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第五十九話「黄泉ネット開発計画58 認可」

第五十九話「黄泉ネット開発計画58 認可」


-----------


十台のからくり箱が各係に配備されてから、数日が経った。


閻魔様から、使いの者が来た。


「閻魔様が、黄泉ネットをご覧になりたいと仰せです。」


私は田中殿を見た。


「準備はできているか。」


「はい。いつでも。」


「では、閻魔様をお迎えする。」



-----------



閻魔様が作業場に来られた。


いつもと変わらない、静かな佇まいだった。


作業場を見渡された。


からくり箱が並んでいる。


モニターが光っている。


各係からの情報が、次々と届いている。


「これが、黄泉ネットか。」


「はい。」


私は申し上げた。


「黄泉の国の係同士が、情報を共有できる仕組みでございます。」


閻魔様はしばらく作業場を眺められた。


「忠清。」


「はい。」


「始めると言ってから、何年経った。」


「約9年でございます。」


「9年か。」


「はい。」


閻魔様は静かに頷かれた。


「長かったな。」


「はい。」


「だが、できた。」


「はい。皆のおかげでございます。」



-----------


閻魔様が、からくり箱の前に座られた。


慣れた手つきで、文字打ち板の鍵を押された。


かちり。


また押された。


かちり。


作業場の全員が、モニターを見た。


画面に、文字が現れた。


「よき。」


作業場が静かになった。


それから。


誰かが笑い出した。


笑いが広がった。


田中殿が笑いながら言った。


「閻魔様の最初の文字、またですね。」


「またか。」


私も笑った。


「閻魔様は、言葉が少ない方だ。」


「それで十分、ということですね。」


閻魔様は笑い声を聞きながら、静かに仰せになった。


「ふぁふぁふぁ。」


作業場の笑いが、さらに大きくなった。



-----------


閻魔様が帰られる前に、仰せになった。


「忠清。」


「はい。」


「正式に、動かしてよい。」


「ありがとうございます。」


「それと。」


閻魔様はスウェーデンボリ殿を御覧になった。


「スウェーデンボリ。」


「はい。」


「翻訳班の取りまとめを、正式に命ずる。」


スウェーデンボリ殿は静かに頭を下げた。


「承知いたしました。」


「よき。」


閻魔様は静かに作業場を後にされた。



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閻魔様が帰られてから、作業場に静けさが戻った。


「忠清さま。」


田中殿が言った。


「なんだ。」


「正式運用開始ですね。」


「そうだな。」


「どんな気持ちですか。」


私はしばらく考えてから言った。


「……実感が、まだない。」


「なぜですか。」


「9年かけてここまで来た。

 だが、正式に動き始めても、

 見た目は何も変わっていない。

 からくり箱は、昨日と同じように動いている。」


「それが、良い仕組みの証拠ですよ。」


「どういうことだ。」


「特別なことが起きなければ、

 仕組みは正しく動いている。

 問題が起きた時だけ、気づく。

 それが、良い仕組みです。」


私はしばらく考えた。


「良い政も、同じかもしれぬ。

 何も起きない日が続くのが、良い治世だ。」


「忠清さまは、そういう治世を目指していたんですね。」


「そうだな。」


私は静かに言った。


「何も起きない日が続くように。

 皆が安心して暮らせるように。

 それだけだった。」



-----------



その夜、旭殿からの文字が届いた。


「仮判定所より。

 黄泉ネット正式運用開始、おめでとうございます。

 仮判定の資料共有が格段に速くなりました。

 使いの者を立てずに済むようになり、大変助かっております。

 あっはっは。」


作業場に、また笑いが起きた。


「旭殿らしいですね。」


田中殿が笑った。


「そうだな。」


私も笑った。


「「あっはっは」がなければ、旭殿の文字ではない。」




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私は書き留めた。


閻魔様、黄泉ネットを視察。「よき。」


黄泉ネット、正式運用開始。


スウェーデンボリ殿、翻訳班取りまとめに正式任命。


旭殿「仮判定の資料共有が格段に速くなりました。あっはっは。」


私は筆を置いた。


九年かかった。


だが、ここまで来た。


何も起きない日が続くように。


皆が安心して使えるように。


それが、生前から変わらぬ、私の目指すところだった。


黄泉国情報網計画。


正式に、動き始めた。


次は、この仕組みを守る番である。

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