第七十一話「黄泉ネット開発計画70 えごさ」
第七十一話「黄泉ネット開発計画70 えごさ」
-------------------
保守要綱が完成してから、しばらくが経った。
黄泉ネットは、静かに動き続けていた。
私は、ある日ふと思った。
堀田殿が、ずいぶん前に言っていた言葉を。
「先祖も、きっと驚いていると思います。
忠清さまが、黄泉の国でこんなことをしているとは。」
あの時は、笑い話のように流した。
だが、今は少し気になっていた。
下界では、私はどう思われているのか。
-------------------
「堀田殿。」
「はい。」
「以前、下界での私の評判という話をしたな。」
堀田殿は少し間を置いてから言った。
「はい。」
「気になってきた。」
堀田殿は静かに笑った。
「やはり、そうなりましたか。
私は、本からの忠清さまの情報しか知りません。
今はどのような評判になっているのでしょね。
少し興味がありますね。」
--------------
翌日、私は田中殿の元を訪ねた。
「今、下界のインターネットを見られるのか。」
「見られます。
ただ、許可なしに自由に見るわけにはいきません。」
「そうだな。」
「閻魔様に、相談してみますか。」
「うむ。」
-------------------
閻魔様のもとへ向かった。
「忠清。」
「はい。」
「何かあったか。」
「一つ、お願いがあります。
下界のインターネットを、少し見させていただけませんか。」
閻魔様は少し間を置いてから仰せになった。
「何を見たいのだ。」
「……自分のことが、どう書かれているか、確かめたいと思いまして。」
閻魔様はしばらく黙っておられた。
やがて、静かに仰せになった。
「忠清。」
「はい。」
「お主は、十五年、よく頑張った。」
「……はい。」
「ご褒美だ。」
閻魔様は静かに続けられた。
「一日一時間、下界との通信を許す。」
「ありがとうございます。」
私は深く頭を下げた。
「ふぁふぁふぁ。」
閻魔様は静かに笑われた。
「せいぜい、楽しんでこい。」
--------------
作業場に戻ると、田中殿と、田中殿から何やら聞いた堀田殿が待っていた。
「どうでしたか。」
「許可が下りた。一日一時間、見られる。」
堀田殿が笑った。
「さすが閻魔様ですね。」
--------------
私は運営管理者三人に閻魔様の許可内容を伝え、
自分が行う内容も併せて伝えた。
運営管理者三人は、行いの内容をみて
「とても興味深いですね。」と言っていた。
無事、運営管理者三人の認可をもらうことができた。
--------------
許可をもらった翌日
「では、早速見てみるか。」
田中殿が、からくり箱の前に座った。
堀田殿も隣に来た。
私も、二人の後ろに立った。
「検索、というものを使います。」
田中殿が言った。
「けんさく。」
「知りたいことを、文字で入力すると、
関連する情報が出てきます。」
「文字打ち板で打つのか。」
「はい。」
田中殿が文字を打った。
「自分の名前を入れてみましょう。」
「酒井忠清、か。」
「はい。」
田中殿が、私の名前を打ち込んだ。
画面に、文字が現れた。
たくさんの文字が、並んでいた。
私は画面を眺めた。
しばらく読んだ。
--------------
作業場が、静かになった。
田中殿が、そっと私を見た。
私は画面を見たまま、動かなかった。
やがて、静かに言った。
「権力の亡者……私か。」
田中殿が小声で言った。
「……忠清さま。」
「合議制を重んじ、民の安定のために動いたつもりだったが。」
「はい。」
「後世には、そう映っておるのか。」
しばらく、誰も何も言わなかった。
「田中殿。」
「はい。」
「これからどうしたら良いのだ。」
田中殿は少し困った顔をした。
「……それは、忠清さまが決めることだと思いますが、、、」
田中殿が静かに言った。
「2ちゃんねる、というものがあります。」
「にちゃんねる。」
「はい。下界の者が、匿名で意見を書ける場所です。」
私は少し間を置いてから言った。
「下界へ影響を与えてしまわぬか。」
田中殿は少し笑った。
「ほぼ与えることはありません。
下界には、様々な意見があふれています。
一つや二つ書いても、波紋にもなりません。が、、、」
「が、」
田中殿は続けた。
「結構、辛辣な意見が来ますよ。」
「辛辣な意見。」
「はい。匿名なので、皆、遠慮なく書きます。」
田中殿が言った。
「やめておいた方が良いと思います。」
「なぜだ。」
「傷つきますよ、きっと。」
「生前、どれだけ悪評を立てられたか。今さら傷つくものか。」
「それは……そうかもしれませんが。」
堀田殿がいたずら小僧のような顔で言った。
「書いてみますか。」
私はしばらく黙っていた。
「……言いたいことがある。」
田中殿は困った顔をしながら、もう一度繰り返した。
「傷つきますよ、きっと。」
堀田殿が小さな声で言った。
「忠清さま、顔が、少し楽しそうですよ。」
私は何も言わなかった。
だが、口元が少し緩んでいたかもしれない。
--------------------
私は書き留めた。
閻魔様より、一日一時間の下界通信を許可いただく。
「十五年、よく頑張った。ご褒美だ。」
堀田殿・田中殿と共に、えごさ。
「権力の亡者……私か。」
田中殿に「にちゃんねる」を教わる。
辛辣な意見が来るらしい。
田中殿に止められる。
言いたいことがある。
私は筆を置いた。
黄泉国情報網計画。
黄泉ネットが、開通した。
十五年かかった。
多くの者たちが動いた。
田中殿が広間でぶつぶつ言っていたことが、ここまで来た。
取りまとめ役は、また仕事を承ってしまった。
次は、言いたいことを届ける番である。
---完---
閑話:「忠清の、忠清による、忠清の為の調査書」をはさみ
次作:「合議制で決めたのに全部俺のせいにされてるんだが?
〜大老・酒井忠清、三百年越しの反論〜」へ続く
子供の誕生日までに何とか投稿することができました。
大きくなったら、読んでくれることを願います。
閑話(ep72)と第二作忠清さまの2ちゃんねる投稿へ続きます。
引き続きよろしくお願い致します。
竹の春と猫
よろしくお願いいたします。




