第四十九話「黄泉ネット開発計画㊽ 共有」
第四十九話「黄泉ネット開発計画㊽ 共有」
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設計が固まってから、シャノン殿の動きが変わった。
それまでは田中殿や後藤殿と議論しながら設計図を書いていたが、
ある日から一人で机に向かうことが多くなった。
「シャノン殿は何をしているのだ。」
私は後藤殿に聞いた。
「理論の整理をしています。」
「整理とは。」
「設計図は固まりました。
ですが、シャノン殿は納得していない部分があるようです。」
「どこが納得できないのだ。」
「情報をどう分けて送るか、という部分です。
分け方によって、速さが変わります。
どう分ければ、最も効率よく送れるか。
それを、数字で証明しようとしています。」
「数字で証明する。」
「はい。感覚ではなく、理論として証明したい。
それがシャノン殿のやり方です。」
私はシャノン殿を眺めた。
机に向かい、紙に何かを書き続けている。
時々止まり、また書く。
また止まり、また書く。
「あの方は、いつもああなのか。」
「はい。」
後藤殿は静かに言った。
「答えが出るまで、止まらない方です。」
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数日後。
シャノン殿が顔を上げた。
田中殿と後藤殿を呼んだ。
設計図を広げた。
後藤殿が私を呼びに来た。
「忠清さま。シャノン殿から説明があります。」
「聞こう。」
全員が集まった。
シャノン殿が話し始めた。
後藤殿が訳す。
「小さく分けて送ることは、すでにご存じかと存じます。
今日は、もう一歩先の話をします、と。」
「もう一歩先とは。」
「正確に届けるための理論です、と。」
私は頷いた。
「分けて送るのは分かった。
だが、途中で順番が入れ替わったり、
情報が壊れたりすることはないのか。」
シャノン殿が何かを言った。
後藤殿が訳す。
「その問いが、核心だ、と。
情報は、送る途中で必ず乱れる。
乱れても正確に届けるための仕組みが、理論の要だ、と。」
「乱れても届けられるのか。」
「はい。情報は、形を変えても意味を保てます。
その性質があるから、乱れても取り出せる、と。」
「もう一つ、重要なことがある、と。」
シャノン殿が続けた。
「何だ。」
「情報には、必ず「ノイズ」が混じる、と。」
「のいず、とは。」
「余計なものです。
情報を送る途中で、関係のない信号が混じることがあります。
それがノイズです。」
「余計なものが混じると、情報が壊れるということか。」
「はい。ですので、ノイズが混じっても、
元の情報を取り出せる仕組みが必要です。」
私はしばらく考えた。
「昔の文書でも、同じ問題があった。
写し間違いが生じた時に、
元の意味を取り出せるよう、
重要な部分は二重に書いておくことがあった。」
後藤殿がシャノン殿に訳した。
シャノン殿が何かを言った。
「まさにその通りだ、と。
重要な情報を二重に送ることで、
片方が壊れても、もう片方から取り出せる、と。
忠清殿は、情報理論を生前から実践していた、と。」
田中殿が小声で言った。
「忠清さまって、どこでも通じますね。」
「三百年分の文書管理の成果だ。」
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昼を過ぎた頃。
田中殿が私のもとへ来た。
「シャノン殿の理論を聞いて、気づいたことがあります。」
「何だ。」
「情報を分けて送ることと、番号をつけることと、
ノイズに対処することの三つが揃えば、
どんな情報でも正確に届けられます。」
「三つが揃えば、届く、ということか。」
「はい。」
「それは……からくり箱と同じだな。」
「同じ、とは。」
「三つが揃えば動く。
「もにた」と、文字打ち板と、本体が揃えば動いた。
届けるためにも、三つが要る。」
田中殿はしばらく考えてから言った。
「……確かに、同じですね。」
「三つというのは、何かと区切りのいい数だ。」
「なぜですか。」
「一つは点だ。二つでは揺れる。三つで安定する。
生前、合議の場でも三人以上いれば、話がまとまりやすかった。」
田中殿が笑った。
「忠清さまの例え、今日も好きです。」
「長年の合議から来ておる。」
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夕方。
シャノン殿が設計図を閉じた。
田中殿と後藤殿に何かを言った。
後藤殿が訳す。
「理論は完成した、と。
あとは、実際に線を引いて試すだけだ、と。」
「シャノン殿。」
私はシャノン殿に向かって言った。
後藤殿が訳す。
「この理論を、黄泉の国のために使ってくれて、感謝する。」
シャノン殿は少し間を置いてから言った。
「理論は、使われてこそ意味を持つ、と。
私の理論が、ここで使われることを嬉しく思う、と。」
「ここ、とはどういう意味だ。」
「下界でも使われている。
しかし、ここは特別だ、と。」
「なぜだ。」
シャノン殿はしばらく考えてから言った。
「下界では、理論を使う目的が様々だ。
商売のため、戦いのため、娯楽のため。
しかしここでは、誰かに届けるためだけに使われている、と。
それが、一番純粋な使い方だ、と。」
作業場が、静かになった。
私はその言葉を、静かに受け取った。
誰かに届けるためだけに使われている。
それが、一番純粋な使い方だ。
「シャノン殿は、よく分かっておる。」
「そうですね。」
田中殿は静かに頷いた。
「この事業が何のためにあるか、分かっておられる。」
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私は書き留めた。
シャノン殿、情報の分割送信理論を完成。
情報を小さく分け、番号をつけて送る。
受け取った側で順番に組み立てる。
「のいず」が混じっても、二重に送ることで対処できる。
シャノン殿「理論は、使われてこそ意味を持つ。
誰かに届けるためだけに使われることが、一番純粋な使い方だ。」
私は筆を置いた。
情報は、形を変えても意味を保てる。
分けても、番号をつければ組み立てられる。
壊れても、二重にしておけば取り出せる。
これは、情報だけの話ではないかもしれない。
人の思いも、同じかもしれない。
形を変えても、意味は保てる。
途中で迷子になっても、番号があれば届く。
壊れても、二重に持っておけば取り出せる。
黄泉国情報網計画。
届ける理論が、完成した。
次は、その理論を線にする番である。




