第四十二話「黄泉ネット開発計画㊶ 一号機」
第四十二話「黄泉ネット開発計画㊶ 一号機」
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「準備完了」という文字が画面に映ってから、しばらく、誰も動かなかった。
やがて田中殿が、文字打ち板に手を置いた。
「試してみてもいいですか。」
「どうぞ。」
田中殿が、文字打ち板の鍵を一つ押した。
かちり。
モニターに、文字が現れた。
「あ」
という一文字だった。
また押した。
かちり。
「い」
また押した。
かちり。
「う」
田中殿が振り返った。
「打った文字が、画面に映ります。」
私は静かに言った。
「文字打ち板が、からくり箱に届いているのだな。」
「はい。」
「からくり箱が、モニターに届けているのだな。」
「はい。」
「三つが、繋がった。」
「はい。」
田中殿は静かに笑った。
「三つが揃えば動く、と最初に言いましたよね。」
「言ったな。」
「動きました。」
「そうだな。」
全員が、文字打ち板を試した。
ボルタ殿が一文字押した。
かちり。
画面に何かが映った。
ボルタ殿が驚いた顔をした。
メッツォファンティ殿が訳す。
「自分が押したものが、画面に映った、と。
魔法のようだ、と。」
田中殿が笑った。
「魔法ではありません。電気です。」
「電気も、魔法のようなものだ。」
私は言った。
「見えないものが、見えるものを動かす。
魔法と何が違うのだ。」
田中殿は少し考えてから言った。
「理由が分かっているかどうかです。」
「理由が分かれば、魔法ではなくなるのか。」
「はい。理由が分かれば、繰り返せます。
繰り返せれば、使えます。」
「使えるものになった時、魔法は技術になる、ということか。」
田中殿は静かに頷いた。
「忠清さまの言葉、今日も好きです。」
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ド・フォレスト殿が文字打ち板の前に座った。
しばらく、鍵を眺めていた。
メッツォファンティ殿を介して言った。
「どの鍵を押せばいいのか分からない、と。」
「日本語の文字が並んでいるからな。」
私は言った。
「ど・ふぉれすと殿の言葉は何語だ。」
「英語です。」
田中殿が言った。
「文字うち版に英語の表記が必要ですね。」
「そうだな。」
「次の課題ができました。」
「課題は尽きぬな。」
「それが面白いところでもあります。」
ド・フォレスト殿が何かを仰った。
「日本語は読めないが、鍵を押すと何かが映るという仕組みは分かった、と。
電気が文字を届ける、と。
これは、私が真空管で実現したかったことと同じだ、と。」
「同じ、とは。」
「電気で何かを伝える、ということだ、と。」
私はしばらく黙っていた。
「真空管も、からくり箱も、黄泉ネットも。
全部、電気で何かを伝えることだ。」
「そういうことです。」
田中殿が静かに言った。
「最初から、目指していたものは同じでした。」
堀田殿が私のもとへ来た。
「一号機が完成しました。」
「そうだな。」
「感慨深くないですか。」
私はしばらく考えてから言った。
「感慨深い。」
「どんな気持ちですか。」
「……言葉にするのが難しい。」
堀田殿は少し笑った。
「忠清さまが言葉にできないのは珍しいですね。」
「そうかもしれぬ。」
私はからくり箱を見た。
四角い、小さな箱だった。
この箱を作るために、どれだけの者たちが動いたか。
真空管を作った者たち。
ガラスを磨いた者たち。
電力を安定させた者たち。
文字打ち板を作った者たち。
言葉を繋いだ者たち。
夜通し問題を探した者たち。
全ての者たちの積み重ねが、この箱を動かした。
「堀田殿。」
「はい。」
「次はお主たちの番だ。」
「はい。」
「この箱に、考える仕組みを入れてくれ。」
堀田殿は静かに頷いた。
「必ず入れます。」
その顔に、迷いはなかった。
堀田殿がTRINチームを見た。
阿部殿が設計図を取り出した。
稲葉殿が道具を手に取った。
久世殿が記録帳を開いた。
言葉はなかった。
だが、全員が動き始めていた。
「この箱が、考えるようになる日を待つ。」
私は静かに言った。
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私は書き留めた。
からくり箱一号機、完成。
文字打ち板から打った文字が、もにたに映ることを確認。
三つが繋がった。
次の課題——おおえす開発。堀田殿たちが一号機を使って開発を始める。
英語用の文字打ち板も必要。今後の課題。
私は筆を置いた。
一号機が完成した。
だが、まだ空っぽだ。
空っぽの箱には、可能性がある。
これから、この箱に考える仕組みが入る。
その仕組みが入った時、この箱は本当のからくり箱になる。
空っぽであることが、今は価値だ。
何でも入れられる。
黄泉国情報網計画。
一号機が、完成した。
次は、この箱を賢くする番である。




