もうすこし」
もうちょっとだけ、考えてみよう。そうしたら、もしかしたら答えがでるかもしれない。そう思って、月が少しずつ昇っていくのを遠目に眺めながら広い王都を再び歩き出す。
どこかに落ちているかもしれない、私の求める答えを探し出すように。
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「______結局、だめか」
あれから、何時間も時は流れ、気づけば月は遠い向こうにいってしまって、それの反対側には朝を知らせる太陽の先端が顔を出し始めていた。もう夜明けの時間になったのかと、時間の過ぎ去るその速さに驚く。
結局、そこまでの時間を使っても駄目だった。いや、わかりきったことではあった。半日も使わず答えを導き出せる程度の問題だったのならば、今頃とっくに答えは出ているはずだ。そう思いなおし、私は歩く方向を転換し、城を目指す。
________もし本当に何でもいいなら、中立のままでいられたのならこんな風にする必要はないのだろう。
しかし、私はどちらも少し関わりすぎてしまったのだ。レオンはよく交流した人間で、今となっては堕天使と変わってしまったが私が旅に出る大きなきっかけとなり、目的の一つとなった私にとって大きな人物。
そして、ハイラたちは森で意識を失いかけてた私を救ってくれた恩人と呼べる人物であり、不本意ながらレオンとの再会を果たす、それすなわち旅の目的の一つをクリアするきっかけを作ってくれた恩人だ。まあ、予想していた再会とは何もかもが違ったが。
ハイラとの王都探索の時にたまたま拾った鍵が原因で話は広がり、私はなれゆきでレオンと敵対する関係になっていたわけだが、よくよく考えてみればそれはおかしいのではないかと思い直して。
(そもそも私は、レオンと会えたらレオンの喜ぶことがしたかったんだ。)
レオンは私の失態で人間としての命を奪ってしまった。だからこそ、もし彼女と再開できたら、彼女のやりたいこと、喜ぶことをしようと思っていたのだ。
結果、今レオンと私はこうやって出会うことができた。そこで、今レオンが喜ぶことを考えれば、それは私がレオン側につくことだろう。少し考えれば、いや、考えなくても簡単にわかることで、後は私がレオンのもとに行くだけなのだ。
それなのに。たった、それだけのことなのに。なぜ、こんなに思い悩んでいるのだろう。なぜこれほど、私はこれからについて考えているのだろう。それの最適解であるはずである答えは、とうにでているのに。
自分で今の己の行動についての理解ができない。
ひたすら考えて、一度冷静になってみて、また考え込んで、それの繰り返し。
でも今は、それしか出来ることが無いのだ。
____ここからかなり時は進む。私が夜中に王都を散策しながら考え事をすることは日課になり、もう三日以上過ぎた。部屋にいる昼はとても時の流れが遅く感じるのだが、歩いている夜の間はほんとうに短いように感じる。
「……だめだな。一度部屋に戻ろう」
今日でこれをし始めて四日目。この間、答えは出せずじまいだ。
そして、いつものように城門前にたどり着き、兵士さんに門を開けてもらおうと声をかけた時だった。
「すいません、フレアです、通してくれますか」
「__はい、お客人様ですね。……大丈夫ですか?」
「……え?全然大丈夫ですが……。」
兵士さんにそんなことを言われたのは初めてだったので、何か変なものでもついているのかと自分の体を見てみるがとくにかわったところはなかった。
兵士さんの顔を見てみると、眉を下げ心配そうに私を見つめていた。しかし、私が特に反応をしなかったことから、
「いえ」
と前置きし、心配そうな表情を一変させ、
「私の勘違いかもしれません。お時間をおかけしてしまいましたね、門を開けるので少々お待ちください」
と朗らかに言って、重低音を響かしながら城門を開けてくれた。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
私はそう返事して、部屋に戻ろうと城内に入っていった。
「十分にお休みくださいね」
「?はい」
兵士さんは私がその人の横を通り過ぎようとしたときにそう声をかけてくれ、私をねぎらってくれたのかなと思うだけで、軽く会釈だけして城に入っていった。
一方、そのころ城門では。
「特に、深入りしなかったが……。あの人、大丈夫だろうか……」
「フレアさん、どうでしたか?」
「って、うわあああっっ!?」
フレアが城に入っていったのち、兵士が独り言でそうつぶやいた直後、彼の隣にひっそりと表れていたこの国ベルカルの第二王女ハイラだ。
存在を消していたのか兵士からしたら急に隣に現れたようなもので、しかも現れたのは王女だ。そりゃあ驚くに決まっていた。その兵士は男にしてはとても甲高い声で叫び、鎧の音を立てながらすぐにハイラから距離を取った。
ハイラは
「あら……そこまで脅かす気はなかったのですが……。」
と申し訳なさそうに眉をはのじにして笑っていた。兵士は距離を取った後ハッと我に返り、敬礼をした。
「す、すいません、この度は王女を前にして叫ぶなどとんだ御無礼を……。それで、何の御用でございましょうか」
「いえいえ。これは私が悪いですよ、ごめんなさい。それで、フレアさん。何か変な所とかありませんでした?」
二人はお互い謝り合って、本来の話をし始める。あのお客人に何かおかしなところはないか。兵士はハイラの言葉を反芻し、
「そうですね。変な所は___ありましたね」
「___教えてくれますか」
兵士は顔を途端に暗くし、ハイラを見据え、話し始めた。
「目に光が無かったのです。本人は気づいていないようですが、体もふらついていましたし。どう見ても、普通の状態ではありませんでした」
「______。そうですか。ありがとうございます」
ハイラは何か数秒思案しているようなそぶりを見せた後、うなずき話を切ろうとしていた。
しかし兵士はやはりフレアについて気になっている様子で、
「私が聞くことではないかもしれませんが、あのお客人、何かあったのですか?」
「___まあ、少し。でも、きっと大丈夫ですよ」
「……?」
と聞くが、ハイラは微笑んで兵士にそう答えた。兵士はその言葉の裏をくみ取ることは出来ず、しかしそれ以上深入りすることをやめた。
「___そうですか。では、ハイラ様は城へ?」
「ええ」
「では、どうぞ」
それを合図に兵士は門を再び開けて、ハイラを城の中へ向迎え入れた。それにハイラは応え、城内へ入っていく。
「さて、フレアさんに会いに行きますかね」
ハイラはそう口の中で呟き、自分もやきもちおせっかいだなと思いながら次の自分の目的地へとむかうのだった。




