第五十八話「黄泉ネット開発計画57 十台」
第五十八話「黄泉ネット開発計画57 十台」
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久兵衛班が、作り続けていた。
一号機が完成してから、二号機、三号機と増えてきた。
その間も、久兵衛班は手を止めなかった。
パーツを作り、組み立て、確認する。
その繰り返しだった。
「久兵衛。」
私は声をかけた。
「はい。」
「何台になった。」
「本日、十台目が完成しました。」
久兵衛は静かに言った。
「十台か。」
「はい。」
「ご苦労だった。」
「いいえ。」
久兵衛は手を動かしながら言った。
「必要とされる限り、作ります。
十一台目も、すでに始めています。」
「終わりがないな。」
「職人の仕事に、終わりはありません。」
十台のからくり箱が、作業場に並んだ。
田中殿がその様子を見ながら言った。
「最初は一台だったのに。」
「そうだな。」
「一台から始まって、二台になり、三台になり、
今日で十台になりました。」
「増えるのは早いな。」
「最初の一台が一番大変でした。
二台目からは、経験があるので早くなります。
三台目からは、さらに早くなります。」
「経験が積み重なるということか。」
「はい。」
田中殿は十台を眺めながら言った。
「最初の一台を作った時のことを、覚えていますか。」
「覚えておる。」
「どんな気持ちでしたか。」
私はしばらく考えた。
「信じられなかった。」
「忠清さまが、ですか。」
「そうだ。
黄泉の国で、からくり箱ができるとは、
最初は信じていなかった。」
「今は。」
「今は、十台ある。」
田中殿は少し笑った。
「信じられないことが、信じられるものになりましたね。」
「そうだな。」
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十台を、各係に配備する作業が始まった。
作業場に二台。
仮判定所に二台。
閻魔庁に二台。
石工班の作業場に一台。
翻訳班の部屋に三台。
田中殿が設置の確認をしながら、
各係を回った。
私も一緒に回った。
翻訳班の部屋に設置した時、
スウェーデンボリ殿が静かに言った。
「これで、翻訳した内容をすぐに送れますね。」
「そうだな。」
「以前は、訳した紙を使いの者に渡していました。
今は、訳した文字をそのまま送れます。」
「速くなるな。」
「はい。」
メッツォファンティ殿が何かを仰った。
スウェーデンボリ殿が訳す。
「七十の言葉を訳す速さより、
からくり箱が届ける速さの方が速い、と。
だから、訳すことに集中できる、と。」
「なるほど。」
私は頷いた。
「届けることは、からくり箱に任せる。
人は、人にしかできないことに集中する。」
「忠清さまの言葉、また名言ですね。」
田中殿が笑った。
「今日で何度目だ。」
「数えていません。」
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石工班の作業場に設置した時、
久兵衛が自分で作ったからくり箱を、
静かに眺めていた。
「久兵衛。」
「はい。」
「自分が作ったものが、自分の作業場に来たな。」
「はい。」
久兵衛は静かに言った。
「不思議な気持ちです。」
「どういうことだ。」
「私が作ったものが、私のところに届く。
作る者と、使う者が、同じになった。」
「そうだな。」
「生前は、作ったものがどこへ行くか、
分からないことが多かった。
石垣を作っても、誰が使うのか見えなかった。
今は、見えます。」
「見えることが、良いのか。」
「はい。」
久兵衛は静かに言った。
「作ったものが使われる様子が見えると、
もっと良いものを作りたくなります。」
私はその言葉を、静かに受け取った。
使われる様子が見えると、
もっと良いものを作りたくなる。
それが、職人というものなのかもしれない。
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全ての係への配備が終わった。
作業場に戻ると、田中殿が言った。
「十台になりましたね。」
「そうだな。」
「次は、何だいくらい必要でしょうか。」
「黄泉の国の係の数だけ、いずれ要るだろう。」
田中殿は静かに言った。
「増えるほど、繋がりが増えます。
繋がりが増えれば、届く者が増えます。
届く者が増えれば、意味が大きくなります。」
「スウェーデンボリ殿が言っていた言葉だな。」
「はい。」
田中殿は十台を眺めた。
「十台か。
次は二十台、三十台と増やしていきましょう。」
「それが、ネットというものか。」
「もうすっかり、ネットという言葉を使いこなせるようになったんですね。
小さく始まって、大きく広がる。それがネットワークの本質です。」
私はしばらく黙っていた。
「合議も、同じだったな。」
「どういうことですか。」
「最初は少人数で始まる。
信頼が生まれれば、人が増える。
人が増えれば、できることが増える。
小さく始まって、大きく広がる。」
田中殿は静かに頷いた。
「忠清さまは、ネットワークを生前からやっていたんですね。」
「人と人を繋ぐことは、政の基本だからな。」
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私は書き留めた。
からくり箱、十台完成。各係に配備。
久兵衛「作ったものが使われる様子が見えると、
もっと良いものを作りたくなります。」
田中殿「増え続けます。それが、ネットわあくというものです。」
私は筆を置いた。
一台から始まって、十台になった。
最初の一台を作る時が、一番大変だった。
だが、一台があったから、十台になれた。
何事も、最初の一つが大事だ。
最初の一つが、次を呼ぶ。
次が、また次を呼ぶ。
それが、広がるということだ。
黄泉国情報網計画。
十台が、揃った。
次は、その十台を正式に動かす番である。




