第三十四話「黄泉ネット開発計画㉝ 画面」
第三十四話「黄泉ネット開発計画㉝ 画面」
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「ひ」の文字が映ってから、作業場の空気が変わった。
証明されたことがある。
光が文字になる。
あとは、その文字をもっとくっきりと映すことだった。
高柳殿が毎日、モニターに向かった。
「ひ」の次に、別の文字を映した。
「は」が映った。
「る」が映った。
「か」が映った。
「な」が映った。
一文字ずつ、確実に映せるようになっていった。
田中殿が言った。
「「はるかな」という五文字が映りましたね。」
「はるかな、か。」
「はい。高柳さんが選んだ文字です。」
「何か意味があるのか。」
「……遠いところへ届く、という意味だそうです。」
私はしばらく黙っていた。
高柳殿は、映すことの意味を、ずっと考えていたのかもしれない。
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ある日。
高柳殿が、田中殿の携帯電話を持ってきた。
モニターの隣に置いた。
二つを並べて、じっと見た。
「何をしているのだ。」
私は聞いた。
「比べています。」
「何と何を。」
「私が作ったモニターと、この携帯電話の画面を。」
高柳殿は二つを交互に見た。
田中殿も近づいてきた。
しばらく、三人で並べて見た。
「……大きさは、こちらが勝っていますね。」
田中殿が言った。
「そうだな。」
高柳殿は頷いた。
モニターの方が、携帯電話の画面より遥かに大きかった。
「しかし。」
高柳殿は続けた。
「鮮明さは、まだ負けています。」
携帯電話の画面に映っている文字と、
モニターに映っている文字を見比べた。
確かに、携帯電話の方が細かく、くっきりしていた。
「それは、どうすれば改善できるのだ。」
「点の細かさです。」
高柳殿は言った。
「携帯電話は、目に見えないほど細かい点で文字を描いています。
私のモニターは、まだその点が粗い。」
「粗いとは、どれくらい違うのだ。」
田中殿が説明した。
「携帯電話の画面の点の細かさを百とすれば、
今のモニターは、まだ十か二十くらいだと思います。」
「十分の一か。」
「はい。」
私はしばらく考えた。
「それは、問題になるのか。」
高柳殿は少し考えてから言った。
「用途によります。」
「用途。」
「はい。小さい文字を読むなら、問題になります。
しかし、大きく映すことが目的なら、今でも十分使えます。」
「黄泉ネットで映す文字は、どちらが必要だ。」
「大きく、はっきりと映ることが大事です。
細かくなくてもいい。
離れた場所からでも読めることの方が、大切です。」
私は頷いた。
「つまり、用途が違う。」
「はい。携帯電話は、手で持って近くで見るものです。
私のモニターは、少し離れた場所から見るものです。
比べること自体、意味がないかもしれません。」
田中殿が言った。
「それぞれ、目的が違う道具ですね。」
「そうだな。」
私は言った。
「巡見使と、手紙を比べるようなものだ。
どちらが優れているかではなく、
何に使うかで決まる。」
高柳殿が静かに頷いた。
「忠清さまの言葉、いつも的を射ています。」
「三百年分の経験から来ている。」
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それからも、改良は続いた。
高柳殿と久兵衛班が、点の細かさを少しずつ上げていった。
最初は「十」だったものが、「二十」になり、「三十」になった。
「五十」を超えた頃、田中殿が言った。
「かなり鮮明になりましたね。」
「まだ携帯電話には及ばぬか。」
「はい。でも、離れた場所から読むなら、これで十分です。」
高柳殿が言った。
「文字だけを映すなら、これで使えます。」
「確かか。」
「はい。一つ、試してみてもいいですか。」
「どうぞ。」
高柳殿が制御装置に向かい、田中殿と何かを相談した。
しばらくして、モニターに文字が映った。
「黄泉の国 情報 開通」
という文字だった。
少し離れて見た。
読めた。
「読めますね。」
田中殿が言った。
「読める。」
私は静かに言った。
「文字が、届いている。」
高柳殿が穏やかに言った。
「これで、使えます。」
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皆が作業をひと段落し、休憩所に行った後も
私は作業場に残っていた。
モニターに映った「黄泉の国 情報 開通」という文字を、
しばらく眺めていた。
「黄泉の国 情報 開通」
これはまだ、試験的な文字だ。
実際に黄泉ネットが動く時には、
この文字が別の意味を持つことになる。
係から係へ、情報が届く。
仮判定の資料が、使いの者なしに届く。
閻魔様への報告が、数息で届く。
松前藩の時のように、遅れて届くことがなくなる。
「忠清さま。」
田中殿が来た。
「まだいたんですか。」
「少し見ていた。」
「モニターに何か書いてあると、見てしまいますよね。」
「そうだな。」
「忠清さまの目には、何が見えていますか。」
私はしばらく考えてから言った。
「届くものが、見えている。」
「届くもの?」
「情報が届く様子が、見える気がする。
まだ見えていないものが、これで見えるようになる。」
田中殿は静かに聞いていた。
「生前、届かなかった知らせがあった。
それが悔しかった。
これで、その悔しさが少し晴れる気がする。」
田中殿は何も言わなかった。
ただ、静かに頷いた。
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その夜。
私は書き留めた。
「もにた」、「はるかな」「黄泉の国 情報 開通」など複数の文字を映す。
携帯電話の画面と比較。
大きさはモニターが上。鮮明さはまだ携帯電話が上。
しかし、用途が違う。離れた場所から読むなら十分。
高柳殿「これで、使えます。」
私は筆を置いた。
用途が違う道具を比べても意味がない。
何に使うかで、十分かどうかが決まる。
モニターは、黄泉の国で情報を届けるための道具だ。
その目的には、今のモニターで十分だ。
黄泉国情報網計画。
画面が、使えるものになった。
次は、そのモニターを完成させる番である。




