第六十五話「黄泉ネット開発計画64 改ざん」
第六十五話「黄泉ネット開発計画64 改ざん」
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黄泉ネットが正式に動き始めてから一年が過ぎた。
各係が、毎日からくり箱を使っていた。
仮判定所からの報告。
閻魔庁からの連絡。
翻訳班からの文書。
情報が届くことが、完全に当たり前になっていた。
田中殿はネットワークの保守を続けていた。
線に問題がないか確認し、
からくり箱の動きに異常がないか確かめる。
毎日の地道な作業だった。
「忠清さま。」
田中殿が言った。
「なんだ。」
「今日の保守点検、問題ありませんでした。」
「そうか。」
「二年間、大きな問題は出ていません。」
「それは、良いことだな。」
「はい。良い仕組みは、何も起きない日が続きます。」
久兵衛班も、からくり箱の定期点検を続けていた。
部品の劣化がないか、接続に問題がないか。
アルベルトが一台ずつ確認し、
ヴィクトルが記録し、
ジョゼフが修理を担当した。
久世殿が全体の記録をまとめ、週一回の寄合で報告する。
黄泉ネットは、静かに、確実に動き続けていた。
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ある日の寄合。
久世殿が報告した。
「一つ、気になることがあります。」
「何だ。」
「書類管理係の梶原忠兵衛殿からの報告書についてです。」
「梶原殿。」
「はい。先週の報告書と、今週の報告書で、
同じ案件の数字が違っています。」
「どちらが正しいのだ。」
「先週の数字の方が、他の係の記録と合っています。
今週の数字は、他と合いません。」
「つまり、今週の数字が書き換えられた可能性があるということか。」
「はい。」
久世殿は静かに言った。
「一度だけなら、入力誤りかもしれません。
ですが、過去の記録を遡って確認したところ、
同じようなことが数回ありました。」
作業場が、静かになった。
「田中殿。」
私は言った。
「はい。」
「確かめることはできるか。」
「はい。からくり箱には、情報が変更された記録が残ります。
いつ、誰が、どの情報を変えたか、確認できます。」
「調べてくれるか。」
「はい。阿部殿と一緒に調べます。」
田中殿と阿部殿が、サーバーの記録を調べ始めた。
私は離れた場所から、その様子を眺めていた。
生前のことが、ふと浮かんだ。
小野篁様が言っていた言葉。
「便利な仕組みは、権力を集める。
権力が集まれば、それを使おうとする者が出る。」
あの言葉を聞いた時、
まだ黄泉ネットは形にもなっていなかった。
だが、篁様は見えていたのだ。
こういう日が来ることを。
伊達騒動のことも、思い出した。
私の邸で、刃傷沙汰が起きた。
原因の一つは、情報が歪んで伝わったことだった。
誰が何を言ったのか。
誰が何を決めたのか。
正しい情報が届かなかったから、
疑心暗鬼が生まれた。
疑心暗鬼が、あの騒動を大きくした。
「情報が歪めば、人が死ぬ。」
私は静かに呟いた。
黄泉の国では、命はもうない。
だが、信頼が失われる。
信頼が失われれば、仕組みが壊れる。
仕組みが壊れれば、誰かが困る。
生前と同じことが、ここでも起きようとしていた。
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しばらくして、田中殿が戻ってきた。
「忠清さま。」
「どうだった。」
「梶原殿が、報告書を書き換えていたことが確認できました。」
「間違いないか。」
「はい。変更の記録が、はっきり残っています。
梶原殿の操作で、数字が書き換えられていました。」
阿部殿が続けた。
「変更された内容を見ると、
梶原殿が管理している案件の数字が、
意図的に小さく書き換えられていました。」
「なぜそんなことをするのだ。」
「……まだ分かりません。
梶原殿に直接聞く必要があります。」
私はしばらく黙っていた。
「分かった。」
私は静かに言った。
「梶原殿と、話をする。」
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私は書き留めた。
黄泉ネット運用、一年が過ぎた。
各班、保守作業を継続中。特段の問題なし。
書類管理係・梶原忠兵衛殿の報告書改ざんが発覚。
田中殿・阿部殿が記録を確認。変更の証拠あり。
篁様の警告を思い出す。
「便利な仕組みは、権力を集める。」
伊達騒動の記憶が重なる。
情報が歪めば、信頼が失われる。
私は筆を置いた。
仕組みが整えば、それを使おうとする者が出る。
篁様は、最初から分かっておられた。
だが、仕組みで防げることもある。
罰より、仕組みで解決する。
それが、取りまとめ役の仕事だ。
黄泉国情報網計画。
最初の、試練が来た。
次は、この試練に向き合う番である。




