表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
43/72

第四十三話「黄泉ネット開発計画㊷ 考える仕組みを作る」

第四十三話「黄泉ネット開発計画㊷ 考える仕組みを作る」



----------


からくり箱一号機が完成してから、数日が経った。


作業場の空気が、また変わった。


一号機が動いたことへの余韻は、まだあった。


だが、TRINチームの四人の顔は、すでに次を向いていた。


堀田殿が全員を集めた。

「OS開発を始めます。」


作業場が静かになった。

「モニター、文字打ち板、からくり箱本体。

 三つが揃いました。

 これで、ようやく開発できます。」


「ようやく、だな。」


私は言った。


「はい。」


堀田殿は静かに答えた。

「三つが揃うまで、設計を温めていました。」


「温めていた、とは。」


「頭の中で、何度も作り直していたということです。

 実際には作れないのに、考え続けていた。」


阿部殿が続けた。

「下界で作っていたTRINのOSは、

 下界の環境を前提にしていました。

 黄泉の国の環境は違う。

 だから、そのまま使えない部分がある。

 その違いを、ずっと整理していました。」


「どれくらい違うのだ。」


稲葉殿が答えた。

「電力の性質が違います。

 携帯電話の半導体を使っていますが、

 下界で使われていた状態とは違う環境にあります。

 その違いに合わせて、OSを作り直す必要があります。」


久世殿が付け加えた。

「どれくらい時間がかかりますか、という話ですが、

 半年から一年は見ておいた方がいいと思います。」


私は頷いた。

「時間がかかることは分かった。

 ただ、その間、他の班は何をするのだ。」


田中殿が答えた。

「私はイーサーネット、「網」の設計を進めます。

 からくり箱が複数台できた時に、

 すぐに繋げられるよう準備しておきます。」


「他は。」


「高柳殿がモニターの改良と複数台製造。

 久兵衛班が二号機以降のパーツを作り貯める。

 電力班が電力の安定性をさらに上げる。

 真空管班が量産体制を整える。」


「誰も手が空かぬな。」


「はい。」


田中殿は笑った。

「それが良い状態です。」



----------


OS開発が始まった。


TRINチームが一号機の前に集まった。


堀田殿が最初に文字打ち板を触れた。


かちり。


画面に「a」が映った。


「英語の入力はできますね。」


阿部殿が頷いた。

「OSは英語で書きます。

 日本語入力はOS完成後に対応します。」


「では、始めましょう。」


堀田殿が設計図を広げた。


分厚い紙の束だった。

「これが、生前のTRINのOSの設計図です。

 下界でほぼ完成させていたものです。」


稲葉殿が別の紙を取り出した。

「こちらが、黄泉の国の環境との違いをまとめたものです。

 この二つを照らし合わせながら作り直します。」


久世殿が記録帳を開いた。

「進捗は私が記録します。

 週一回、忠清さまとスウェーデンボリ殿に報告します。」


「頼む。」

私は頷いた。


後藤殿が前に出た。

「私はチューリング殿との橋渡しをしながら、

 技術的な相談に乗ります。

 OSと、からくり箱の設計に明るい者として、

 必要な時に入ります。」


「後藤殿も残ってくれるのか。」


「はい。生前、私が目指していたことと、

 これは同じ方向にあります。

 最後まで見届けたい。」

後藤殿は静かに言った。


私はその言葉を、静かに受け取った。



----------


その日の昼過ぎ。


田中殿が私のもとへ来た。

「忠清さま。少し報告があります。」


「なんだ。」


「イーサーネット、「網」の設計を始めました。

 シャノン殿と後藤殿に手伝ってもらいながら進めます。」


「どれくらいかかる。」


「半年もあれば、設計は終わります。

 初期のイーサーネット、「網」の仕組みは案外単純なので。」



----------



夕方。


私は作業場全体を見渡した。


TRINチームが一号機に向かっている。


田中殿がイーサーネットの設計図を広げている。


高柳殿がモニターの改良に向かっている。


久兵衛班が二号機のパーツを黙々と作っている。


ボルタ殿とファラデー殿が電力の測定を続けている。


真空管班が量産の体制を整えている。


翻訳班が各班の間を行き来している。


誰も手が空いていない。


皆が、それぞれの持ち場で動いている。


スウェーデンボリ殿が近づいてきた。

「最初は、忠清殿と田中殿の二人でしたね。」


「そうだな。」


「今は、これだけの者たちがいる。

 それぞれが、それぞれの役割を持って動いている。」


「意味が、少しずつ大きくなっていますね。」


私はその言葉を、静かに受け取った。


意味が、少しずつ大きくなる。


スウェーデンボリ殿が最初にそう言っていた。


あの言葉の通りになっていた。


「スウェーデンボリ殿。」


「お主が最初に言った言葉を、覚えているか。」


「意味が、動き始めました、という言葉ですか。」


「そうだ。」

 あの言葉が、ここまで来た。」


スウェーデンボリ殿は静かに微笑んだ。


「まだ、動き続けています。」



----------



私は書き留めた。


おおえす開発、開始。

生前のおおえすを参考に、黄泉の国の環境に合わせて作り直す。

期間:半年〜一年の見込み。


田中殿、「網」の設計を並行して開始。

シャノン殿・後藤殿と連携。


各班、並行作業の体制整う。


後藤殿「生前、私が目指していたことと同じ方向にある。最後まで見届けたい。」


私は筆を置いた。


三つが揃った。


だから始められた。


一つ欠けても、始められなかった。


からくり箱本体が欠けても。


モニターが欠けても。


文字打ち板が欠けても。


三つが揃ったから、考える仕組みを作れる。


合議も同じだ。


一人が欠けても、合議は成立しない。


全員が揃って、初めて動ける。


黄泉国情報網計画。


考える仕組みを作る時が、来た。


次は、その仕組みが完成する番である。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ