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第五十七話「黄泉ネット開発計画56 翻訳」

第五十七話「黄泉ネット開発計画56 翻訳」


---------------


テキスト通信の仕組みが整い、各係が文章を送り合えるようになった。


情報が届くようになると、次の問題が出てきた。


言葉だった。


黄泉の国には、様々な時代、様々な国の者たちがいる。


日本語で書かれた報告書。


イタリア語で書かれた報告書。


英語で書かれた報告書。


フランス語で書かれた報告書。


それぞれが、からくり箱を使って情報を送るようになった。


だが、届いた文字が読めなければ、意味がない。


「スウェーデンボリ殿。」


私はスウェーデンボリ殿のもとへ向かった。


「はい。」


「閻魔様が以前、お話くださったことがありましたな。」


「黄泉ネットができた際には、

 翻訳班の取りまとめをせよ、というお言葉ですね。」


「その時が来た。」


スウェーデンボリ殿は静かに頷いた。


「承知しております。準備は、できています。」


「いつから。」


「黄泉ネットが動き始めた時から、

 少しずつ準備をしていました。」


「用意周到だな。」


「閻魔様のお言葉を、忘れておりませんでしたので。」



---------------



翻訳班が本格的に動き始めた。


スウェーデンボリ殿が全体を取りまとめた。


メッツォファンティ殿が、イタリア語・英語・フランス語の報告書を担当した。


七十の言葉を扱う方だけあって、次々と訳していく。


「メッツォファンティ殿。」


田中殿が感心したように言った。


「速いですね。」


「読むことは、話すことより速い。」


メッツォファンティ殿は穏やかに言った。


「七十の言葉を読めば、どの言葉も同じように見えてくる。

 言葉の違いより、意味の共通点の方が多い。」


「言葉が違っても、意味は同じということですか。」


「人が伝えたいことは、どの言葉でも似ている。不思議なものです。」


私はその言葉を、静かに受け取った。


言葉は違っても、意味は似ている。


黄泉の国には、様々な時代、様々な言葉の者たちがいる。


だが、皆が伝えたいことは、似ている。


「シャンポリオン殿。」


シャンポリオン殿が振り返った。


石工班からの報告書を訳している途中だった。


「何の報告書だ。」


後藤殿が通訳に入りながら訳した。

「久兵衛殿から、新しいガラスの加工方法について、

 ガラス職人たちへ伝達事項がある、と。

 以前は直接話していたが、

 今は文字で伝えられるので助かっている、と。」


「久兵衛が、文字で伝えるようになったのか。」


「はい。最初は慣れない様子でしたが、

 今は自分で文字を打っています。」


「久兵衛が文字打ち板を使っているとは。」

私は思わず笑った。


「あの方は、道具を使うのが上手い。

 自分が作ったものを、自分で使うようになった。」



シャンポリオン殿が、訳し終えた報告書を見ながら言った。


後藤殿が訳す。


「以前、私が古代の文字を読み解こうとした時、

 言葉が通じないことへの悔しさがありました、と。

 通じないままにしておくのが、惜しかった、と。」


「以前も同じことを言っておられた。」


私は静かに言った。


「はい。」


後藤殿が続けた。


「今は、通じる仕組みがある。

 黄泉ネットと翻訳班があれば、

 どの言葉でも届く。

 その悔しさが、ここで解消された気がする、と。」


田中殿が静かに言った。


「シャンポリオン殿がここに来た理由が、

 ここで回収されましたね。」


「そうだな。」


私は頷いた。


「通じないままにしておくのが惜しかった。

 その思いが、翻訳班の核心にある。」


スウェーデンボリ殿が静かに言った。


「私も、同じ思いでこの仕事をしています。

 魂の声を、届けること。

 言葉が違っても、意味を届けること。

 それが、私の役割です。」


「スウェーデンボリ殿。」


「はい。」


「翻訳班の取りまとめを、頼む。」


「承知しました。」


スウェーデンボリ殿は静かに頷いた。


「閻魔様のお言葉通りに、務めます。」



---------------



翻訳班が動き始めてから、

係の情報が一気に読みやすくなった。


言葉が違う者同士が作った報告書が、

翻訳を経て、誰でも読めるようになった。


「忠清さま。」


田中殿が言った。


「なんだ。」


「これを見てください。」


モニターに、様々な言葉の報告書が届いていた。


イタリア語の報告書が、日本語に訳されて届く。


英語の報告書が、日本語に訳されて届く。


石工班のガラス職人たちの報告書が、訳されて届く。


「全部、読めるようになったな。」


「はい。」


「生前、各地からの報告書が読めなくて、

 取りまとめに苦労したことがあった。

 言葉が違えば、意味が届かない。」


「今は届きますね。」


「そうだな。」


私はモニターを眺めた。


様々な言葉が、訳されて、届いている。


「これが、黄泉ネットの本当の力かもしれぬ。」


「どういうことですか。」


「情報が速く届くことだけが、力ではない。

 言葉が違っても届くことが、本当の力だ。」


田中殿は静かに頷いた。


「翻訳班があってこそ、ですね。」


「そうだな。

 技術だけでは、届かなかった。

 人があって、初めて届く。」





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私は書き留めた。


翻訳班、本格稼働。


スウェーデンボリ殿、翻訳班取りまとめ開始。


メッツォファンティ殿「言葉の違いより、意味の共通点の方が多い。」


シャンポリオン殿「通じないままにしておくのが、惜しかった。

 その悔しさが、ここで解消された。」


久兵衛、文字打ち板を使い始める。


私は筆を置いた。


言葉が違っても、意味は届く。


それが、黄泉ネットの本当の力だ。


技術が道を作り、

人が言葉を渡した。


道と言葉が揃って、初めて届く。


黄泉国情報網計画。


翻訳が、始まった。


次は、この仕組みを広げる番である。



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