最終話 楓と迷惑執事
「あっづいー」
「心頭滅却すればですわ。背筋を伸ばして、しゃんとしなさい和美さん」
「暑いもんは暑いのよっ! 愛美の力で教室にクーラー取り付けてよっ!」
「あら。わたくしは楓さんを見習って、クーラー無しの生活に取り組んでおりますのよ。地球にやさしく生きる。これこそ、これから日本を引っ張っていく紫藤家の姿勢なのです」
「どうぞご勝手にぃ。私はいい男みつけて主婦になるから関係ないもんねーだ」
「良い・・・男ですか・・・」
「あぁっ! 愛美は今私をバカにしたよっ! 出来るわけ無いって感じで言ったよ! 聞いたぁ? 佳奈!」
9月中旬。夏休も終わり、二学期が始まってしばらく経った。和美と佳奈、それに愛美を加えた三人で、いつもどおり彼女達らしい井戸端会議を教室で繰り広げていた。
「ところで今日は・・・廊下が歩きにくくなってたね」
「えー。私は逆に歩きやすかったよぉ。ぽよんぽよんってぇ!」
そこへ首根っこをつかまれ、さながら猫を運ぶかのように女子に連れられてくる男子。女の子は精一杯背伸びをしながらその男の子を引きずってきた。
「いい加減にしなさいっ! 床を総コルク張りにするのに、今度はいくらお金をかけたのっ!」
「教室一室あたり1000万円。廊下は10mあたり100万円です。しかし、これも楓様が転んだ時に怪我をしないためには・・・」
「過保護なのよっ! そんな事をしなくても私達高校生は元気なんだから大丈夫よっ! もっとお金のありがたみを知りなさいっ! このお金持ちのぼんぼんめっ!」
「ですが・・・」
「先週は全ての窓を防弾ガラスに。その前は全ての教室と学校の入り口に網膜認証ロックを取り付けた。あと一ヶ月もすればこの学校は私のための要塞になってしまうでしょっ!」
私が胸倉を掴みながら前後に揺すると、冬哉はガクンガクンと糸の切れた操り人形のように首を振っている。その服装は・・・燕尾服ではなく、私と同じ高校の学生服である。
「まーた始まった。楓と冬哉様のSMプレイ」
「これってツンデレなのぉ? それともコスプレぇ?」
「本当は婚約者ですのに・・・」
輪唱のようにため息を続いて吐いている和美、佳奈、愛美さんに向かって、私は全身を使って言葉を発する。
「違うっ! こいつは『執事』っ! 大学卒業するまではとにかく執事っ!」
「せっかく冬哉様が高校に編入してきたってのにあんたは・・・。それじゃ、卒業したら結婚するって事?」
「しっ・・・しっ・・・しないっ! 卒業してもずーっと執事なのっ!」
「あはは。楓ちゃん。結婚してもずっと執事プレイ続けるんだぁ」
「プレイじゃないっ! 本物っ! 本気でっ! ノーマルでっ! 執事なんですっ!」
「プレイ・・・って皆さん何を言ってらっしゃるのですか?」
「ちょっと愛美さん! 紫藤家の力で冬哉のお金を奪ってやってよっ! こいつは一回貧乏にならなきゃわかんない奴なんだからっ!」
「そんな・・・。日立財閥は紫藤家などとは比べ物にならないくらい大きいのですわ・・」
その時、窓から見えるグラウンドに次々にトラックが入って来た。荷台には重機を載せ、その数は30台を超えている。
「あちらの工事は3日で終わらせてみせます」
言った後、目を逸らして笑う冬哉。私は頬を引くつかせながら問う。
「今度は何?」
「グラウンドの土を・・・全てウッドチップに取り替えようと思いまして。サッカーや野球に支障が出ますが、何よりも楓様のお体に擦り傷を作らないためには・・」
「問題大有りよっ!」
地面で跳ねないボールに愕然とする球児達の姿が思い浮かんだ。
「ご安心ください。学園長には許可をとっており・・」
「それよりあんたを学校から叩き出す許可を取ってきなさいっ!」
怒る私だが、奴の口元が緩んでいるのに気がついた。
「あなた・・・わざとやっているんじゃないでしょうねっ! ひょっとして私をからかって・・」
「め・・・めっそうもない。・・・ピューピュー・・」
私は冬哉の膝をつかせ、目線を私に合わさせると、大声で言った。
「この・・・迷惑執事っ!」
おわり
お読みいただきありがとうございます。
この作品は2012年4月現在、最新作になります。(同時期にもう一作品あり)
現在同系ジャンルの『ナデシコダンジ』(旧『虹色の飴』)の下書きが7割ほどです。
読んだら楽しくなれるのをコンセプトに書いており、
『楓と迷惑執事』よりも面白い作品になっていると自負しております。
完成した際は、是非よろしくお願いいたします。
twitterで新作情報をつぶやいたりしています
音哉 @otoya2010otoya




