第六十三話「黄泉ネット開発計画62 新からくり箱改」
第六十三話「黄泉ネット開発計画62 新からくり箱改」
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板からくりの解析は、思ったより時間がかかった。
田中殿、おおえす班、高柳殿が毎日作業台に向かった。
チューリング殿と後藤殿も加わった。
だが、板からくりの仕組みは複雑だった。
部品を一つ外すたびに、新しい疑問が出てきた。
「この部品は何をするのだ。」
「まだ分かりません。」
「この仕組みは、どういう原理か。」
「調べています。」
その繰り返しが、何週間も続いた。
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ある日。
阿部殿が私のもとへ来た。
「忠清さま。一度、整理したいことがあります。」
「聞こう。」
おおえす班の四人と田中殿と高柳殿が集まった。
後藤殿も来た。
阿部殿が紙を広げた。
「板からくりの解析で分かったことを、整理します。」
「どうぞ。」
「まず、使える部分です。」
阿部殿は紙の左側を指した。
「記憶容量。からくり箱一号機より遥かに大きい。
より多くの情報をしまえます。」
「それは、使えるということか。」
「はい。黄泉の国の材料で、同じような仕組みを作れます。
久兵衛班に頼めば、形にできます。」
「他には。」
「電池です。板からくりの電池は、小さくて長持ちします。
ボルタ殿とファラデー殿に相談すれば、
改良できる可能性があります。」
「処理速度は。」
「処理速度も使えます。
半導体の密度を上げる仕組みが分かりました。
ガラケーの半導体より、さらに密度を高くできます。」
「つまり、記憶容量・電池・処理速度の三つが、
今より良くなるということか。」
「はい。」
「では、使えない部分は。」
阿部殿は紙の右側を指した。
「画面です。」
「板からくりの画面か。」
「はい。板からくりの画面は、
指で触れると反応する仕組みになっています。
この仕組みを黄泉の国で再現するには、
材料と加工の技術が足りません。」
「加工ができないということか。」
「はい。板からくりの画面は、
極めて薄い層を何枚も重ねて作られています。
その薄さを、黄泉の国の職人技では再現できません。」
高柳殿が言った。
「久兵衛殿にも相談しましたが、
あの薄さは難しい、と言っていました。」
「久兵衛がそう言うのなら、難しいのだろう。」
「はい。」
阿部殿が続けた。
「もう一つ、使えない部分があります。
処理能力です。」
「処理速度と違うのか。」
「処理速度は速くできます。
ですが、板からくりには、
複数のことを同時に行う処理能力があります。
この「同時に」という部分が、
今の黄泉の国の仕組みでは難しい。」
「一度に一つしかできない、ということか。」
「そういうことです。
板からくりは、複数のことを同時にこなせる。
今のからくり箱は、順番にしかこなせない。」
「それは、どう違うのだ。」
田中殿が説明した。
「例えば、情報を送りながら、別の情報を受け取ることが、
今のからくり箱は苦手です。
板からくりは、それを同時にこなせます。」
「同時に動く、か。」
「はい。これを実現するには、
OSから作り直す必要があります。
時間がかかります。」
「では、今はできないと。」
「今は諦めます。
まず使える部分を取り入れた改良版を作り、
同時処理は次の課題にします。」
「整理すると。」
私は言った。
「使える——記憶容量、電池、処理速度。
使えない——画面の加工、同時処理。
この二つに分けて、使える部分だけ取り入れる。」
「そうです。」
阿部殿は頷いた。
「できることから進める、ということだな。」
「はい。完璧を目指すより、
できることを積み上げる方が、確実です。」
「合議と同じだ。」
私は静かに言った。
「全てを一度に決めようとすると動けない。
決められることから決めていけば、前へ進める。」
堀田殿が言った。
「では、新しいからくり箱の設計を始めます。
記憶容量・電池・処理速度を改良した版です。
「からくり箱改」と呼びましょう。」
「からくり箱改か。」
「はい。今後、新しく作るものはこちらにします。」
「久兵衛に話はしたか。」
「今日、相談します。」
「頼む。」
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久兵衛のもとへ向かった。
堀田殿と田中殿が一緒だった。
新しい仕様を説明すると、久兵衛はしばらく考えた。
「記憶容量を大きくする部分は、できます。
電池を改良する部分は、ボルタ殿と相談が必要です。
半導体の密度を上げる部分は、
アルベルト殿たちと試してみます。」
「できそうか。」
「やってみなければ分かりません。」
久兵衛は静かに言った。
「ですが、今まで何度も、
やってみなければ分からないことをやってきました。
だから、できると思っています。」
田中殿が笑った。
「久兵衛さん、頼もしいですね。」
「職人は、やってみることしかできません。」
久兵衛は静かに言った。
「考えるだけでは、形にならない。
形にして初めて、分かることがある。」
「そうだな。」
私は頷いた。
「形にしてくれ。頼む。」
「はい。」
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私は書き留めた。
板からくり解析、完了。
使える部分——記憶容量・電池・処理速度。
使えない部分——画面の加工・同時処理。
「からくり箱改」の設計開始。
使える部分だけ取り入れた改良版。
久兵衛「形にして初めて、分かることがある。」
私は筆を置いた。
できることから進める。
完璧を目指すより、
できることを積み上げる方が確実だ。
使えない部分は、次の課題にする。
今の黄泉の国でできることを、まず形にする。
それが、この事業の進め方だった。
最初から、ずっとそうだった。
黄泉国情報網計画。
新しい道具から、使えるものを学んだ。
次は、その学びを形にする番である。




