第五十六話「黄泉ネット開発計画55 集まる情報」
第五十六話「黄泉ネット開発計画55 集まる情報」
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クライアントサーバーシステムが動き始めてから、
作業場の様子が変わった。
それまでは、田中殿や久世殿がからくり箱に向かっていた。
だが今は、他の係からも情報が届くようになっていた。
仮判定所から、判定の記録が届く。
閻魔庁から、業務の報告が届く。
「忠清さま。」
田中殿が言った。
「なんだ。」
「見てください。」
田中殿がモニターを指した。
画面に、文字が次々と現れていた。
仮判定所からの報告。
閻魔庁からの連絡。
「……情報が、集まっているな。」
「はい。係が、からくり箱を使って情報を送り始めました。」
「自然に使い始めたのか。」
「はい。使いの者を立てるより、
からくり箱の方が速いと分かれば、
皆、自然に使います。」
私はモニターを眺めた。
情報が、次々と届く。
「生前、各地から報告書が届く時と同じだな。」
「どういうことですか。」
「各地の代官や大名から、報告書が江戸に届いた。
情報が集まる場所が、政の中心になる。
今、この作業場が、その中心になっている。」
「なるほど。」
田中殿は静かに頷いた。
「ただ、速さが違う。」
「どれくらい違いますか。」
「生前は、地方からの報告書が届くまで、
早くて数日、遠ければ半月はかかった。」
「今は。」
「数息だ。」
田中殿は少し笑った。
「数息と半月では、全然違いますね。」
「そうだな。
この速さがあれば、問題が起きてもすぐに対応できる。
生前、対応が遅れて手が打てなかったことが、何度もあった。」
「松前藩のことですか。」
私はしばらく黙っていた。
「……そうだな。」
「忠清さまが黄泉ネットを作ろうとした理由の一つですね。」
「そうかもしれぬ。」
旭殿からの文字が届いた。
「仮判定所より。
本日の判定件数、三十二件。
特記事項、なし。
あっはっは。」
田中殿が笑った。
「旭殿、「あっはっは」も報告に入れてますね。」
「あの方らしい。」
私も思わず笑った。
「だが、三十二件という数が、数息で届いた。
生前なら、使いの者が走って半日かかっていた。」
「それが、今は数息。」
「そうだ。」
私はしばらく考えた。
「情報が速く届くと、何が変わるのだ。」
田中殿は少し考えてから言った。
「判断が速くなります。」
「判断が速くなる。」
「はい。情報が届かなければ、判断できません。
情報が遅ければ、判断も遅れます。
情報が速ければ、判断も速くなります。」
「つまり、情報の速さが、政の速さになるということか。」
「そうです。」
「生前も、同じことを思っておった。
だが、速くする手段がなかった。」
田中殿は静かに言った。
「今は、あります。」
「そうだな。」
私は頷いた。
「ようやく、手段が追いついた。」
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閻魔庁から、文字が届いた。
「閻魔庁より。
よき。」
また笑いが起きた。
「閻魔様、また「よき」だけですね。」
田中殿が笑った。
「それで十分なのだろう。」
私は言った。
「言葉が少ないのは、問題がないということだ。
多くの言葉が要る時は、問題がある時だ。」
「忠清さまも、普段は言葉が少ないですよね。」
「そうか。」
「はい。大事な時だけ、長く話します。」
「そういうものかもしれぬ。」
後藤殿が近づいてきた。
「情報が集まり始めて、一つ気づいたことがあります。」
「聞こう。」
「各係が送ってくる情報の量が、
まだバラバラです。
詳しく書く係もあれば、一言だけの係もある。」
「閻魔様のように、か。」
「はい。」
後藤殿は続けた。
「情報の書き方を、ある程度揃えた方がいいかもしれません。
書き方がバラバラだと、読む側が混乱します。」
「書式を統一する、ということか。」
「はい。」
私は少し考えた。
「生前、各地からの報告書も、同じ問題があった。
書式が煩雑で、読むのに時間がかかった。
統一してからは、格段に読みやすくなった。」
「では、黄泉ネットでも書式を決めますか。」
「決めよう。」
私は頷いた。
「久世殿に任せる。あの方は書式を整えるのが得意だ。」
田中殿が笑った。
「久世さん、また仕事が増えますね。」
「取りまとめとは、そういうものだ。
仕事は、できる者に集まる。」
久世殿が少し離れた場所から言った。
「聞こえています。」
「聞こえておってよい。
頼む。」
「はい。」
久世殿は静かに頷いた。
その顔は、困った様子ではなかった。
むしろ、少し嬉しそうだった。
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私は書き留めた。
各係からの情報、届き始める。
仮判定所、閻魔庁からの報告が数息で届く。
「生前は半月かかった。今は数息だ。」
情報の速さが、判断の速さになる。
書式統一の必要性が浮上。久世殿が担当。
私は筆を置いた。
情報が集まり始めた。
これが、政の中心になる。
生前、夢見ていたものが、
黄泉の国で形になった。
全ての情報が、数息で届く。
情報が届けば、判断できる。
判断できれば、動ける。
動ければ、変えられる。
黄泉国情報網計画。
情報が、集まり始めた。
次は、その情報を届ける番である。




