第五十話「黄泉ネット開発計画㊾ 道路」
第五十話「黄泉ネット開発計画㊾ 道路」
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シャノン殿の理論が完成してから、次の段階に入った。
線を引くことだった。
田中殿が久兵衛のもとへ向かった。
「久兵衛さん。線を引く作業をお願いしたいです。」
「はい。どこからどこへですか。」
田中殿が図を広げた。
「この作業場から、仮判定所まで。
まずはこの二か所を繋ぎます。」
久兵衛が図を眺めた。
「距離はどれくらいですか。」
「仮判定所まで、歩いて千歩ほどです。」
「久兵衛さん。準備していた線を、今日から引き始めましょう。」
「忠清さま。」
田中殿が私のもとへ来た。
「なんだ。」
「線をどこに引くか、改めて整理したいと思います。」
「聞こう。」
田中殿が図を広げた。
「まず、この作業場を中心にします。
ここからまずは仮判定係、その後それぞれの係へ、線を引きます。」
「中心から広げていくということか。」
「はい。一本一本、丁寧に引いていきます。」
私はその図を眺めた。
まず作業場から仮判定所へ。
線が増えるほど、繋がりが広がる。
「つまり、街道だな。」
田中殿が顔を上げた。
「街道?」
「情報が通る道だ。
どこに道を作るかで、情報の届き方が変わる。
生前、東廻海運・西廻海運を整備した時と同じだ。」
「東廻海運と西廻海運とは。」
「日本の東と西を海で繋ぐ航路だ。
物資が届く速さが、格段に変わった。
どこに道を作るかが、大事だということだ。」
田中殿は静かに頷いた。
「忠清さまの例え、今日もすごいです。」
「三百年分の街道の記憶から来ておる。」
「その街道の経験が、今日また役に立ちましたね。」
「無駄な経験は、ないのだろう。」
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久兵衛班が動き始めた。
アルベルトが金属の線を延ばす作業を担当した。
ヴィクトルが、線が外れないよう固定する作業を担当した。
ジョゼフが線をガラス管に通す作業を担当した。
久兵衛が全体を確認しながら進める。
シャンポリオン殿が、作業の指示の通訳に入った。
言葉はほとんど要らなかった。
職人たちは、仕事で通じ合っていた。
後藤殿が来た。
「線の引き方について、田中殿とシャノン殿が議論しています。」
「どんな議論だ。」
「どのルートで線を引くかです。
最短距離で引けば速いが、途中で壊れた時に修理が難しい。
少し遠回りでも、修理しやすいルートの方が長続きする、という話です。」
「また、失敗を前提とした設計か。」
「はい。シャノン殿らしい考え方です。」
「遠回りでも、長続きするものを選ぶ、か。」
私はしばらく考えた。
「生前の街道も、同じだった。
最短の道より、宿場が多くて人が集まる道の方が、
結果的に物資が届きやすかった。
最短が、必ずしも最善ではない。」
後藤殿が静かに頷いた。
「それを田中殿とシャノン殿に伝えてもいいですか。」
「どうぞ。」
後藤殿が二人のもとへ歩いた。
しばらくして、田中殿が振り返った。
「修理しやすいルートで引くことに決まりました。」
「そうか。」
「忠清さまの街道の話が、決め手になりました。」
「三百年前の話が、役に立ったか。」
田中殿は笑った。
「三百年前の話が、黄泉の国のネットワーク設計に活きるとは、
忠清さまも思っていなかったでしょう。」
「思っていなかったな。」
私も静かに笑った。
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線を引く作業が始まった。
久兵衛班が、作業場の外へ出た。
仮判定所への道を、慎重に歩きながら、
線を引いていく。
私もその様子を見に行った。
久兵衛が、線の端を持ちながら歩いている。
アルベルトが、線を地面に沿わせながら続く。
ヴィクトルが、要所要所で線を固定する。
ジョゼフが、最後を確認しながら歩く。
黄泉の国の白い光の下、
四人が黙って歩いていた。
「久兵衛。」
私は声をかけた。
「はい。」
「生前、道を作ることがあったか。」
「ありました。
城の石垣を作る時に、資材を運ぶための道を作りました。」
「今日と、同じか。」
「似ています。」
久兵衛は歩きながら言った。
「道は、作ることが大事ではありません。
使われることが大事です。」
「使われなければ、ただの道だ。」
「はい。この線も、使われてこそ意味があります。」
私はその言葉を、静かに受け取った。
使われてこそ、意味がある。
シャノン殿も同じことを言っていた。
理論も、線も、使われてこそ意味を持つ。
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私は書き留めた。
配線設計、完了。
久兵衛班、線の配線開始。
道は最短ではなく、修理しやすい道を選ぶ。
忠清の街道の経験が参考になった。
久兵衛「道は、使われることが大事です。」
私は筆を置いた。
街道を整備した時のことを思い出した。
道を作ることは、繋げることだ。
繋がれば、情報が届く。
情報が届けば、仕事ができる。
仕事ができれば、民が安心する。
あの頃も、今も、目指していることは同じだった。
誰かと誰かを繋げること。
黄泉国情報網計画。
道が、引かれ始めた。
次は、その道に情報を流す番である。




