第三十五話「黄泉ネット開発計画㉞ 映った」
第三十五話「黄泉ネット開発計画㉞ 映った」
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改良が続いてから、数週間が経った。
高柳殿は毎日、モニターに向かった。
久兵衛班がガラスを磨き直した。
ファラデー殿が電磁石の精度を上げた。
ボルタ殿が電力の安定を細かく整えた。
田中殿とTRINチームが、制御装置の操作を最適化した。
ある朝。
高柳殿が作業を止めた。
設計図を静かに閉じた。
久兵衛を見た。
久兵衛が頷いた。
二人の間に、言葉はなかった。
しかし私には分かった。
何かが、完成した。
「高柳殿。」
私は声をかけた。
「はい。」
「できたのか。」
高柳殿はしばらく黙っていた。
やがて静かに言った。
「確かめてみましょう。」
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全員が集まった。
今回は、誰かが呼んだわけではなかった。
それぞれが、何かを感じ取って、自然に集まっていた。
ラングミュア殿が真空の状態を確かめた。
ボルタ殿が電力を確認した。
ファラデー殿が測定器を手に立った。
フレミング殿とド・フォレスト殿が並んで立った。
TRINチームの四人が後ろに並んだ。
久兵衛と職人たちが、作業場の隅に立った。
メッツォファンティ殿とシャンポリオン殿が、それぞれの位置に立った。
後藤殿が静かに傍らに立った。
スウェーデンボリ殿が、少し離れた場所で目を閉じた。
田中殿が、制御装置の前に座った。
高柳殿が、モニターの前に立った。
「田中君。」
「はい。」
「文字を入れてください。」
「何の文字ですか。」
高柳殿はしばらく考えた。
「黄泉の光。」
「はい。」
田中殿が制御装置を操作した。
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電力が入った。
電子銃が動き始めた。
電磁石に電気が流れた。
画面の上を、光が走り始めた。
一画、一画、丁寧に。
「黄」という文字が映った。
次に「泉」。
次に「の」。
次に「光」。
「黄泉の光」
という四文字が、画面に映っていた。
くっきりと。
はっきりと。
少し離れた場所からでも、読めた。
誰も動かなかった。
誰も何も言わなかった。
高柳殿が、その文字を見た。
一歩、前に出た。
また一歩。
文字に近づいた。
じっと見た。
画面の「黄泉の光」を、長い間、見ていた。
作業場に、静寂があった。
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やがて。
スウェーデンボリ殿が静かに目を開けた。
そして言った。
「映った、と。」
その一言だった。
だが、作業場が静かになった。
スウェーデンボリ殿が高柳殿の代わりに言った言葉だと、
全員が分かっていた。
高柳殿は、まだ画面を見ていた。
振り返らなかった。
誰も声をかけなかった。
しばらくして。
高柳殿が静かに振り返った。
その顔は、穏やかだった。
全員を見渡した。
そして、深く頭を下げた。
言葉はなかった。
だがその頭を下げる姿に、すべてが込められていた。
拍手が起きた。
静かに始まり、少しずつ大きくなった。
久兵衛が、静かに目を閉じた。
アルベルトが、ヴィクトルの肩を叩いた。
ジョゼフが、皺の刻まれた顔を緩めた。
ボルタ殿が何かを叫んだ。
ファラデー殿が、測定器を静かに下ろした。
ド・フォレスト殿が、珍しく静かに拍手していた。
フレミング殿が、穏やかに微笑んでいた。
ラングミュア殿が、両手を組んだ。
後藤殿が、静かに頷いた。
TRINチームの四人が、それぞれに顔を見合わせた。
メッツォファンティ殿が、いつもより大きな声で何かを言った。
シャンポリオン殿が、珍しく目を潤ませていた。
田中殿は、画面を見たまま動かなかった。
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拍手が静まった後。
私は高柳殿のもとへ歩いた。
「完成したな。」
高柳殿は静かに頷いた。
「はい。」
「生前、何を映したかったのだ。」
高柳殿はしばらく黙っていた。
やがて言った。
「誰かに、何かを伝えたかったのだと思います。」
「誰かに。」
「はい。具体的に誰というわけではありません。
ただ、誰かに伝わってほしかった。
見えないものを、見えるものにして、
誰かに届けたかった。」
私は静かに聞いていた。
「それが、映すことの本質だったのかもしれません。」
田中殿が後ろから言った。
「高柳さんが生前やろうとしていたことと、
黄泉ネットがやろうとしていることは、
同じですね。」
「そうだな。」
私は頷いた。
「見えないものを、見えるものにして、誰かに届ける。
それが、この事業の本質だ。」
高柳殿が静かに言った。
「忠清さまが取りまとめてくださったから、
映すことができました。」
「私は、ただ繋いだだけだ。」
「それが、一番大事だったんです。」
田中殿が言った。
「また同じことを言な、おぬしは。」
私は思わず言った。
田中殿は少し笑った。
「だって、本当のことですから。」
高柳殿も、静かに微笑んだ。
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その夜。
作業場に、賑やかな空気が流れた。
ボルタ殿が何かを語り、笑いが起きた。
ド・フォレスト殿が珍しく輪の中にいた。
ラングミュア殿が穏やかに笑っていた。
フレミング殿と高柳殿が、モニターを見ながら話していた。
久兵衛と職人たちが、静かに酒を酌み交わしていた。
TRINチームの四人が肩を並べていた。
後藤殿が、その全員を静かに眺めていた。
スウェーデンボリ殿とメッツォファンティ殿が、静かに話していた。
シャンポリオン殿が、作業場の文字を一つ一つ眺めていた。
田中殿が輪の中で笑っていた。
私はその輪を、少し離れた場所から眺めていた。
堀田殿が隣に来た。
「次は、からくり箱ですね。」
「そうだな。」
「モニターができた。次は、そのモニターに映すものを作る。」
「うむ。」
「長い道のりですね。」
「そうだな。」
私は輪を眺めながら言った。
「だが、確かに進んでいる。」
「はい。」
堀田殿は静かに微笑んだ。
「先祖も、きっと驚いていると思います。
忠清さまが、黄泉の国でこんなことをしているとは。」
「私も驚いておる。」
私は正直に言った。
「まさか黄泉の国で、映すものを作ることになるとは
思っておらなんだ。」
「でも、やり遂げましたね。」
「まだ途中だ。」
「そうでした。」
堀田殿は笑った。
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私は書き留めた。
モニター、完成。
「黄泉の光」という文字が、くっきりと映る。
高柳殿、深く頭を下げる。
スウェーデンボリ殿「映った、と。」
高柳殿「見えないものを、見えるものにして、誰かに届けたかった。」
私は筆を置いた。
映った。
「黄泉の光」という文字が、画面の中で光っていた。
この事業は、光から始まった。
黄泉の光が電力になり、
その電力が真空管を動かし、
真空管がブラウン管を動かし、
ブラウン管が画面に光を映した。
そしてその画面に映った最初の文字が、「ひ」だった。
光の「ひ」。
次に映った文字が「黄泉の光」だった。
光が、光を映し続けている。
黄泉国情報網計画。
モニターが、完成した。
次は、そのモニターと共に動く、からくり箱を作る番である。




