第六十話「黄泉ネット開発計画59 新しい技術」
第六十話「黄泉ネット開発計画59 新しい技術」
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黄泉ネットが正式に動き始めてから、しばらくが経った。
各係からの情報が、毎日届くようになった。
仮判定所からの判定記録。
閻魔庁からの業務連絡。
翻訳班からの報告。
情報が届くことが、当たり前になっていた。
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ある日。
旭殿が作業場に来た。
使いの者ではなく、からくり箱でもなく、
直接来た。
「旭殿。珍しいな。直接来られるとは。」
「はい。からくり箱では伝えにくいことがありまして。
あっはっは。」
「何だ。」
旭殿は少し考えてから言った。
「最近、仮判定所に来る魂が持ち込むものが、
変わってきました。」
「どう変わった。」
「田中殿が持ち込まれた折りたたみ携帯とは、
違うものを持ってくる方が増えています。」
「どう違うのだ。」
旭殿は少し間を置いてから言った。
「折りたたまれていないのです。
一枚の板です。あっはっは。」
「一枚の板。」
「はい。薄くて、四角い板です。
田中殿の携帯とは、形が全然違います。」
私は田中殿を見た。
田中殿が少し顔色を変えた。
「……一枚の板、ですか。」
「はい。」
「触ると反応しますか。」
「はい。指で触ると、画面が動きます。」
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旭殿が一つ取り出した。
持ち込んだ魂が、預けていったものだという。
田中殿が受け取った。
じっと眺めた。
薄い、一枚の板だった。
画面が大きく、ほとんどが画面だった。
「田中殿。知っているか。」
「……知りません。」
田中殿は正直に言った。
「私が死んだ時、こんなものはありませんでした。」
「お主も初めてか。」
「はい。」
田中殿はしばらく、板を眺めていた。
「……下界は、私が死んだ後も、進んでいたんですね。」
その声は、静かだった。
寂しいとも、嬉しいとも、取れる声だった。
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TRINチームを呼んだ。
堀田殿が受け取って、眺めた。
阿部殿が眼鏡を外して、近づいて見た。
稲葉殿が裏返して確認した。
久世殿が記録帳を開いた。
全員が、初めて見る顔だった。
「おおえす班も知らないのか。」
「はい。」
堀田殿が静かに言った。
「私たちが死んだ時、まだこれはありませんでした。
私たちが死んだ後も、下界は進んでいた。」
作業場が、少し静かになった。
「そうだな。」
私は静かに言った。
「下界は、止まらない。
こちらに来ても、下界は動き続ける。」
田中殿が言った。
「忠清さまは、それを感じたことはありましたか。」
「あったな。」
「どんな時ですか。」
「こちらに来て間もない頃、
下界で新しい将軍が立ったと聞いた時だ。
私がいなくても、時代は動くのだと思った。」
「寂しかったですか。」
「……少しな。」
私は正直に言った。
「だが、今はそう思わない。」
「なぜですか。」
「こちらでも、動いているからだ。
下界が動いているなら、こちらも動けばいい。」
田中殿は静かに頷いた。
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田中殿は少し黙った。
「……板からくり、とでも呼びましょうか。」
「板からくり。」
高柳殿が来た。
旭殿から話を聞いて、来たのだろう。
板からくりを見た瞬間、
高柳殿の目が変わった。
画面を見つめた。
指で触れた。
画面が動いた。
高柳殿が、動かなくなった。
「高柳殿。」
田中殿が声をかけた。
「……これは。」
高柳殿はしばらく黙っていた。
「高柳さんのブラウン管とは、全く別の仕組みだとおもいます。」
田中殿は正直に言った。
高柳殿は小さいな声で言った。
「私のブラウン管とは全く違う仕組みのようです。
電子銃も、磁力も、使っていないように見えます。」
高柳殿はしばらく考えてから言った。
「……もう一度、学び直す必要がある。」
その言葉は、落胆ではなかった。
むしろ、目が輝いていた。
「高柳殿。」
私は声をかけた。
「はい。」
「悔しいか。」
「いいえ。」
高柳殿は静かに言った。
「面白い、と思っています。
私が知らない仕組みで、映像が映っている。
それを知りたい。」
「学ぶことが、まだあるということか。」
「はい。」
高柳殿は微笑んだ。
「黄泉の国に来て良かったと思います。
下界にいたままでは、これを学べませんでした。」
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私は書き留めた。
旭殿「最近、若い魂が持ち込むものが変わった。折りたたまれていない一枚の板。」
「板からくり」と名付ける。
田中殿・おおえす班全員、初めて見る。
「私たちが死んだ後も、下界は進んでいた。」
高柳殿「もう一度、学び直す必要がある。」
「面白い、と思っています。」
私は筆を置いた。
下界は止まらない。
時代は動き続ける。
だが、こちらも動いている。
下界が新しいものを生み出すたびに、
黄泉の国でも学び直す者がいる。
それが、黄泉の国の豊かさかもしれない。
黄泉国情報網計画。
新しいものが、届いた。
次は、それを学ぶ番である。




