第五十三話「黄泉ネット開発計画52 一つ目の目的」
第五十三話「黄泉ネット開発計画52 一つ目の目的」
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少し、時が戻る。
作業場と仮判定所が線で繋がった日の翌日。
私は閻魔様のもとへ向かった。
現状を報告するためだった。
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閻魔様は静かに話を聞いてくださった。
「作業場と仮判定所が、線で繋がったと。」
「はい。情報が、数息で届くようになりました。」
「使いの者を立てずに、か。」
「はい。」
「使ったものはどう言っておる。」
「「便利でございます」と。」
閻魔様は少し笑われた。
私は続けた。
「閻魔様。次のお願いがございます。」
「なんだ。」
「閻魔庁にも、からくり箱を置かせていただきたい。
そうすれば、三か所が繋がります。」
閻魔様はしばらく考えてから仰せになった。
「閻魔庁の中に、そのようなものを置くのか。」
「はい。一台だけでございます。
閻魔庁からも、情報を送り受け取れるようになります。」
「報告書も、からくり箱で届くということか。」
「はい。使いの者が走る必要がなくなります。」
閻魔様はしばらく黙っておられた。
やがて仰せになった。
「よき。」
「ありがとうございます。」
私は深く頭を下げた。
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閻魔庁への三台目の設置が始まった。
久兵衛が三号機を運んだ。
アルベルトとヴィクトルが、線を仮判定所から閻魔庁まで引いた。
閻魔庁の中に、からくり箱が一台置かれた。
閻魔様が、そのからくり箱をじっと御覧になった。
しばらく、何も仰せにならなかった。
田中殿が接続を確認した。
「繋がっています。」
「閻魔様。」
私は申し上げた。
「文字打ち板の鍵を押すと、文字が届きます。
試していただけますか。」
閻魔様が、ゆっくりと文字打ち板の前に座られた。
鍵を一つ、押された。
かちり。
また一つ。
かちり。
作業場の一号機のモニターに、文字が現れた。
「よき。」
作業場が、静かになった。
それから。
誰かが笑い出した。
笑いが広がった。
「閻魔様の最初の文字も、「よき」でした。」
田中殿が笑いながら言った。
「閻魔様らしい。」
私も笑った。
「言葉は少ない方が良い時もある。」
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三か所が繋がった。
作業場、仮判定所、閻魔庁。
一本の線の上を、情報が走っている。
田中殿が私のもとへ来た。
「これが、最初の目的でしたね。」
「そうだな。」
「黄泉の国の係同士が、情報を共有できるようになる。」
「そうだな。」
田中殿は少し間を置いてから言った。
「……これが、網だな。」
私は田中殿を見た。
「忠清さまが最初に言った言葉です。
インターネットは網だ、と。」
「覚えておるか。」
「覚えています。」
田中殿は静かに言った。
「あの時はまだ、何も分かっていなかった。」
「そうだったな。」
「今は?」
私はしばらく黙っていた。
「……少しは分かる。」
田中殿は微笑んだ。
「それで十分です。」
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私は書き留めた。
そして、いつもより長く筆を走らせた。
下界二〇〇五年。
田中成也殿が黄泉の国に来た。
広間でぶつぶつ言っておった。
「下界のいんたーねっとが見たい。」
私はその声を聞いた。
そこから始まった。
まず、電気が必要だった。
黄泉の光を蓄える仕組みを作った。
ボルタ殿とファラデー殿が、光を力に変えた。
小さな光が灯った時、
スウェーデンボリ殿が言った。
「意味が、動き始めました。」
次に、映す仕組みが必要だった。
真空管が必要だった。
ラングミュア殿が真空を作り、
フレミング殿とド・フォレスト殿が管を設計した。
管が光った時、皆が拍手した。
ぶらうん管が必要だった。
高柳殿が設計し、久兵衛班ががらすを磨いた。
最初に画面に映った文字は「ひ」だった。
光の「ひ」。
始まりの「ひ」。
からくり箱が必要だった。
チューリング殿とおおえす班が設計し、
後藤殿が橋渡しをした。
起動しなかった夜があった。
誰も帰らなかった。
やがて「準備完了」の文字が映った。
おおえすが必要だった。
おおえす班が一年以上かけて作り直した。
黄泉の光の揺れ方に合わせた設計を、
後藤殿のぱらめとろんの経験が助けた。
「黄泉ネット、始動。」
という文字が映った日、
田中殿は何も言わなかった。
ただ、その文字を見ていた。
線が必要だった。
久兵衛班が、一歩一歩、丁寧に線を引いた。
シャノン殿の理論が、線の上を走る情報の届け方を決めた。
衝突しても、やり直せば届く。
そして今日。
三か所が繋がった。
作業場。仮判定所。閻魔庁。
これが、最初の目的だった。
黄泉の国の係同士が、情報を共有できるようになる。
使いの者を立てずに、情報が届く。
だが、これは始まりだ。
ここからが、本来の目的だ。
下界のいんたーねっとを黄泉の国から見ること。
田中殿が広間でぶつぶつ言っていたことが、
まだ終わっていない。
網はできた。
だが、網はまだ小さい。
広げれば、もっと多くの者に届く。
届く者が増えれば、意味が大きくなる。
スウェーデンボリ殿が言っていた言葉の通りに。
私は筆を置いた。
二〇〇五年から、今まで、約八年。
長い道のりだった。
だが、まだ途中だ。
黄泉国情報網計画。
網が、できた。
次は、この網を広げる番である。




