第四十三話「黄泉ネット開発計画㊷ 考える仕組みを作る」
第四十三話「黄泉ネット開発計画㊷ 考える仕組みを作る」
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からくり箱一号機が完成してから、数日が経った。
作業場の空気が、また変わった。
一号機が動いたことへの余韻は、まだあった。
だが、TRINチームの四人の顔は、すでに次を向いていた。
堀田殿が全員を集めた。
「OS開発を始めます。」
作業場が静かになった。
「モニター、文字打ち板、からくり箱本体。
三つが揃いました。
これで、ようやく開発できます。」
「ようやく、だな。」
私は言った。
「はい。」
堀田殿は静かに答えた。
「三つが揃うまで、設計を温めていました。」
「温めていた、とは。」
「頭の中で、何度も作り直していたということです。
実際には作れないのに、考え続けていた。」
阿部殿が続けた。
「下界で作っていたTRINのOSは、
下界の環境を前提にしていました。
黄泉の国の環境は違う。
だから、そのまま使えない部分がある。
その違いを、ずっと整理していました。」
「どれくらい違うのだ。」
稲葉殿が答えた。
「電力の性質が違います。
携帯電話の半導体を使っていますが、
下界で使われていた状態とは違う環境にあります。
その違いに合わせて、OSを作り直す必要があります。」
久世殿が付け加えた。
「どれくらい時間がかかりますか、という話ですが、
半年から一年は見ておいた方がいいと思います。」
私は頷いた。
「時間がかかることは分かった。
ただ、その間、他の班は何をするのだ。」
田中殿が答えた。
「私はイーサーネット、「網」の設計を進めます。
からくり箱が複数台できた時に、
すぐに繋げられるよう準備しておきます。」
「他は。」
「高柳殿がモニターの改良と複数台製造。
久兵衛班が二号機以降のパーツを作り貯める。
電力班が電力の安定性をさらに上げる。
真空管班が量産体制を整える。」
「誰も手が空かぬな。」
「はい。」
田中殿は笑った。
「それが良い状態です。」
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OS開発が始まった。
TRINチームが一号機の前に集まった。
堀田殿が最初に文字打ち板を触れた。
かちり。
画面に「a」が映った。
「英語の入力はできますね。」
阿部殿が頷いた。
「OSは英語で書きます。
日本語入力はOS完成後に対応します。」
「では、始めましょう。」
堀田殿が設計図を広げた。
分厚い紙の束だった。
「これが、生前のTRINのOSの設計図です。
下界でほぼ完成させていたものです。」
稲葉殿が別の紙を取り出した。
「こちらが、黄泉の国の環境との違いをまとめたものです。
この二つを照らし合わせながら作り直します。」
久世殿が記録帳を開いた。
「進捗は私が記録します。
週一回、忠清さまとスウェーデンボリ殿に報告します。」
「頼む。」
私は頷いた。
後藤殿が前に出た。
「私はチューリング殿との橋渡しをしながら、
技術的な相談に乗ります。
OSと、からくり箱の設計に明るい者として、
必要な時に入ります。」
「後藤殿も残ってくれるのか。」
「はい。生前、私が目指していたことと、
これは同じ方向にあります。
最後まで見届けたい。」
後藤殿は静かに言った。
私はその言葉を、静かに受け取った。
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その日の昼過ぎ。
田中殿が私のもとへ来た。
「忠清さま。少し報告があります。」
「なんだ。」
「イーサーネット、「網」の設計を始めました。
シャノン殿と後藤殿に手伝ってもらいながら進めます。」
「どれくらいかかる。」
「半年もあれば、設計は終わります。
初期のイーサーネット、「網」の仕組みは案外単純なので。」
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夕方。
私は作業場全体を見渡した。
TRINチームが一号機に向かっている。
田中殿がイーサーネットの設計図を広げている。
高柳殿がモニターの改良に向かっている。
久兵衛班が二号機のパーツを黙々と作っている。
ボルタ殿とファラデー殿が電力の測定を続けている。
真空管班が量産の体制を整えている。
翻訳班が各班の間を行き来している。
誰も手が空いていない。
皆が、それぞれの持ち場で動いている。
スウェーデンボリ殿が近づいてきた。
「最初は、忠清殿と田中殿の二人でしたね。」
「そうだな。」
「今は、これだけの者たちがいる。
それぞれが、それぞれの役割を持って動いている。」
「意味が、少しずつ大きくなっていますね。」
私はその言葉を、静かに受け取った。
意味が、少しずつ大きくなる。
スウェーデンボリ殿が最初にそう言っていた。
あの言葉の通りになっていた。
「スウェーデンボリ殿。」
「お主が最初に言った言葉を、覚えているか。」
「意味が、動き始めました、という言葉ですか。」
「そうだ。」
あの言葉が、ここまで来た。」
スウェーデンボリ殿は静かに微笑んだ。
「まだ、動き続けています。」
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私は書き留めた。
おおえす開発、開始。
生前のおおえすを参考に、黄泉の国の環境に合わせて作り直す。
期間:半年〜一年の見込み。
田中殿、「網」の設計を並行して開始。
シャノン殿・後藤殿と連携。
各班、並行作業の体制整う。
後藤殿「生前、私が目指していたことと同じ方向にある。最後まで見届けたい。」
私は筆を置いた。
三つが揃った。
だから始められた。
一つ欠けても、始められなかった。
からくり箱本体が欠けても。
モニターが欠けても。
文字打ち板が欠けても。
三つが揃ったから、考える仕組みを作れる。
合議も同じだ。
一人が欠けても、合議は成立しない。
全員が揃って、初めて動ける。
黄泉国情報網計画。
考える仕組みを作る時が、来た。
次は、その仕組みが完成する番である。




