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第四十一話「黄泉ネット開発計画㊵ 再挑戦」

第四十一話「黄泉ネット開発計画㊵ 再挑戦」



----------


夜が明けた。


作業場には、まだ全員が残っていた。


チューリング殿が設計図に向かったまま、動いていなかった。


阿部殿が目を閉じて、何かを考えていた。


ド・フォレスト殿が、からくり箱の電力部分を静かに眺めていた。


後藤殿が、二人の間で静かに待っていた。


田中殿が、床に座ったまま紙に何かを書いていた。


久世殿が、記録帳を膝に乗せたまま目を閉じていた。


私は隅に座ったまま、その全員を眺めていた。

「久世殿。」


「はい。」

久世殿がすぐに目を開けた。


「少し休んでおったか。」


「目を閉じて、頭を休めていました。」


「そうか。」


「忠清さまは。」


「私も同じだ。」


久世殿は少し笑った。

「黄泉の国は、眠れなくて良かったのか悪かったのか。」


「今夜に関しては、良かったのだろう。」



----------



しばらくして。


田中殿が紙を持って立ち上がった。

「皆さん。」


全員が顔を上げた。


「もう一か所、修正できる部分を見つけました。」


チューリング殿が立ち上がった。


後藤殿が田中殿の紙をチューリング殿に見せた。


チューリング殿が紙を見た。


しばらく、何も言わなかった。


やがて静かに頷いた。


後藤殿が訳す。

「これだ、と。

 昨夜から探していたのは、これだ、と。」


阿部殿が前に出た。

「どこですか。」


「ここです。」


田中殿が紙の一か所を指さした。

「電力が入った時に、全ての部分が同時に動こうとしている。

 しかし、黄泉の光から作った電力は揺れ方が違うから、

 同時に動こうとすると、信号が乱れる。」


「では、どうする。」


「順番を決めます。

 まずここが動いて、落ち着いてから、次がここが動く。

 その順番を、設計に組み込みます。」


チューリング殿が何かを言った。


後藤殿が訳す。

「そのためには、小さな「待つ仕組み」が必要だ、と。

 電力が入ってから、少しだけ待って動き始める仕組みだ、と。」


ド・フォレスト殿が立ち上がった。


そして設計図を指さした。


後藤殿が訳す。

「真空管の設計で、同じ仕組みを使った。

 あの時の設計を参考にできる、と。」


田中殿が振り返った。

「本当ですか。」


「はい。真空管22号機の設計だ、と。

 あの時も同じ問題があった、と。」


田中殿が頷いた。

「……前回の失敗が、今回の答えになった。」


作業場が静かになった。


その言葉を、全員が静かに受け取った。



----------



ド・フォレスト殿が真空管の設計図を取り出した。


チューリング殿と並んで、二つの設計図を見比べた。


言葉は通じなかった。


だが、二人は図を指さしながら、何かを確かめ合っていた。


後藤殿が少し離れた場所で見ていた。


「後藤殿。訳さなくていいのか。」


私は聞いた。

「今は、図で話されています。

 言葉が要らないようです。」


「またか。」


「職人と理論家でも、図では通じるのですね。」


「そうだな。」


私は二人を見た。


ド・フォレスト殿がチューリング殿の設計図に何かを書き込んだ。


チューリング殿がそれを見て、また何かを書き加えた。


二人の間で、図が少しずつ変わっていった。


阿部殿が隣で確認しながら、実装の視点で意見を加えた。


稲葉殿が戻ってきた。


朝の早い時間に、また来てくれたのだろう。


「どうですか。」

稲葉殿が言った。


「進んでいる。」

私は答えた。


稲葉殿が三人の輪に加わった。



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修正が完了したのは、昼前だった。


全員が揃った。


ボルタ殿が電力の接続を確認した。


ファラデー殿が測定器を手に立った。


高柳殿がモニターの前に立った。


「今度こそ、と思いたいですね。」

田中殿が小声で言った。


「そうだな。」


「忠清さま、緊張していますか。」


「していない。」


「本当ですか。」


「……少し、しているかもしれぬ。」


田中殿は笑った。

「正直なところが好きです。」


「黙れ。」


「はい。」


作業場が静かになった。


「いきます。」


ボルタ殿が電力を繋いだ。



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しばらく、何も起きなかった。


昨夜と同じだった。


全員が、からくり箱を見ていた。


誰も動かなかった。


誰も息をしていないようだった。


そして。


からくり箱の内部で、音がした。


昨夜と同じ音だった。


だが今度は、消えなかった。


音が続いた。


モニターが光り始めた。


薄く、かすかに。


だが消えなかった。


光が、少しずつ強くなった。


モニターに、文字が現れ始めた。


一文字ずつ、ゆっくりと。


「き」


「ど」


「う」


「ち」


「ゅ」


「う」


「起動中」


という文字が、画面に映っていた。


誰も何も言わなかった。


全員が、その文字を見ていた。


しばらくして。


文字が変わった。


「じ」


「ゅ」


「ん」


「び」


「か」


「ん」


「り」


「ょ」


「う」


「準備完了」


という文字が、画面に映った。




----------


最初に声を上げたのは、ボルタ殿だった。


何かを叫んだ。


次に、ド・フォレスト殿が両手を上げた。


チューリング殿が静かに目を閉じた。


阿部殿が眼鏡を外した。


稲葉殿が両手を握りしめた。


久世殿が記録帳を胸に抱えた。


後藤殿が静かに頷いた。


高柳殿がモニターを見つめたまま、動かなかった。


田中殿は、何も言わなかった。


「準備完了」という文字を、静かに見ていた。


私も、何も言わなかった。


ただ、その文字を見ていた。


「準備完了」


準備が、完了した。



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しばらくして。


田中殿が振り返った。

「動きました。」


「そうだな。」


「夜通しかかりましたが。」


「そうだな。」


田中殿は少し笑った。


「忠清さまって、こういう時、素っ気ないですね。」


「感動しておる。ただ、言葉が出ない。」


田中殿は少し間を置いてから、静かに言った。

「……私もです。」


ド・フォレスト殿が、チューリング殿のもとへ歩いた。


何かを言った。


後藤殿が訳す。

「あなたの理論があったから、動いた、と。」


チューリング殿が何かを言った。

「あなたの経験があったから、解決できた、と。」


二人が、静かに向き合った。


言葉は通じなかった。


だが、その顔に書いてあった。




----------


私は書き留めた。


からくり箱、起動成功。


「準備完了」の文字が画面に映る。


修正点:電力入力のタイミング制御。

ド・フォレスト殿の真空管設計が答えになった。


田中殿「前回の失敗が、今回の答えになった。」


チューリング殿とド・フォレスト殿、図で通じ合う。


私は筆を置いた。


準備が完了した。


だが、これはまだ始まりだ。


おおえすはこれから作る。


からくり箱が増えるのはその後だ。


黄泉ねっとが動くのは、もっと先だ。


それでも今日は、確かに一歩進んだ。


前回の失敗が、今回の答えになった。


それで十分だ。


黄泉国情報網計画。


からくり箱が、動いた。


次は、この箱の中に、考える仕組みを入れる番である。



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