第六十九話「黄泉ネット開発計画68 届いた」
第六十九話「黄泉ネット開発計画68 届いた」
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篁様が詠子殿に伝えてくださってから、しばらくが経った。
下界側の準備が整ったという知らせが届いた。
篁様を通じて、詠子殿からの文字が届いた。
「準備ができました。いつでもどうぞ。」
田中殿がその文字を見て、静かに言った。
「……繋がりましたね。」
「そうだな。」
「いよいよですね。」
「そうだな。」
だが、まず閻魔様の許可が必要だった。
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閻魔様のもとへ向かった。
下界との接続について、申し上げた。
閻魔様はしばらく黙っておられた。
「下界と繋ぐ、か。」
「はい。ただし、誰でも使えるようにはしません。
許可した者だけが使える仕組みにします。」
「誰が許可を出すのだ。」
「閻魔様に、お願いしたいと思っております。」
「朕が許可を出した者だけが、下界と繋がれる、ということか。」
「はい。」
閻魔様はしばらく考えておられた。
「許可の基準は、どうする。」
「黄泉ネットの運営管理者三人の許可が得られた者に限ります。
また、内容は閻魔様と運営管理者三人が確認できるようにします。
使用者は事前にどのような内容を下界のネットに入力するのか申請します」
「事前に申請というのは情報が流れすぎないようにする、ということか。」
「はい。下界に混乱を与えないよう、慎重に使います。」
閻魔様は静かに頷かれた。
「よき。」
「ありがとうございます。」
「最初は誰が使う。」
私は少し間を置いてから言った。
「一人、決めています。」
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作業場に戻った。
田中殿を呼んだ。
「田中殿。」
「はい。」
「閻魔様の許可が下りた。
最初に使う者を、運営管理者に提案し、了解を得た。」
「誰ですか。」
「お主だ。」
田中殿は少し黙った。
「……私、ですか。」
「そうだ。
下界に残してきた者がおるだろう。」
「……はい。」
「最初に使え。」
田中殿はしばらく黙っていた。
「……ありがとうございます。」
「礼は要らぬ。
お主がここに来てから、ずっと待っていたことだ。」
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田中殿は事前に下界へ送る内容の申請を行い、準備が整った。
田中殿が、からくり箱の前に座った。
作業場の全員が、静かに見ていた。
誰も声をかけなかった。
田中殿が、文字打ち板に向かった。
ゆっくりと、文字を打ち始めた。
画面に、文字が現れた。
「お父さん、お母さん。
あれから、猫の「ききこ」と「ららこ」は元気にしてますか?
達兄さん、眼は大丈夫ですか?
信子も元気でやってますか?
こっちの世界で結構楽しんでます。
いずれ合えると思いますので、
父さん母さんとみんなは今を生きてください。
こっちで待ってます。」
田中殿は、文字を打ち終えた。
しばらく、画面を見ていた。
送信した。
作業場が、静かになった。
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誰も何も言わなかった。
田中殿は、画面を見たまま動かなかった。
肩が、わずかに動いた。
私は声をかけなかった。
そっとしておいた。
しばらくして、田中殿が振り返った。
目が、少し赤かった。
「……送りました。」
「そうか。」
「届くかどうかは、分かりません。」
「届く。」
「どうして分かるんですか。」
「篁様が言っていた。
詠子殿が下界側の仕組みを作ってくれた。
繋がっている。」
田中殿は少し間を置いてから言った。
「……そうですね。」
「届く。」
私はもう一度言った。
田中殿は静かに頷いた。
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スウェーデンボリ殿が、静かに近づいてきた。
スウェーデンボリ殿は田中殿を見ながら言った。
「意味が、動き始めました。」
私はその言葉を、静かに受け取った。
「また、その言葉か。」
「はい。」
「最初に言ったのは、いつだったか。」
「事業を始めた頃です。
ボルタ殿が最初の光を灯した時。」
「あれから、何年が経った。」
「十三年です。」
「十三年か。」
私はしばらく黙っていた。
「あの時の「意味が動き始めました」と、
今日の「意味が動き始めました」は、同じか。」
スウェーデンボリ殿は少し考えてから言った。
「同じ言葉です。
ですが、意味の大きさが違います。」
「どう違うのだ。」
「あの時は、光が灯っただけでした。
今日は、人の思いが届きました。」
私はその言葉を、静かに受け取った。
人の思いが、届いた。
技術が道を作り、人が言葉を渡した。
道と言葉が揃って、思いが届いた。
「スウェーデンボリ殿。」
「はい。」
「お主がいてくれて、良かった。」
スウェーデンボリ殿は静かに言った。
「私も、そう思っております。」
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その夜。
田中殿が私のもとへ来た。
「忠清さま。」
「なんだ。」
「一つ、聞いていいですか。」
「どうぞ。」
「忠清さまは、黄泉ネットを作って、良かったと思いますか。」
私はしばらく考えた。
「良かった。」
「なぜですか。」
「お主が送れたからだ。」
田中殿は少し間を置いてから言った。
「それだけですか。」
「それだけでも、十分だ。」
「……ありがとうございます。」
「礼は要らぬ。」
「でも、言いたいんです。」
「……そうか。」
「忠清さまが話を聞いてくれたから、ここまで来られました。」
「私は、ただ聞いただけだ。」
「それが一番大事だったんです。」
私は、その言葉を静かに受け取った。
何度目か、分からなかった。
だが、何度聞いても、同じ言葉だった。
「田中殿。」
「はい。」
「お主が広間でぶつぶつ言っておった時から、
ずいぶんと遠くまで来たな。」
田中殿は静かに笑った。
「はい。忠清さまのおかげです。」
「お主のおかげだ。」
「……どちらのおかげでもありますね。」
「そうだな。」
私も静かに笑った。
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私は書き留めた。
閻魔様、下界通信を許可。
許可した者のみ、一方的な連絡に限る。
田中殿、家族へ連絡を送信。
「こっちの世界で結構楽しんでます。
いずれ合えると思いますので、
父さん母さんとみんなは今を生きてください。
こっちで待ってます。」
スウェーデンボリ殿「意味が、動き始めました。」
私は筆を置いた。
人の思いが、届いた。
これが、黄泉ネットを作った理由だった。
情報を届けることではなかった。
誰かの思いを、誰かに届けること。
それが、最初からの目的だった。
田中殿が広間でぶつぶつ言っていた時から、
ずっとそこにあった。
黄泉国情報網計画。
思いが、届いた。
次は、この仕組みを守り続ける番である。




