第22話 利用しあいましょう
「さっきのは、どういう、こと」
「________。」
そこからしばらく、私とヨネの間には沈黙が流れる。会話を聞かれていたのか、と自分の警戒の低さを呪う。だが同時に、違和感が生まれた。
「どうやってレオンを欺いて……。」
欺く、と言うと少し語弊が生まれてしまうかもしれないが、どうやってレオンに気付かれずにドアの辺りにいたのだろうか。
彼女だって何も無警戒でここに来ることは無いだろう。実際、この時間帯、この場所に私がいる時にレオンはきたのだ。
「質問を質問で、返さないで」
だがヨネは眉をひそめて、こちらを睨む。当然だった。確かに質問を質問で返すのは良くないし、ヨネは少し混乱しているのだ。さっきの発言からするに、ヨネはきっとレオンが私に質問していた時からいたのだろう。そして私はその質問に、中立、と答えた。普通だったら王族側というはずなのに、私はそう答えたのだ。レオンと同じように、ヨネもまた、私をどちら側として判断すれば良いのか迷っている。
だからこそ、むやみに傷つけることもできないし、放っとく訳にもいかないのだ。ヨネは今、私を今どう扱えばいいのか考え、混乱している。きっと、そんな状態。
だからひとまず、私はヨネが私にした質問に答える。
「そのまんま。私は今、中立の立場」
「そんなの……」
ヨネはそこまで言って、口を噤む。ヨネを含む冒険者の人たちには、私の過去の詳しい話までは話してないが、私とレオンが知り合いというのは知っている。それで続きを言えなくなったのか、しかし睨むのは辞めず、当たり前だが強く警戒している様子で1秒たりとも視線を私から離さない。
だが私は今度はと、質問をヨネに投げかける。
「次は私の番。どうやってレオンに気付かれずに話を聞いてたの」
その質問に、ヨネは更に可愛らしい顔をしかめる。流石に答えてくれないかと思うが、答えてくれた。
「____私の、力。私の"音”を消しただけ」
_____音。自分の音を消すということは、己の気配を消すのと同義なのだろうか。
本当にその力でレオンは気づかなかったのか、特に気にしてなかっただけなのかは分からないが、レオンは誰かの気配についてあの時何も言わなかった。
「でも今重要なのは、そこじゃない。貴方は___。」
その続きを、言おうとした時だった。
「!?」
私とヨネが会話をしていた時にヨネが閉じた扉が開いて、ヨネは動揺し、ヨネと私は扉に目をやる。
こんな時に、一体今度は誰が介入するのは誰だろうか。
「フレアさんはいて当然ですが……ヨネさんもいるのですね。騒がしい様ですが、一体どうしたのですか?」
そこにはさっきまで寝ていたのか、少し癖のついた金髪を腰の中間までさげた、ハイラがいた。
彼女は私とヨネに視線を飛ばすと、そう言って首を傾げる。見た感じの寝起きとはいえ、普通の空気では無いことを悟り気の抜けた感じではない。
「は、ハイラ様……。それは、この人が……」
「ハイラで大丈夫ですよ。それで、フレアさんが?」
「…………あの人のこれからの扱いに、困っていたところ、です」
「?扱い?」
そこでハイラは再び首を傾げる。当然と言えば当然なのだが……。ハイラはヨネにもっと情報を、と意思表示をする。それにヨネは応え、口を開き、私は特にどこを見るわけでもなくじっとしていた。
「…………なるほど」
「だから私、どうすればいいか……。」
ハイラはこのいいとは決して言えない空気に納得したように、そう言ったあとヨネに苦笑を向け、そして最後に私をその暗闇でも分かるほど澄んでいる碧眼を私に向けた。
流石に城にはもういれないか。国存続の危機にもしかしたら敵側に移るかもしれない、そんな危険を持った私。これでも超級モンスターを一撃で倒した身でもあるので、適当に扱うことも出来ないと判断され、もしかしたら一時のサラのように牢獄にひとまずとしていれられるかもしれない。
そう思っていたのだが、その考えは予想外のハイラの言葉によって覆された。
「とりあえず、このままでいいのではないでしょうか」
「!?ハイラ様、本気、ですか!?」
「えぇ」
驚いたのは私もヨネも同じだった。むしろ、全く反対のことを考えていた。それはヨネも同じだったようで、私とハイラを交互に見ている。
「___なんで」
私は殆ど無意識に、そうハイラに聞いた。ハイラは私に微笑を向ける。
意味がわからない。なぜ、ここまで面倒くさくて危なっかしく、そして扱いにくい私を、なぜ_____。
「そんなの簡単ですよ。__貴方が今これからどうすべきか分からないというのならば、この場所で、これから考えれば良いじゃないですか」
「______________。」
「そうして、こちら側につくというのならそのまま私たちに協力してくれれば嬉しいし、あちら側につくというのなら、あの人の元に行けばいい。____たった、それだけじゃないですか」
ハイラはそう、まるで当たり前のように私にそう語りかける。そんなの_____。
「______無警戒、すぎるよ」
無警戒。そう、無警戒。ハイラ達からすれば敵は少ない方が良いのだから、もし私がレオン側に行くことにしたら、普通私を行かせないようにするか殺すかするだろう。だというのに、この人は私が行きたいと思ったらそのまま行けばいいと、そして私がここにいることにしたのならいて協力してくれれば嬉しいと、そういうのか。
「無責任、でもありますよ。もしあの人があっちに行ったら、どうするん、ですか」
ヨネは困惑する感情を必死に抑えて、ハイラを見つめる。するとハイラはふふ、と笑い、
「そうなったら、私が勿論責任を取りますよ。その時は、私があなたのお相手となりましょう」
「______ッ」
ハイラはそう、挑発気味に私にそう言う。少しの自信が含まれていて、そしてそれと同時に、堅い決意と覚悟が表れていた。
「私はまだ他と比べるとまだまだ13の子供ですが、戦闘には自信がありますから。いくらあの超級モンスターを倒したとなれど、負ける気はありませんよ」
13って、私と5つも違うじゃ無いか。まだまだ子供。だが、その自信が全くのハッタリではないことを、ハイラの周りに漂う只者では出せない程の威圧が証明している。
そこで私は息を呑む。だが________。
「私は納得、できません。だって、下手したら……。」
「___心配する気持ちは分かります。でも、大丈夫ですよ。」
「なん、で……。」
ヨネはそう純粋な問いをハイラに投げる。すると、ハイラはヨネの方を向いてニコリと笑い、
「だって、逆に城から離したりしたら、敵がフレアさんを唆すかもしれないですし。それならここにいさせた方がそういう面でも安全性は高いでしょう」
「あ………」
「だから悪く言ったら、都合がいいんですよ。その方が」
ヨネは自分の気づかなかった可能性に気づき、恥ずかしがり頬を染める。
____そうか、その方がこっちとしては危険なのかもしれないのか。それで、私も納得をする。
ハイラは別に、ここで今私たちの仲間になれ、といっているのではない。ただ、しばらくここで考えてみろ、と言っているのである。
そこで私は、しばしば考える。私は別に、他の人の反応が少し気になるかもしれないが、それ以外は特に悪い点はない。
「確かに、それなら、その方がいいのかも……しれない」
ヨネは納得したような表情で、下を向いていた顔を私の方に動かす。
私は別に誰かと協力するつもりではないのだ。でも____。
「だとしても、それでも_____。」
これがどういうものなのか、私にはよく分からない。分からないけど、でも、ここはそう言わないといけない、そんな気がする。
するとハイラは「もう、」と頬を膨らましてから、
「じゃあ言い方を変えます。協力はしなくていいから、とりあえずの住み場所としてここを与えます。ここでじっくりと考えてください。その後の行動は自由とします。ですが、問題が解決しても考えがまとまらなかった場合は話が別ですからね」
とそう目を細めて言った。ください、なんて、それは……。
「協力と、一緒なのでは」
「あぁもう!何でもいいじゃないですか!良いですか!?いいですね!?」
段々対応が面倒くさくなったようで、そう叫んでから部屋から出ようとした。ヨネは私を数秒見つめてから、溜息をつきハイラと共に出ようとする。
私はもうあれこれ考えるのをやめて、ハイラの耳に私の声が届かなくなる前に、
「___分かった。ありがとう」
とそう告げた。部屋を出て少しのところにいたハイラは、早歩きで歩く足を一瞬止め、特に何も言わずまた歩いていった。
ヨネは部屋から出る際、
「____救い方の問題、だよ」
と私にそう呟いた後、ヨネは部屋をそそくさと出ていった。
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