第二十九話「黄泉ネット開発計画㉘ 光源」
第二十九話「黄泉ネット開発計画㉘ 光源」
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蛍光体の石が使えると分かってから、
高柳殿の作業が加速した。
ガラス板に石の粉を塗り、
電子を当てて光らせる実験が続いた。
小さな板では、確かに光る。
だが問題が出た。
「むらが出ています。」
高柳殿が言った。
田中殿が板を覗き込んだ。
確かに、光っている部分と、
光っていない部分があった。
「端の方が暗い。」
「はい。中心は明るいが、端になるほど暗くなります。
これが大きな画面になれば、もっと顕著になります。」
「均一に光らせるには、どうすればよいのだ。」
「二つの問題があります。」
高柳殿は指を立てた。
「一つ目は、電子の飛ばし方です。
電子を均一に飛ばさなければ、当たる場所に偏りが出ます。」
「二つ目は。」
「光源の問題です。
後ろから均一に光を当てる仕組みが必要です。
電子が当たった時だけでなく、
画面全体を均一に照らす光源が要ります。」
私は少し考えた。
「つまり、電力の問題と、光の問題が重なっているということか。」
「その通りです。」
「電力班と、光の専門家が必要だな。」
田中殿が頷いた。
「ボルタ殿とファラデー殿を呼びましょう。」
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ボルタ殿を呼ぶと、すぐに来た。
相変わらず、目が輝いていた。
高柳殿の問題を説明すると、
ボルタ殿はしばらく板を眺めてから、
何かを仰った。
メッツォファンティ殿が訳す。
「電力の供給が均一でないから、電子の飛び方が偏る。
電力を均一に供給すれば、改善できる、と。」
「できますか。」
「やってみる価値はある、と。」
ボルタ殿が電力の接続部分を確かめ始めた。
その間にファラデー殿が来た。
板を見て、測定器を取り出した。
光の揺れ方を測り始めた。
砂時計を手に、数値を記録する。
田中殿が小声で言った。
「ファラデーさん、また始まりましたね。」
「測定癖だな。」
「でも毎回、測定から答えが出てくるんですよね。」
「そうだな。」
私は頷いた。
「測ることを続ける者は、必ず何かを見つける。」
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しばらくして、ファラデー殿が顔を上げた。
スウェーデンボリ殿が訳す。
「この光の揺れ方が、不均一です。
揺れ方が場所によって違うから、明るさに差が出ています、と。」
「揺れ方が違う、か。」
「はい。中心と端では、電子の当たり方が違うため、
光の揺れ方も変わってしまう、と。」
田中殿が考え込んだ。
「揺れ方を均一にするには、どうすればいいんでしょう。」
ファラデー殿がしばらく考えてから言った。
スウェーデンボリ殿が訳す。
「黄泉の光の揺れ方を参考にすれば、
均一になるかもしれない、と。」
田中殿が目を丸くした。
「黄泉の光の揺れ方を、ですか。」
「はい。黄泉の光は、どこでも均一に揺れています。
その揺れ方を真似れば、画面の光も均一になるかもしれない、と。」
私は思わず天井を見上げた。
白く明けきらぬ光が、今日も変わらず満ちている。
あの光が、また答えを出してくれるのか。
「ファラデー殿。」
スウェーデンボリ殿を介して尋ねた。
「黄泉の光の揺れ方は、すでに分かっておられるのか。」
「はい。以前、五日間かけて測定しました。
その記録が残っています、と。」
田中殿が声を上げた。
「あの砂時計の測定ですね。
最初の頃に、五日間ずっと測っていましたね。」
「そうだ。あの測定が、ここでまた活きるのか。」
私は静かに感心した。
「ファラデー殿は、あの時から繋がりを見ていたのかもしれぬ。」
田中殿が言った。
「底をついたことがない、とはこういうことですね。」
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高柳殿がファラデー殿の話を聞いていた。
何かを考えるように、腕を組んでいた。
やがて言った。
「黄泉の光の揺れ方に合わせる、か。」
「高柳殿、何か思い当たることが。」
「生前、均一な発光のために様々な方法を試しました。
その中に、光源の揺れ方を揃えるという方法がありました。
しかしそれは、下界の光の性質を前提にしていた。」
「黄泉の光は、下界の光と違うのですな。」
「はい。だが、ファラデー殿の言う通り、
黄泉の光の揺れ方は均一です。
それを基準にすれば、新しい方法が作れるかもしれない。」
田中殿が言った。
「高柳さんとファラデーさんが繋がりましたね。」
「そうだな。」
私は頷いた。
「映す者と、電気を研究する者が、
黄泉の光という共通の土台で繋がった。」
スウェーデンボリ殿が静かに言った。
「黄泉の光は、この事業の根本にあります。
電池も、真空も、蛍光体も、そして今度は光源も。
全ての問題が、黄泉の光に繋がっています。」
私はしばらく黙っていた。
「そう言われれば、そうだな。」
「この事業は、黄泉の光を使う事業なのかもしれません。
黄泉の国にしかできない仕組みを作っている。」
田中殿が言った。
「下界では絶対に作れないものですね。」
「そうだ。」
私は静かに言った。
「だからこそ、意味がある。」
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ボルタ殿が電力の均一供給の改良を終えたのは、
三日後の夕方だった。
ファラデー殿が黄泉の光の揺れ方のデータを取り出し、
高柳殿に渡した。
高柳殿がそれを見ながら、設計図に書き込んだ。
「今夜、試してみます。」
「一人でか。」
「はい。まず私が確かめたい。」
「分かった。」
私は頷いた。
田中殿が少し心配そうに言った。
「夜通しになりませんか。」
「なるかもしれません。」
高柳殿は静かに言った。
「ですが、確かめたいことがある時は、
止まれないものです。」
「ラングミュア殿も、そうでしたな。」
「職人というのは、そういうものです。」
高柳殿は微笑んだ。
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翌朝。
私が作業場に来ると、高柳殿はいた。
少し疲れた表情であった。
だが顔は、穏やかだった。
「高柳殿。」
「はい。」
「どうだったか。」
高柳殿は板を私に見せた。
昨日より、光が均一になっていた。
端まで、同じ明るさで光っていた。
「できました。」
「できたのか。」
「はい。まだ改良の余地はありますが、
均一に光らせることができました。」
田中殿が覗き込んだ。
「……きれいですね。」
「きれいだな。」
私も静かに言った。
均一な光が、板全体に広がっている。
「高柳殿。」
「はい。」
「生前、初めて均一な発光ができた時は、どんな気持ちだったか。」
高柳殿はしばらく考えてから言った。
「……誰かに見せたかった、と思いました。」
「誰かに、か。」
「はい。こんなに綺麗なものができたから、
誰かに見せたかった。」
「今は。」
高柳殿は作業場を見渡した。
皆が集まってきていた。
「今は、見せられる人がたくさんいます。」
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その夜。
私は書き留めた。
均一な発光の問題、解決。
ボルタ殿の電力均一供給とファラデー殿の黄泉の光データを組み合わせた。
高柳殿、夜通しで試作。
黄泉の光がまた、問題の答えになった。
私は筆を置いた。
高柳殿の最後の言葉が残っていた。
「今は、見せられる人がたくさんいます。」
生前、誰かに見せたかったものを、
今ここで、たくさんの者たちに見せられる。
それは、黄泉の国ならではのことかもしれない。
時代も言語も超えた者たちが、
同じものを一緒に見ている。
黄泉国情報網計画。
光が、均一になった。
次は、その光で電子を動かす番である。




