第七十話「黄泉ネット開発計画69 保守」
第七十話「黄泉ネット開発計画69 保守」
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田中殿が家族に連絡を送ってから 数日後。
黄泉ネットは、静かに動き続けていた。
大きな問題は起きなかった。
各係からの情報が、毎日届く。
翻訳班が文字を届ける。
からくり箱が、当たり前のように動いている。
「忠清さま。」
田中殿が言った。
「なんだ。」
「黄泉ネットが、安定してきました。」
「そうだな。」
「大きな問題が起きなくなってきた、ということは、
次の段階に入ったということだと思います。」
「次の段階とは。」
「作ることから、守ることへ。」
私はその言葉を、静かに受け取った。
「守ること、か。」
「はい。作る時は、皆が集中して動いていました。
だが、動き続けるためには、
地道に守り続ける仕組みが必要です。」
「保守、ということか。」
「そうです。」
「一つ、気になっていることがある。」
私は言った。
「何ですか。」
「この事業に関わってくれた者たちのことだ。」
「どういうことですか。」
「ボルタ殿やファラデー殿、フレミング殿、ラングミュア殿。
真空管を一緒に作ったド・フォレスト殿。
高柳殿。
チューリング殿、シャノン殿。
後藤殿。
皆、この事業のために力を貸してくれた。
だが、事業が安定してきた今、
何をしているのだろうと思う。」
田中殿は少し考えてから言った。
「それぞれ、自分の仕事に戻っている方もいます。
ただ、中には宙に浮いている方もいると思います。」
「宙に浮いている、とはどういうことだ。」
「黄泉ネットの仕事が一段落して、
次に何をすれば良いか分からない状態です。」
「それは、良くないな。」
「はい。」
「役割のない者は、落ち着かない。
生前も、仕事を失った者が最も辛そうだった。」
私は静かに言った。
「その方々に、声をかけたい。」
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翌日から、声をかけて回った。
ボルタ殿に声をかけた。
「黄泉ネットの保守を、手伝ってもらえないか。
電力の安定を、引き続き見てほしい。
ただし、空き時間は自分の研究を続けてもらって構わない。」
ボルタ殿が何かを仰った。
メッツォファンティ殿が訳す。
「喜んで、と。
電気のことなら、いつでも、と。」
ファラデー殿にも声をかけた。
測定の仕事を続けてほしいと伝えた。
ファラデー殿は静かに頷いた。
後藤殿にも声をかけた。
「引き続き、橋渡しを頼む。
チューリング殿やシャノン殿との間に入ってほしい。
空き時間は、パラメトロンの研究を続けてもらって構わない。」
後藤殿は静かに言った。
「はい。
生前、完成させられなかった研究があります。
続けられるなら、嬉しいです。」
「続けてくれ。」
「ありがとうございます。」
高柳殿にも声をかけた。
「もにたの改良を、引き続き頼む。
板からくりの画面の研究も続けてくれ。」
高柳殿は目を輝かせた。
「はい。まだ分からないことがたくさんあります。」
「存分に研究してくれ。
ただし、もにたに問題が起きた時は、優先して対応してほしい。」
「承知しました。」
久兵衛にも声をかけた。
「からくり箱の点検を、引き続き頼む。
空き時間は、石の仕事をしてもらって構わない。」
久兵衛は静かに言った。
「石の仕事、とは。」
「黄泉ネットに関わる前の仕事だ。
あと、ガラス加工職人と一緒にガラス加工もやってくれると助かる。
「はい。」
久兵衛は少し間を置いてから言った。
「……ありがとうございます。」
「礼は要らぬ。
お主がいなければ、ここまで来られなかった。」
声をかけた者たちが、それぞれの役割を持つようになった。
保守の仕事をしながら、自分の研究や仕事を続ける。
久世殿が、その全体をまとめた文書を作った。
「保守要綱」
という名前をつけた。
「保守要綱か。」
「はい。誰がどの保守を担当するか、
問題が起きた時の連絡先、
空き時間の使い方のルール。
全部まとめました。」
「黄泉ネット運用要綱と、対になるものだな。」
「はい。運用と保守、両方が揃いました。」
私は文書を眺めた。
「久世殿。」
「はい。」
「お主の記録帳と、要綱と、この文書が、黄泉の後世に残るものになるかもしれぬ。」
久世殿は少し驚いた顔をした。
「……そうなれば、嬉しいです。」
「そうなる。」
私は静かに言った。
「記録が残れば、次の者が同じことをやり直さなくて済む。
それが、記録の価値だ。」
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田中殿が言った。
「忠清さま。」
「なんだ。」
「皆、生き生きしていますね。」
「そうだな。」
「役割がある、ということですね。」
「そうだな。
役割がある者は、顔が違う。」
「忠清さまも、ずっとそうでしたよ。」
「私が?」
「はい。取りまとめ役として動いている時の忠清さまは、
生き生きしています。」
「そうか。」
「自分では気づいていないんですか。」
「……気づいていなかった。」
田中殿は笑った。
「役職は奪えても、役割は奪えない、ですね。」
「そうだな。」
私は静かに言った。
「黄泉の国に来て、それが分かった。」
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私は書き留めた。
保守要員、決定。
ボルタ殿——電力の安定。
ファラデー殿——測定。
後藤殿——橋渡し。ぱらめとろんの研究継続。
高柳殿——もにたの改良。板からくりの研究継続。
久兵衛——からくり箱の点検。石・ガラスの仕事継続。
その他、各班が保守を担当。
保守作業優先。空き時間は自分の仕事や研究を続けてもよい。
「保守要綱」完成。
私は筆を置いた。
作ることから、守ることへ。
だが、守るだけではない。
守りながら、それぞれが自分のことを続ける。
役割を持ちながら、自分であり続ける。
それが、長続きする仕組みだ。
黄泉ネットも、この事業に関わった者たちも、
動き続けている。
黄泉国情報網計画。
保守が、始まった。
次は、、、




