第四十五話「黄泉ネット開発計画㊹ 一年」
第四十五話「黄泉ネット開発計画㊹ 一年」
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OS開発が始まってから、季節が変わった。
黄泉の国に季節はない。
だが、時間は確かに流れていた。
作業場の空気が、少しずつ変わっていくことで分かった。
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久兵衛班は、毎日パーツを作り続けていた。
二号機のための部品が、棚に少しずつ積み上がっていった。
ガラス管が並んだ。
金属の部品が並んだ。
文字打ち板の鍵が並んだ。
久兵衛が一つずつ確認しながら、棚に収めていく。
「久兵衛。」
私は声をかけた。
「はい。」
「随分と増えたな。」
「はい。二号機分は、ほぼ揃いました。」
「三号機分は。」
「半分ほどでございます。」
「一人でやっているのか。」
「アルベルト殿たちが手伝ってくれています。
言葉はなくても、仕事は通じます。」
「そうだな。」
私は棚を眺めた。
「久兵衛。お主が黄泉の国に来たのは、何年前だ。」
「三百年以上前でございます。
忠清さまとほぼ同じ頃かと。」
「そうだな。」
「はい。あの頃は、まさかこのような仕事をするとは
思っておりませんでしたが。」
久兵衛は静かに言った。
「石を積み上げることと、からくり箱のパーツを作ること、
やっていることは違います。
ですが、一つ一つ丁寧に作るという点では、同じです。」
「変わらぬのだな、お主は。」
「変わらなくていいものは、変わらない方が良いと思っています。」
私は頷いた。
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田中殿は、イーサーネットの設計を続けていた。
シャノン殿と後藤殿が隣に座り、
議論しながら設計図を書き直していった。
田中殿が顔を上げた。
「進んでいるか。」
「はい。設計はほぼ固まりました。」
「どれくらいで完成する。」
「設計自体は、あと少しです。
ただ、実際に線を引くのは、からくり箱が二台揃ってからです。」
「二号機が完成したら、すぐに繋げられるということか。」
「はい。準備はできています。」
田中殿は設計図を見ながら言った。
「忠清さま。イーサーネット、「網」の一番のポイントは何だと思いますか。」
「問うてどうする。」
「忠清さまの答えが聞きたいんです。
いつも面白い例えをされるので。」
私はしばらく考えた。
「一本の道を、皆が使えることか。」
「なぜですか。」
「一人のために道を作れば、その人しか使えない。
皆が使える道を作れば、情報が広がる。
生前、街道を整備した時もそうだった。
道は、使う者が多いほど、意味が大きくなる。」
田中殿は静かに頷いた。
「……それです。
イーサーネットの本質は、共有することです。
一本の線を皆で使う。
それだけで、情報が届くようになる。」
「期待しておる。」
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高柳殿はモニターの改良を続けていた。
二号機用、三号機用のモニターが少しずつ形になっていった。
「高柳殿。」
私は声をかけた。
「はい。」
「一号機の「もにた」と、比べてどうだ。」
高柳殿は改良版のモニターと一号機のモニターを並べた。
「鮮明さが、少し上がりました。」
「分かるものか。」
「分かります。」
高柳殿は静かに言った。
「自分で作ったものの変化は、自分が一番分かります。」
「そうか。」
「ただ、使う者には分からないかもしれません。」
「分からなくていいのか。」
高柳殿は少し考えてから言った。
「分からなくていいと思っています。
使う者が、気持ちよく使えれば、それで十分です。
作った者が自己満足するためのものではありません。」
「映すことの本質は、届けることだ、と言っておったな。」
「はい。」
高柳殿は微笑んだ。
「忠清さまは、私の言葉を覚えていてくださっているのですね。」
「大事な言葉は、覚えておる。」
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ボルタ殿とファラデー殿は、電力の安定性をさらに上げるための研究を続けていた。
後藤殿が来た。
「ファラデー殿から報告がありました。」
「何だ。」
「黄泉の光の揺れ方が、季節によって少し変わる可能性があります。」
「季節によって。」
「はい。黄泉の国に季節はありませんが、
流れ込んでくる魂の数が、時期によって違うようです。
魂の数が変わると、光の揺れ方が変わる。」
「つまり、電力の揺れ方も変わるということか。」
「そういうことです。
TRINチームの時間の刻みの問題にも、影響するかもしれません。」
「「とりん」には伝えたか。」
「はい。すでに共有しました。
設計に組み込めないか、検討中だそうです。」
「連携が取れているな。」
「週一回の寄合のおかげです。」
「そうだな。」
私は頷いた。
週一回、スウェーデンボリ殿、久世殿と行う寄合。
各班の進捗を確認し、問題を共有する。
生前の合議と同じだった。
問題が小さいうちに見つければ、大きくならない。
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TRINチームは、一号機に向かい続けていた。
文字打ち板を叩く音が、毎日作業場に響いていた。
阿部殿が設計図を書き直す。
稲葉殿が実装する。
久世殿が記録する。
堀田殿が全体を見渡す。
進んでいるのかどうか、外からは分かりにくかった。
ある日、私は堀田殿に聞いた。
「進んでいるか。」
「はい。」
「どれくらい進んだのだ。」
堀田殿は少し考えてから言った。
「忠清さまに分かりやすく言うと、
山の半分を登ったくらいです。」
「山の頂上が見えるか。」
「見えてきました。
ただ、山の上の方が急なので、
時間がかかるかもしれません。」
「最後が一番難しい、か。」
「はい。」
「分かった。引き続き頼む。」
「はい。」
堀田殿は頷いた。
「忠清さまは、毎回同じことを聞いてくださいますね。」
「進んでいるかどうかが、一番大事だからだ。」
「そうですね。」
堀田殿は少し笑った。
「問題が起きた時は、すぐに報告します。」
「頼む。」
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そうして、一年が経った。
作業場は変わらず動いていた。
ただ、棚に積まれたパーツが増えていた。
イーサーネットの設計図が完成していた。
モニターの改良版が二台完成していた。
二号機のパーツが全て揃っていた。
そして。
TRINチームの文字打ち板を叩く音が、
以前より速くなっていた。
田中殿が来た。
「TRINチームから連絡がありました。」
「何だ。」
「もうすぐです、と。」
私は静かに頷いた。
「そうか。」
「嬉しくないんですか。」
「嬉しい。」
「顔に出ていませんよ。」
「三百年以上、待つことに慣れてしまった。」
田中殿は少し笑った。
「待ってくれていて、ありがとうございます。」
私は田中殿を見た。
「私は、ただ待っただけだ。」
「それが一番大事だったんです。」
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私は書き留めた。
「おおえす」開発、一年が経過。
久兵衛班、二号機のパーツを全て作り貯める。
田中殿、網の設計完成。
高柳殿、改良版もにた二台完成。
おおえす班「もうすぐです。」
私は筆を置いた。
一年。
黄泉の国では、時間の流れが分かりにくい。
だが確かに、一年が経った。
その一年で、皆が動いていた。
待つことも、仕事だ。
信じて待つことが、取りまとめ役の仕事だ。
黄泉国情報網計画。
もうすぐ、その仕組みが完成する。
次は、完成を待つ番である。




