表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
58/72

第五十八話「黄泉ネット開発計画57 十台」

第五十八話「黄泉ネット開発計画57 十台」


------------


久兵衛班が、作り続けていた。


一号機が完成してから、二号機、三号機と増えてきた。


その間も、久兵衛班は手を止めなかった。


パーツを作り、組み立て、確認する。


その繰り返しだった。


「久兵衛。」

私は声をかけた。


「はい。」


「何台になった。」


「本日、十台目が完成しました。」


久兵衛は静かに言った。


「十台か。」


「はい。」


「ご苦労だった。」


「いいえ。」


久兵衛は手を動かしながら言った。


「必要とされる限り、作ります。

 十一台目も、すでに始めています。」


「終わりがないな。」


「職人の仕事に、終わりはありません。」



十台のからくり箱が、作業場に並んだ。


田中殿がその様子を見ながら言った。


「最初は一台だったのに。」


「そうだな。」


「一台から始まって、二台になり、三台になり、

 今日で十台になりました。」


「増えるのは早いな。」


「最初の一台が一番大変でした。

 二台目からは、経験があるので早くなります。

 三台目からは、さらに早くなります。」


「経験が積み重なるということか。」


「はい。」


田中殿は十台を眺めながら言った。


「最初の一台を作った時のことを、覚えていますか。」


「覚えておる。」


「どんな気持ちでしたか。」


私はしばらく考えた。


「信じられなかった。」


「忠清さまが、ですか。」


「そうだ。

 黄泉の国で、からくり箱ができるとは、

 最初は信じていなかった。」


「今は。」


「今は、十台ある。」


田中殿は少し笑った。


「信じられないことが、信じられるものになりましたね。」


「そうだな。」



------------


十台を、各係に配備する作業が始まった。


作業場に二台。


仮判定所に二台。


閻魔庁に二台。


石工班の作業場に一台。


翻訳班の部屋に三台。


田中殿が設置の確認をしながら、

各係を回った。


私も一緒に回った。


翻訳班の部屋に設置した時、

スウェーデンボリ殿が静かに言った。


「これで、翻訳した内容をすぐに送れますね。」


「そうだな。」


「以前は、訳した紙を使いの者に渡していました。

 今は、訳した文字をそのまま送れます。」


「速くなるな。」


「はい。」


メッツォファンティ殿が何かを仰った。


スウェーデンボリ殿が訳す。


「七十の言葉を訳す速さより、

 からくり箱が届ける速さの方が速い、と。

 だから、訳すことに集中できる、と。」


「なるほど。」


私は頷いた。


「届けることは、からくり箱に任せる。

 人は、人にしかできないことに集中する。」


「忠清さまの言葉、また名言ですね。」


田中殿が笑った。


「今日で何度目だ。」


「数えていません。」


------------


石工班の作業場に設置した時、

久兵衛が自分で作ったからくり箱を、

静かに眺めていた。


「久兵衛。」


「はい。」


「自分が作ったものが、自分の作業場に来たな。」


「はい。」


久兵衛は静かに言った。


「不思議な気持ちです。」


「どういうことだ。」


「私が作ったものが、私のところに届く。

 作る者と、使う者が、同じになった。」


「そうだな。」


「生前は、作ったものがどこへ行くか、

 分からないことが多かった。

 石垣を作っても、誰が使うのか見えなかった。

 今は、見えます。」


「見えることが、良いのか。」


「はい。」


久兵衛は静かに言った。


「作ったものが使われる様子が見えると、

 もっと良いものを作りたくなります。」


私はその言葉を、静かに受け取った。


使われる様子が見えると、

もっと良いものを作りたくなる。


それが、職人というものなのかもしれない。



------------


全ての係への配備が終わった。


作業場に戻ると、田中殿が言った。

「十台になりましたね。」


「そうだな。」


「次は、何だいくらい必要でしょうか。」


「黄泉の国の係の数だけ、いずれ要るだろう。」



田中殿は静かに言った。

「増えるほど、繋がりが増えます。

 繋がりが増えれば、届く者が増えます。

 届く者が増えれば、意味が大きくなります。」


「スウェーデンボリ殿が言っていた言葉だな。」


「はい。」


田中殿は十台を眺めた。

「十台か。

 次は二十台、三十台と増やしていきましょう。」


「それが、ネットというものか。」


「もうすっかり、ネットという言葉を使いこなせるようになったんですね。

 小さく始まって、大きく広がる。それがネットワークの本質です。」


私はしばらく黙っていた。

「合議も、同じだったな。」


「どういうことですか。」


「最初は少人数で始まる。

 信頼が生まれれば、人が増える。

 人が増えれば、できることが増える。

 小さく始まって、大きく広がる。」


田中殿は静かに頷いた。

「忠清さまは、ネットワークを生前からやっていたんですね。」


「人と人を繋ぐことは、政の基本だからな。」



------------


私は書き留めた。


からくり箱、十台完成。各係に配備。


久兵衛「作ったものが使われる様子が見えると、

 もっと良いものを作りたくなります。」


田中殿「増え続けます。それが、ネットわあくというものです。」


私は筆を置いた。


一台から始まって、十台になった。


最初の一台を作る時が、一番大変だった。


だが、一台があったから、十台になれた。


何事も、最初の一つが大事だ。


最初の一つが、次を呼ぶ。


次が、また次を呼ぶ。


それが、広がるということだ。


黄泉国情報網計画。


十台が、揃った。


次は、その十台を正式に動かす番である。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ